川に投げ込み、引きずり回し…悪戯はむしろ歓迎?子供が大好きな神様「カクラサマ」とは

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川に投げ込み、引きずり回し…悪戯はむしろ歓迎?子供が大好きな神様「カクラサマ」とは

「こらっ、この罰当たりが!」

お仏壇の御本尊様はもちろんのこと、道端のお地蔵さんなんかにも悪戯する子がいると、よく怒られていましたが、近ごろはそういう光景も少なくなってきました。

路傍の仏様たち

とまぁ、とかく仏像は大切にせねばならぬもので、粗末にすると天罰が当たったり、大人に叱られたりしますが、世の中は実に広く、中には例外もあるようです。

粗末にしてもよい仏像なんて、本当にあるのでしょうか。その一例が柳田国男『遠野物語(とおのものがたり)』にあるので、今回はそれを紹介したいと思います。

川に投げ込み、引きずり回し、子供たちの玩具がわりに……

現代の岩手県遠野市に、むかし栃内(とちない)村がありました。村の中には琴畑(ことはた)という字があり、山奥の沢に五軒ばかりの家があったそうです。

その集落の入り口に、カクラサマと呼ばれる木製の仏像がありました。元々はちゃんとお堂の中に鎮座していたのですが、今は雨ざらしにされています。

と言うのも、実は子供たちがカクラサマを引っ張り出して玩具にし、川に投げ込んだりあちこち引きずり回したりしている内に、いちいちお堂の中へ戻すのが面倒になったのでしょう。

「また遊ぶんだから」と玩具をオモチャ箱に片づけないようなものですね。

子供たちに遊び倒されるカクラサマ

そんなことをしている内に、木製のカクラサマはゴリゴリと擦れ削れして、鼻も口も判らないくらいボロボロになってしまいました。

あんまりと言えばあんまりな仕打ち、ある時これではいけない!とある者が子供たちを本気で叱り飛ばし、カクラサマで遊ぶのを禁止したところ、却って祟りを受け、病いに寝込んでしまったそうです。

「こら、そなたはわしが大好きな子供たちに遊んでもらっているのを邪魔しおったな。許さぬ!」

「ひぇぇ、もう何も申しませぬから、どうぞご勘弁を……」

夢枕でカクラサマに叱られて、それ以来はもう誰も何も言わず、子供たちが遊び倒すに任せたということでした。

カクラサマの由来

そんなカクラサマの木像は遠野郷のあちこちにあり、誰が彫ったのか、いずれも鉈で叩きつけたような粗削りで、辛うじて仏様の顔が判るかどうか、特に誰も信仰する者はいなかったと言います(なら、何で作ったのでしょうね)。

どんな思いで彫ったのだろうか

ところで、どうしてカクラサマと呼ぶのかと言いますと、漢字で書いて「神座様」、本来は神様が各地を旅する途中で休んだ「かみくら」を指したものが、やがてその場所を守る土地神となったようです。

子供と遊ぶのが大好きなのは、ずっとその場所にいなければならない退屈を紛らわせてくれるからでしょうか。

似たような伝承は遠江小笠郡大池村(現:静岡県掛川市)東光寺の薬師仏(『掛川志』)、駿河安倍郡豊田村(現:静岡県静岡市)軍陣坊社の神像(『新風土記』)、そして信濃筑摩郡射手(現:長野県南西部)弥陀堂の木仏(信濃奇勝録)などに残っています。

世の中、色んな人がいるように、神仏にも色々な性格のヒトがいて、本当は恭しく祀られる子供と遊びたがっている神仏が、他にもいるかも知れませんね。

※参考文献:
柳田国男『遠野物語』集英社文庫、2011年6月

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