「真冬の荒れた海のそばに、独りで泊まる若い女。『訳アリ』を察した民宿の従業員が...」(神奈川県・50代女性) (2/3ページ)
「隣のテーブルの2倍くらい量があるような......」と私が驚いていると、頼んでもいない大瓶のビールが手元にどん、と置かれました。
「サービス。わけありなんだろ?」
驚いて顔をあげる私に女将さんらしき人がそう言って、コポコポとグラスにビールを注いでくれました。
「何だか映画みたい!」と困惑していると、今度は板前さんらしき方々が現れ、
「ね、ダンス好き? よかったらおじさんたちのダンス見る?」
とおどけて見せるなど、とにかくものすごいサービスです。民宿の方々は、どうやら私が何ごとか思いつめているかのように見えていたんだと思います。
2時間おきに話しかけてくれた夕食を終え、夜更けになっても、
「お布団、足りる?」「湯たんぽい入れますか」「明日の朝は一番風呂どうぞ」
と、民宿の皆さんが部屋のドア越しに、2時間おきに代わる代わる話しかけてくるんです。
いっそ、「自殺とかはしませんよ」とズバリ言ったほうが良いかも、なんて悩みながら朝を迎えました。
そして翌朝、チェックアウトの時間ちょうどに、民宿にレンタカーに乗った私の父が現れると、女将さんは安心したのかため息まじりの笑顔で送り出してくれました。

そんな彼女の姿に、「きっと過去には色んな『わけあり』のお客さんがいたのかな...」と、いろいろ想像しました。
それから1年後に、父は病死しました。けれど、父の命日にはあの時の伊豆での体験を懐かしく思い出します。
「忘れられない旅先でのエピソード」、教えて!
Kさんの身を案じて、色々と気を遣ってくれた民宿の人々。結果的には勘違いだったものの、Kさんにとっては温かい思い出になったようだ。