男心をまんまと手玉に…平安文学『伊勢物語』が描く、やんごとなき男女の恋愛ゲーム
今も昔も恋愛とは難しいもので、ひとたびモノにした相手であっても、それがいつまでも続く保証はありません。
結婚すればずっと一緒だと思っても、共に暮らす互いの思いは愛情に近く、とかく恋愛とは不安定なもの、むしろ不安定だからこその恋愛とも言えそうです。
今回は平安文学『伊勢物語(いせものがたり)』より、とある男女の恋愛模様を切り取った一場面を紹介。
ヒロインに思いを馳せる主人公。勝川春章『風流錦絵伊勢物語』より
何だか現代のトレンディ・ドラマを観ているようかのごとく刺激的なやりとりに、思わず共感する方も少なくないのではないでしょうか。
下紐を一人でほどくなんて……今は昔、ある男性が恋多きことで知られる女性と一夜を共にしました。
「……それじゃ、また今夜」
そうは言ってみたものの、彼女の心は離れてしまうかも知れない。男性は不安な気持ちをこう詠んで贈ります。
我ならで 下紐とくな あさがほの 夕影またぬ 花にはありとも
【意訳】私以外の者に下着の紐を解かせてはいけませんよ。朝顔は夕方までにしおれてしまう花だけれども……。
朝顔が夕方までにしおれてしまうように、きっとあなたも、今夜私が訪れるまでに心変わりしてしまっていることでしょう。
要するに「浮気するなよ!」と言いたいのですが、これに女性は返歌を詠んで贈ります。
二人して むすびし紐を ひとりして あひ見るまでは 解かじとぞ思ふ
【意訳】あなたと二人で結んだこの下着の紐を、一人でほどくようなことはしませんよ……。
パッと見ると「おっ!」と期待してしまいそうな歌ですが、よく見ると「あひ見るまでは」の主語が、必ずしもその男性とは限りません。
「私が『一人で下紐をほどく』なんて、そんな状況があるはずないでしょう?」
言い換えれば「別にあなたじゃなくても、一緒に下紐をほどいたり結んだりする相手なんて、他にいくらでもいるんですよ?」というメッセージにも解釈できます。
何なら自分の手を煩わせることなく「結びなさい(着せなさい)」「ほどきなさい(脱がせなさい)」と命じてさえいるのかも知れません。
思わず生唾を呑み込んでしまう……何だか、すごい世界っぽいですね。
終わりに三十七
昔、をとこ、色好みなりける女に逢へりけり。うしろめたく思ひけむ、
我ならで下紐とくなあさがほの夕影またぬ花にはありとも
返し、
二人してむすびし紐をひとりしてあひ見るまでは解かじとぞ思ふ※『伊勢物語』より
たったこれだけの短い文章に、女性の心変わりを恐れて必死な男性と、それを手玉に取っている女性の駆け引きが目に浮かぶようです。
「また逢いに来ますよ」「昔から『また、とお化けは出た例しがない』と言うけれど?」……なかなか手ごわい模様(イメージ)
『伊勢物語』にはこうした短くも刺激的なエピソードが散りばめられているので、もしよかったら読んでみて、お気に入りのエピソードを探してみると楽しいですよ!
※参考文献:
大津有一 校注『伊勢物語』岩波文庫、2014年5月日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan
