若年性アルツハイマーにかかった東大教授が苦しみの末に見つけたものとは? (2/2ページ)

新刊JP

特に克子さんの印象に残っているのは、晋さんのお母さんの引っ越しで車を出す時のこと。もともと運転は得意だった晋さんだったが、その日はハンドルを握ったまま「運転、どうするんだっけ?」と言ったまま発車させることができなかった。アルツハイマーというワードがちらつくなか、克子さんは病院で検査を受けるべきだということをいかに晋さんに伝えるか、思い悩むようになる。

認知症関係で受診を勧める家族の声に素直に耳を傾ける人は少ないという。自分が認知症などとは誰だって認めたくないし、まして晋さんは脳の専門家である。いかに傷つけずに病院の受診を勧めるかを考えた末、克子さんは「晋さんが克子さんの前でとった行動」をリスト化したメモを手渡すことにしたという。

検査を受けることにした晋さんだったが、克子さんが医師に告げられたのは、晋さんの脳の言語の分野が委縮しているという事実。その後、晋さんは若年性アルツハイマー病と診断された。ここから、晋さん克子さん夫婦の、認知症との日々が始まる。その毎日は病気との「闘い」という色合いは薄く、どちらかというと「共生」という方が近い。

抗わず、無理せず、隠さず、二人は認知症と向き合いながら豊かな人生を模索していく。晋さんは病気を公表し、病気についての講演を行うなど、社会とのかかわりを持ち続けた。そして、その傍らにはいつも克子さんの姿があった。

私がアルツハイマーになったということが、自分にとって最初は「なんでだ」と思っていました。けれども私は私であることがやっとわかった。そこまでに至るまでに相当格闘したわけですけど。(中略)「こういう病気はどうしようもない、何もできない」、多くの人がそういうことでこの病気を考えていると思います。私がそのことに対して皆さんに「そうではないんだよ」と言えることができれば一番いいのではないかと思います。(p.129より)

晋さんはこんな言葉で、同じ病気にかかった人にメッセージを送っている。誰もがかかりうる一方で、症状や周囲の人間としての関わり方などがあまり知られていない認知症。本書でつづられているこの病気を抱える人と、それを支える人の日常は、いつか読んだ人の人生を助けてくれるかもしれない。

(新刊JP編集部)

(※)「食と認知機能」についての意識調査(https://dm-net.co.jp/calendar/2021/030833.php

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