自己の意思とは無関係に手が勝手に動く。エイリアンハンド症候群の謎

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自己の意思とは無関係に手が勝手に動く。エイリアンハンド症候群の謎
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 人間の体はある意味、海底や宇宙の深淵のように神秘的で、研究すればするほど、驚かされることが多く、未だ解明されていない謎が残されている。

 専門家すら困惑するような興味深い症状のひとつに、自分の手が勝手に動き出し、まるで手そのものが意志を持っているかのような動きをする「エイリアンハンド症候群」と呼ばれるものがある。

 『静まれ俺の右手よ!』はあながち嘘じゃないのかもしれない。

・自分の意志と無関係に手が動くエイリアンハンド症候群
 「エイリアンハンド症候群」(AHS)は、日本語では「他人の手症候群」とも呼ばれている。

 手、あるいは腕が、まるで自分ではない誰かに操られているかのように、本人の意志とは関係なく勝手に独立して動き、とんでもなく奇異なことをする、非常に奇妙で珍しい運動・神経障がいだ。

 脳の損傷により引き起こされると考えられているが詳しいことはまだわかっていない。

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・まるで何かに操られているかのように手が動く
 患者本人の意思に関係なく、物に手を伸ばしたり、つかんだり、勝手なことをする。正常なほうの手で、勝手に動く手を抑え込んだり、頑なにつかんでいる指を無理やりはがさなくてはならなかったり、宙にあげた手を引き下ろさなくてはならないほどだ。

 もっと深刻なケースでは、エイリアンハンドが無理やり患者の口に食べ物を詰め込んだり、物を投げ捨てたり、勝手に服を着せたり脱がしたりする。

 更に押してはいけないボタンを押したり、ダイヤルを回したり、スイッチを入れたり切ったりと、とにかくさまざまなことをする。

 自己触知行動として現れることもあり、エイリアンハンドが顔を撫でる、手探りする、髪に指を滑らせる、つねる、引っ掻く、突く、はたく、極端な場合は自分を窒息させようとしたりする行為が見られることもある。

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 エイリアンハンドは、持ち主の意志とは正反対のことをして、まったく手に負えないことが多い。

 例えば、タバコを口にくわえて火をつけようとしても、エイリアンハンドがそれをむしりとってしまったり、電気のスイッチを入れようとすると、消してしまったりする。

 ボタンをかけようとすると、外そうとし、まるで互いに競争しているかのようだ。

 あらゆるケースにおいて、まるでエイリアンハンドが外部のなんらかの力で操られている、あるいは手そのものが意志をもっているかのように動く。

 そのため、その手を引き離したり、制止したり、時には怒鳴りつけたりして止めなくてはならないこともあるという。

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・エイリアンハンドには個性がある?
 この症状をもつ患者は、エイリアンハンドと会話したり、三人称で呼びかけたり、名前をつけたりすることもあるという。

 多くの場合、これらエイリアンハンドはそれぞれはっきりした個性を持っていて、まるで持ち主とは別個の存在であるかのように見えるところが興味深い。

 たいていは、少し困る程度で大きな被害はないが、ときに恐ろしい体験をし、悪魔のようなものに憑りつかれてしまったと感じる患者もいるという。

 症状が現れるのは、数分のこともあれば、数時間、ときには何年も続くこともある。ランダムに現われるが、その原因もはっきりしない。

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・エイリアンハンド症候群の最初の事例
 エイリアンハンドの症例は、1908年、ドイツの神経精神病学者であるカート・ゴールドシュタインによって初めて報告された。

 ある患者の手を診ていたところ、突然、その手がひとりでに動き出したのだ。

 手は持ち主の意志とは関係なく、例えば顔を拭いたり、目をこすったり、つかんだ物を離そうとしなかったりと、完全に自発的な動きをした。

 時に患者自身が、このわがままな手に話しかけたり、命令したりして、コントロールすることができることもある。

 だが、その動きは、意識的に手を動かしているときよりも遅く、正確でもない。この患者は右利きで、暴走したのは左手。

 興味深いのは、症状が出ている間は、左手は右手と同程度の制御力と器用さで物を操作し使うことができ、暴走していないときにできることをはるかに超えていたことだ。

 ゴールドシュタインは論文の中で、時間的、空間的認知、意志などの高い認知過程の脳構造が関わっているのではないかと提案するとともに、"運動失行の教義"と言われる、外部物体に対する自発的運動の発生に関する自分の考えを述べた。

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・現在も謎に包まれたエイリアンハンド症候群
 その後、エイリアンハンド症候群の報告例は極めて少なくなり、初めて記録された後は40~50件しか報告されず、研究もほとんど進まずに、その原因は謎のままとなった。

 脳の運動機能に関わる部位、特に動作や会話などの運動機能や計画や秩序などの認知機能をつかさどる前頭葉や、ふたつの大脳半球をつなぎ、互いにコミュニケーションをとるための脳梁に、なんらかの障害が起こったことが原因だと漠然と考えられている。

 エイリアンハンド症候群は、両半球が、互いのコミュニケーションラインと妥協を調整していく方法が、ほとんど独立して機能している状態だ。

 この症状は、体の動きをコントロールするさまざまな脳の部位間になんらかの断絶が生じ、脳のさまざまな部位が体に動きを指令しているときに、その動きに対する自制心を意識することができない状態になった結果、発症するという説もある。

 エイリアンハンド症候群と診断された患者のほとんどは、外傷、手術、動脈瘤、退行性脳疾患、脳卒中、損傷、腫瘍など、脳になんらかの損傷を受けていた。

 しかし、損傷を受けた脳の部位はさまざまで、それがどうして、気まぐれでわがままなエイリアンハンドの発生につながったのかは謎のままだ。

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 脳の損傷によって発症するエイリアンハンド症候群の典型例は、ベイラー大学医療センターの以
下の記述に見ることができる。
慢性心房細動を患っていた77歳の女性が、脊髄手術のために抗凝血剤治療を一時的にストップした。低分子量ヘパリン(抗凝血成分)の投与も行わなかった。2日後、女性はテレビを観ているときに、自分の左手が視界を横切って素早く動くのに気がついた。

自分の意志に反して、左手が勝手に彼女の顔や髪を撫でたので、怖くなった。右手で左手を抑え込もうとしたが、うまくいかなかった。

それから、30分間、左手は意志をもっているかのように動き続け、なす術もなかった。その後、やっとコントロールがきくようになったとき、左上肢が麻痺して、力が入らないことに気づいた。

女性の夫が彼女を車に乗せて病院へ連れて行ったとき、左足を引きずるようにして歩いているのに気がついた。

病院で、脳のCTやMRI撮影をしてみたところ、頭頂葉の両側に急性梗塞が確認された。経胸壁や経食道心エコー図では血栓はなかった。

その後、6時間ほどたつと、左半身が徐々に正常に戻り、心臓塞栓症による脳卒中と診断された。抗凝血剤治療を再開し、これを常に維持して止めないようアドバイスされて、解放された
・治療法は確立されていない
 こうした脳の損傷が、どのような経過を経て不気味なエイリアンハンドとして現れるのだろうか?

 こうしたことが起こるには、具体的にどのような損傷が影響しているのか? いまだわかっていない。エイリアンハンド症候群は、説明のつかない奇病として、現在でも謎のままだ。

 原因もメカニズムもはっきりわかっていないため、治療法や、効果的な処置も薬もない。とりあえずは、問題の手に物をもたせたり、遊ばせたり、なにか作業をさせておくしかない。

 そのほかには、脚の間に手を挟む、叩く、お湯をかける、言葉で諭す、電気ショックを与える、といった処置が、ある程度の効果があることはわかっている。

 もっと極端なケースでは、鍋つかみをつける、きつくテーピングする、なにかに手を縛りつける、背中で手を縛りつけるなどして、エイリアンハンドを強制的に使えなくするという荒業もある。

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・小説や映画の題材となったエイリアンハンド症候群
 長年にわたって、エイリアンハンド症候群が、小説や映画の中で、喜劇や恐怖の効果を狙って使われてきたことは、驚くにあたらない。

 人の手がなにかに"憑りつかれ"、あたかも意志を持っているかのように動くというアイデアは、題材としてうってつけの発想といえるかもしれない。

 ピーター・セラーズ演じる主人公が、ナチ党に右手で敬礼するのを止められず、自分の左手に殴り倒され、両手とも制御不能になって笑いが起こる、キューブリックの映画『博士の異常な愛情』で、この症状がフューチャーされたのは、注目に値する。

 また、映画『死霊のはらわたⅡ』でも、エイリアンハンドが登場する。

 ブルース・キャンベル扮する主人公アッシュの手に悪魔が憑依し、壮絶でコミカルな戦いを繰り広げた後、ついに悪魔を制圧して、手を切り落としてしまう。だがそれでも、手は彼を殺そうと不気味に動きまわり続けるというもの。

 映画を観ている限りでは、こんなことが現実に起こるとは想像できないかもしれないが、これは確かに現実の症状なのだ。

 なにが原因で、どうしてこんな症状が出るのか、エイリアンハンド症候群は、今日に至るまでいまだ解明されていない医学上のミステリーといえる。

References:The Strange Mystery of Alien Hand Syndrome | Mysterious Universe / written by konohazuku / edited by parumo


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