【鎌倉殿の13人】前原滉が演じる一条忠頼、忠実ではどう殺された?『吾妻鏡』を読んでみると……

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【鎌倉殿の13人】前原滉が演じる一条忠頼、忠実ではどう殺された?『吾妻鏡』を読んでみると……

義時「一条忠頼。源義高をそそのかし鎌倉殿への謀叛をたくらんだ。その咎によって成敗いたす!」

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」源義高(演:市川染五郎)に謀叛をそそのかし、その咎によって粛清された一条忠頼(演:前原滉)。

義時「これは警告です。二度と鎌倉殿と競い合おうなどとお思いになりませぬよう」

嫡男・忠頼の暗殺によって甲斐源氏は勢力を削がれ、武田信義(演:八嶋智人)は源氏の棟梁争いから脱落していくのでした。

一条忠頼の墓(山梨県南巨摩郡富士川町)。画像:Wikipedia(撮影:C2revenge氏)

……さて、劇中では工藤祐経(演:坪倉由幸)が及び腰であったため仁田忠常(演:高岸宏行)が斬り捨てていましたが、実際はどうだったのでしょうか。

今回は鎌倉幕府の公式記録である『吾妻鏡』から、当日の記述を紹介したいと思います。

一条忠頼を斬ったのは……

元暦元年六月小十六日癸酉。一條次郎忠頼振威勢之餘。挿濫世志之由有其聞。武衛又令察給之。仍今日於營中所被誅也。及晩景。武衛出于西侍給。忠頼仍召參入。候于對座。宿老御家人數輩列座。有献盃之儀。工藤一臈祐經取銚子。進御前。是兼被定于其討手訖。而對于殊武將。忽决雌雄之條。爲重事之間。聊令思案歟。顏色頗令變。小山田別當有重見彼形勢起座。如此御杓者。稱可爲老者之役。取祐經所持之銚子。爰子息稻毛三郎重成。同弟榛谷四郎重朝等持盃肴物。進寄于忠頼之前。有重訓兩息云。陪膳之故實者上括也者。閣所持物。結括之時。天野藤内遠景承別仰。取太刀進於忠頼之左方。早誅戮畢。此時武衛開御後之障子。令入給云々。其後。忠頼共侍新平太。并同甥武藤与一及山村小太郎等。自地下見主人伏死。面々取太刀。奔昇于侍之上。縡起於楚忽。祗候之輩騒動。多爲件三人被疵云々。既參于寢殿近々。重成。重朝。結城七郎朝光等相戰之。討取新平太。与一畢。山村者擬戰遠景。相隔一ケ間。取魚板打之。山村顛倒于縁下之間。遠景郎從獲其首云々。

※『吾妻鏡』元暦元年(1184年)6月16日条

一条次郎忠頼はかねてより威勢を振るうあまり、世を乱す≒鎌倉殿への謀叛をたくらんでいると噂されていました。

頼朝はそれを危惧して先手を打つべく、御所で酒宴を開いて忠頼を招待します。夜になって頼朝が会場に入り、忠頼を呼んで向かい合いました。

宴もたけなわ(イメージ)

「さぁさぁ、一条殿。まずは一献……」

忠頼にお酌しようと工藤一臈祐経が近づいてきます。祐経は忠頼を討つ役目を与えられていたものの、いざ事に臨んで怖気づいたのか、顔色まで変わってしまう有り様。

(まずい、これでは暗殺計画がバレてしまう!)

近くにいた小山田別当有重(おやまだの べっとうありしげ)が席を立ち、祐経から銚子を奪いました。

「工藤殿、ここはそれがしがお酌いたしましょう。ちょうど愚息らに給仕の作法を教えたきゆえ……」

有重は二人の息子、稲毛三郎重成(いなげの さぶろうしげなり)と榛谷四郎重朝(はんがやの しろうしげとも)を呼んでレクチャーを始めます。

「よいか。給仕の時は上括(しょうくくり)と申して……袴の裾を膝下で括るのが作法じゃ。ほれ、さっそくやってみよ」

「「ははあ」」

親子のお作法教室に忠頼も注目していると、その左後方から天野藤内遠景(あまのの とうないとおかげ)が太刀をとり、一刀の下に斬り捨てました。

(うむ)

忠頼が斬られたのと同時に頼朝は後ろの障子を開き、素早く避難します。

「おい、次郎(忠頼)殿が斬られたぞ!」

「この野郎、何してくれやがる!」

庭先に控えていた忠頼の郎党、新平太(しんへいた)とその甥の武藤与一(むとうの よいち)、そして山村小太郎(やまむらの こたろう)らが抜刀して御所へと殴り込みました。

主君を討たれ、死に物狂いで闘う郎党(イメージ)

「てめぇら、謀りやがったな!こうなりゃ鎌倉殿も道連れだ!」

にわかに斬り合いが始まり、その場にいた御家人たちは取り囲もうとしますがなかなか苦戦。死に物狂いの三人によって多くの負傷者が出てしまいます。

「おのれ卑怯者、逃げるんじゃねぇ!」

三人はどんどん頼朝を追い駆け、ついに寝所の近くまでやってきたところで、先ほどの重成&重朝兄弟と結城七郎朝光(ゆうきの しちろうともみつ)が行方をふさぎました。

「「「命に代えても、ここは通さぬ!」」」

死闘の末に新平太と武藤与一は討ち取られ、山村小太郎も天野遠景の振り回した魚板(まないた。現代サイズではなく、テーブルくらいの大きさ)によってブッ倒されたのでした。

終わりに

大河ドラマの描いた一条忠頼の最期:
工藤祐経は及び腰、仁田忠常が斬る

『吾妻鏡』に記録された一条忠頼の最期:
工藤祐経は及び腰、小山田有重の機転で隙を作り、天野遠景が斬る
側にいた三人の郎党たちも討ち取られる

厨房で使われていた魚板。遠景は咄嗟にその場にあった物で闘った(太刀は折れた?)と見られる(イメージ)

以上、甲斐源氏の有力者である一条忠頼の最期を紹介しました。ドラマ制作の都合上、あまりキャストを増やせないのは仕方がないので、こういう違いを知っておくだけでもドラマ観賞がより楽しめるでしょう。

しかし、ドラマも『吾妻鏡』も祐経はちょっと残念な感じですね。たまには工藤一臈(いちろう。第一人者)と呼ばれた歌舞音曲の才能を披露するなど、いいところも拝みたく思います。

また、こうしたマイナー御家人たちにも興味深い武勇伝がたくさんあるので、どんどん紹介したいです。

※参考文献:

五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡 2平氏滅亡』吉川弘文館、2008年3月

トップ画像: NHK公式ページより

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