「大事な商談に向かう途中で車が脱輪。焦る私を見た通りすがりのオジサンが、ニヤニヤ顔で去ったあと...」(東京都・50代男性) (2/3ページ)

もうこのまま車を放置してお客さんのところに行こう、と思ったその時です。50メートルほど先にある工場から、作業服姿の5~6人の人たちが。彼らはこちらを指さしたかと思うと、早足で向かってきました。
「マズい。邪魔だからどけろと囲まれて文句を言われる」と思って、私は身構えました。しかし......。
「どうせ可愛い姉ちゃん見てて落ちたんやろ」作業服の人たちは車の四隅に散らばり、そのうちのひとりが私に声をかけてきました。
「車押すからハンドル操作頼むな」
よく見ると、声をかけてきたのは先ほどニヤニヤしながら通り過ぎて行ったおじさんでした。
そう気づいたものの、おじさんたちの勢いに押された私は、とりあえず言われるままに車が押されたタイミングにあわせてハンドルをきりました。すると、車はあっけなく側溝から脱出できたのです。
「どうせ可愛い姉ちゃん見てて落ちたんやろ。ちゃんと前見て運転せえよー」
最後に笑顔でそんな冗談を言いながら、おじさんたちは去っていきました。
作業服のおじさんたちが助けてくれた。
そうです。通り過ぎて行ったおじさんのあのニヤニヤは、冷やかしたわけではなく、「仲間を連れてくるから待っとけや」の笑顔だったのです。
おじさんたちの後ろ姿がかっこよかったその時は勘違いをした申し訳なさや恥ずかしさもあり、通り一遍のお礼しか言えませんでした。
おじさんたちのおかげで、私はお客さんとの約束の時間に間に合い、大事な商談も滞りなく終えることができました。
しかし、それよりも何よりも、人の温かさを身に染みて感じられたことがとても嬉しかったのをよく覚えています。