「鎌倉殿の13人」分裂する北条ファミリー、坂東武者の権力抗争…第26回放送「悲しむ前に」振り返り
武家の棟梁の落馬。
頼朝の命と共に、鎌倉殿の権威が消え去ろうとしている。
主人を振り捨て、鎌倉が暴れ始める。
前回、落馬によって生死の境をさまよっている源頼朝(演:大泉洋)。偉大なるカリスマを喪うことによって、鎌倉は坂東武者たちによる権力抗争の坩堝と化します。
和田義盛「ともかくこれで、坂東は坂東武者の手に戻った。言うことなし!」
まぁある意味、間違ってはいません。頼朝が鎌倉殿となるより前、坂東武者が血で血を洗う坂東に戻りつつあるという意味では。
さて、次の鎌倉殿は嫡男の源頼家(演:金子大地)か、あるいは阿野全成(演:新納慎也)か。
北条時政「若君は御家人を率いていくには若すぎるんじゃ!」
比企能員「我らがお支えしていけばよいことではないか!」
大江広元「ひとまず全成殿に任せ、若君が十分成長されたところで、鎌倉殿の座をお譲りになるというのはいかがでしょうか」
筆者も広元の言う通りか、あるいは全成(北条派)が頼家(比企派)を後見する形でパワーバランスを保ってはどうかと思いました。
しかし結局は政子(演:小池栄子)の決断により、頼家が鎌倉殿に。比企に主導権を奪われてしまう時政やりく(演:宮沢りえ)、実衣(演:宮澤エマ)は不満を燻らせます。
そんな中、頼朝の死を見届けた北条義時(演:小栗旬)は伊豆へ帰る決意をしますが、政子によって頼朝の観音像を託されて留まることに。
義時(あの時、逃げておけばよかったな……)そう思ったか、あるいは(イメージ)
「逃げ帰るなら、今のうち」頼朝の死という最大にして恐らく最後のチャンスを逃した義時は、これから混沌の権力抗争を闘い抜かねばならないのでした……。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」7月3日(日)放送の第26回「悲しむ前に」。多くの恨みを買った頼朝の死ですが、政子のけなげな姿に胸打たれた視聴者も多いのではないでしょうか。
それではさっそく今回も振り返っていきましょう。
「これは、何ですか」頼朝、最期の奇跡義盛「……ろくな死に方はしねぇと思ってはいたが、馬に振り落とされたらしいぜ。武家の棟梁が情けない」
重忠「寂しいお方です。心の底から嘆き悲しんでいるのは、お身内を除けばごく一握り」
どこまでも嫌われ続けた頼朝の死を嘲る和田義盛(演:横田栄司)と、憐れむ畠山重忠(演:中川大志)。
……冥土の当人たちが聞いたら怒り出しそうなものですが、あくまでお芝居の役柄と我慢していただきましょう。
だいたい現代の私たちだって、例えば筆者が死んでも心から嘆き悲しむのなんて、せいぜい妻や母親がいいところ。他の親族なぞ表向きこそ泣いては見せても、その脳内は忌引きの埋め合わせを考えているに決まっています。
それが悪いと言っているのではなく、しょせん人間そんなものだという話し(何なら筆者だって似たようなもの)です。
さて、話を戻して我らが佐殿。政子や安達盛長(演:野末義弘)を除いて、ほとんど誰も悲しむどころか次の算段に大忙し。
荼毘に付される頼朝に合掌しながら、頭の中は権力抗争の段取り……いつの時代も、跡目争いの泥沼ぶりは変わりませんね。
そんな中だからこそ、心から頼朝を愛していた政子の献身的な姿が美しく映え、視聴者の誰もが頼朝復活の奇跡を願ってしまいます。
臨終出家に際して髻から出て来た観音像。かつて比企尼(演:草笛光子)からもらい、強がって「捨てた」と言って平手打ちを喰らった観音像を、実はずっと大切に持っていたのでした。
観音様のご加護で、政子に見せてくれた最後の奇跡。「これは、何ですか」初めて出会った時と同じ献立、同じセリフ。
政子の喜んだ顔と言ったら。もう誰もが助からないことを分かっていながら「良かったね」と思った次の瞬間、すでに事切れていました。
この上げて落とす演出が実に巧み。心に一瞬の隙をつくってそこへ痛打を叩き込む脚本に、唸らされた視聴者も多いのではないでしょうか。
「あなたには無理」実衣に言った政子の真意は最愛の伴侶を喪う悲しみに耐える政子に対して、自分が次の御台所となることで頭がいっぱいだった実衣。
実衣「全成殿は、次の鎌倉殿になる覚悟をお決めになられました。父上も義母上も同じ考えです」
政子は「やめてちょうだい。まだ早いわ」と当然のリアクション。そりゃそうです。頼朝に「さっさと死んで交代しろ」と言っているに等しいのですから。
実衣「もしもの事を申してるの。その時は、私も御台所となって鎌倉殿をお支えしていくつもりです」
政子「あなたに御台所が務まるものですか!……あなたには無理です」
ちょっと言い方はきついかも知れませんが、政子の張りつめた精神状態で、笑みを浮かべながらそんなことを言われればピシャリと言ってやりたくもなるでしょう。
後世「キツい女性」としてイメージされる政子だが、彼女だって好きでキツくなったのではない。
まぁ、それを差し引いても実衣に御台所は難しいでしょう。政子の言葉足らずを補うのであれば
「私が味わい続けてきた苦労をあなたにさせるのは、家族として耐えられない」
ということではないでしょうか。
ちょっと嫌なことがあればさっさと逃げてしまう実衣の姿は、第1回放送「大いなる小競り合い」からずっと見てきました(それはそれで嫌いじゃありませんが)。最初は政子も似たようなものでしたが、それでも耐え抜き、研鑽に努めてきた姿も見てきました。
もし実衣が真剣に「もし夫が鎌倉殿になったら、御台所として彼をお支えしたい」と政子に教えを乞う態度であれば少しは違ったのでしょう。
しかし実衣の「姉上にできたんですから、私だって」という態度は、政子が永年積み重ねてきた苦労をバカにしているとも思えてしまいます。
振り返ってみれば、北条家の中でもどこか半人前扱いだった実衣(例えば挙兵の計画を明かされなかった等)。もしかすると、心の底で姉たちを見返してやりたい思いがあるのかも知れませんね。
それにしても、御台所ひいては鎌倉殿って、そんなに魅力的なものなんでしょうか。
そこら辺にいる庶民や武士であれば「さぞいい暮らししてんだろうな」と妄想を膨らませもするでしょう。しかし御台所として姉がどんな苦労をしているか、実衣の立場なら察するくらいはできそうなものです。
にもかかわらず、なおも御台所に対する憧れがある辺り、よほど上辺しか見ていない証拠。政子ならずとも「あなたには無理(悪いことは言わない。辛いだけだからやめておけ)」と言いたくなってしまいますね。
分裂する北条ファミリーかくして政子の決断により、次の鎌倉殿は比企派の頼家に。
時政「お前らには、がっかりだよ!」
政子「頼家は孫でございましょう。なぜ祝ってやろうという気持ちにならないのですか」
時政「ありゃもう比企にとられたようなもんじゃ!」
義時「……父上は北条あっての鎌倉とお考えですが、私は逆。鎌倉あっての北条。鎌倉が栄えてこそ、北条も栄えるのです」
北条だ比企だと言う前に、鎌倉をみなで支えなければ誰も立ちいかない。そうした公益の精神は、時政たちに理解してもらえません。
時政「意味が分かんねぇ!」
鎌倉の分裂(北条・比企両派の対立)を防ぐべく、政子は全成に「頼家を助けてやって下さい」と頼みますが、すっかりへそを曲げてしまった実衣は言い放ちます。
「結局、姉上は私が御台所になるのがお嫌だったんでしょう……悲しい。そんな人ではなかったのに。力を持つと人は変わってしまうのね……」
「悲しい」と言った時の全然悲しくなさそうぶり。皮肉屋というキャラクター設定をいかんなく発揮した絶妙の演技でしたね。
「そんな人ではなかったのに」……「どの口が言うか、お前の事だ!」と内心でツッコミを入れたのは、きっと筆者だけではないはずです。
このままでは鎌倉を比企にとられてしまう……血を分けた孫の家督相続を喜ぶどころか、その失脚さえ願ってしまう時政の変貌ぶり。
りく「頼家様は頼朝さまと違って気性が荒く、そして頼朝さまに似て女子(おなご)癖が悪い。いずれ必ずボロを出します。その時が本当の勝負」
時政「ボロを出さなかったら?」
りく「そう、仕向けるだけのこと」
不敵な笑みを浮かべるりく。『吾妻鏡』屈指の悪女・牧の方の本領発揮。これから面白くなりそうですね。
それにしても、第1回からずっと家族愛にあふれる北条ファミリーが、頼朝の死をキッカケに分裂してしまいました。果たして和解することが出来るのでしょうか。
終わりにかくして次の鎌倉殿となった頼家。しかしその前途は多難。カリスマを喪った鎌倉は、暴れ馬のように走り出します。
義時「鎌倉殿の新しい鎌倉を、皆で築いて参りましょう」
義時「鎌倉殿は、何をどうすればいいか分からないんだと思います」
政子「ただ一つ、お願いがあるのですが」
時政「珍しく意見が合ったな」
りく「フフフ、面白くなってきました」
「……繋がった」
そう不敵に笑い、鞠を背後へ放る後鳥羽上皇(演:尾上松也)。これはラスボス感たっぷりですね。
次回放送は参議院議員選挙のため1週休止して7月17日(日)に放送。第27回のサブタイトルは「鎌倉殿と十三人」。ちょうど折り返しにきてのタイトル回収です。
御家人たちが繰り広げる、血で血を洗うバトルロイヤル……ますます面白くなりそうですね!
※参考文献:
『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 後編』NHK出版、2022年6月 『NHK2022年大河ドラマ 鎌倉殿の13人 続・完全読本』産経新聞出版、2022年5月日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan