東出昌大「世の中に、絶対的なものはないんじゃないか」自問を続ける人間力【インタビュー】
昨年末ぐらいから、俳優業をしながら、都会を離れて、狩猟をして山暮らしをしています。その生活に興味を持ったのは、23〜24歳ぐらいのとき、猟師の千松信也さんの『ぼくは猟師になった』という本を読んだのがきっかけでした。ドラマや映画の撮影が続くと、どうしてもロケ弁中心の食生活になりがちで、「食って何だろう」と考えるようになっていたんです。そんなときにこの本に出合い、動物を狩って、解体し、調理するーー野生動物に肉薄する生活が、僕には足りないのでは、と思ったんです。
山暮らしの拠点は山小屋の中の6畳ぐらいのスペースの部屋で、外にはキッチンスペース兼リビングがあって、そこはトタン板が張ってあるだけの吹きさらしなんです。電気は通っていますが、電球1個と冷凍庫用のコンセントが1つ。ガスは通っていなく、水は山の沢から引いています。周囲は人間より鹿のほうが多いくらいの環境です。
でも、不便とはまったく思わないですね。打ち合わせもリモートで行えるし、台本だって送ってもらえる。強いて言えば、まきが濡れて火が起きない……というときくらい。わざわざ高い家賃を払ってまで都内で生活はしなくていいだろうと思うようになってきました。
僕自身は土に還るという循環の中に身を置きたいと思っているんです。日本人って死ぬと火葬されるので、たんぱく質が炭化されて土に還ることができない。灰になるくらいなら、微生物に食われて分解されて、それが自然の木々や菌類の栄養になって、それを山の動物たちが食べてくれるほうが僕は本望ですね。
こういう自然の中での生活をしていて“安全、安心”について、懐疑的に思うことも増えました。安全安心ということが“自分のできること”を狭めて、生きたいように生きられていないのでは、と思えてきたんです。利便性だけを追求すると、生きづらくなるんじゃないかなって。
■男が女に手を上げるというのは自傷行為に似たもの
そうして考えていくと、世の中には、絶対的なものはないんじゃないか、と思うようにもなりました。今回、出演させてもらった映画『天上の花』でも、そう感じる点がありました。今作は太平洋戦争を背景に、実在の詩人・三好達治とその妻の物語で、恋愛がテーマですけど、恋愛も絶対的なものではないと思うんです。
劇中で三好が妻に手を上げるシーンがあるんですが、それははたして愛ゆえの行為なのか、僕には分からない。劇中のセリフで「愛せばこその暴力」というのもありますが、演じていくうちに、男が女に手を上げるというのは自傷行為に似たものだと思うようになってきたんです。「愛って何だろう」ということについては、この映画を観てくれた人にも、考えてもらいたいと思いますね。
僕自身の話になりますが、俳優という仕事を始めて今年で10年になりました。デビュー当初は芝居そのものがまったく分からず、自分ではできたつもりになっていても、一方で、何か違うなって思い、何でできないんだろうって悩んで考えて……頭でっかちになっていたところがありました。
でも、今はそんなもやも晴れて、やるべきことが明確に見えてきました。下手に気負わないで、お芝居一つ一つをちゃんとやり切れればいいのかなって思えるようになってきたんですね。シンプルになった……とでも言うんでしょうか。これからもいただいた仕事一つ一つに真摯に向き合って、お仕事を続けていければと思っています。
今はフリーになって、クライアントさんとも直接やり取りすることが多くなってきました。それまで分からなかった段取りや仕組みも見えてきて、それはそれで面白いですね。ただ、請求書を発行したり、領収書を保管したりするのは正直面倒くさいなって感じたりもしますけどね(笑)。
東出昌大(ひがしで・まさひろ)
1988年2月1日、埼玉県生まれ。2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。本作で第67回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞と第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、『聖の青春』などの映画や『あまちゃん』『ごちそうさん』(ともにNHK)、『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)などのドラマに出演。公開待機作に『とべない風船』(23年1月)などがある。