大河ドラマ「どうする家康」では割愛(涙)武田信玄と徳川家康の小競り合いは既に始まっていた
徳川家康(演:松本潤)と連携して、今川氏真(演:溝端淳平)を滅ぼした武田信玄(演:阿部寛)。
遠江を徳川、駿河を武田がそれぞれ切り分けてめでたしめでたし……かと思いきや、信玄の野心は留まりません。
「もしかして、このまま遠江もいけるんじゃね?」
何なら三河まで……いやいやまずは遠江から。という訳で、信玄は侵略の魔手を遠江へと伸ばし始めました。
これに対して「どうする家康」!?大河ドラマでは割愛(とば)されていましたが、既に小競り合いは始まっていたのです。
第一の刺客・秋山信友……信玄入道家士秋山伯耆守信友見付の宿に陣し。当国のもの共を武田が方へ引付んとはかるよし聞召。かくてハそのはじめ入道が詞たがひたり。はやく其所を退かずば御みづから伐て出で誅せらるべしとありて。はや御人数も走りかゝる様をみて。信友かなはじと思い信濃の伊奈口に迯こみたり。(信玄陽には当家に和して。大井川を限り遠州をば御心にまかせたまへと言ながら。陰には 当家を侵し遠州をも併呑せむ爲。信友遠州へ出張して遠州の人数をつのり国士をまねきしなり。この後山縣昌景をして御勢を侵さしめしも。みな爲謀のいたすところなり。)……
※『東照宮御実紀』巻二 永禄十二年「信玄背約」
信玄は家臣の秋山信友(あきやま のぶとも。伯耆守、虎繁)を派遣して信濃から国境を侵略。遠江の国人らを調略せんと暗躍し始めました。
これを知った家康は、直ちに出馬。たちまち秋山勢を蹴散らして、信濃国へ追い返します。
表向きには「大井川の東西で今川領を切り分けよう」と言いながら、裏で侵略工作を図るとは……家康の怒りはいかばかりだったでしょうか。
本気で仕留める?山県昌景の大軍襲来「チッ、伯耆守ではダメか」「ご安心を。次はそれがしが」……第二の刺客を繰り出す武田陣営(イメージ)歌川芳虎筆
……兼て信玄入道盟約のことなれば。この五月御領境を御巡視あるべしとて。五六百人の少勢にて御出馬ありしをみて。入道が家士山縣三郎兵衛昌景といへるもの行すぎがてに御供人といさかひし出し。それをたよりに御道をさへぎり留むとす。御勢いかにもすくなきが故いそぎ引退かんとしたまふ。山縣勝に乗じ是を追討せんとひしめく所に。御供の中より本多平八郎忠勝一番に小返しゝて。追くる敵を突くづす。榊原小平太康政。大須賀五郎左衛門康高等追々に返し来りて突戦すれば。山縣も終に勝がたくやおもひけむ。早々駿州へ迯入りたり……
※『東照宮御実紀』巻二 永禄十二年「信玄背約」
一度は撃退されてしまったものの、これしきで諦める信玄ではありません。
永禄12年(1269年)5月に国境を視察に出た家康一行。もちろん、攻め込まれる隙を発見し、武田対策を強化するためです。
「殿、あちらに」
促されて見れば、山県昌景(演:橋本さとし)の大軍がこちらを狙っていました。対するこちらは5〜600騎、まともに戦えば勝ち目はありません。
「すぐに引き返しましょう」
「いや、ここはまだ我らが領内。背中を見せれば武田の領有を認めるも同じ。距離をとりつつ我が領内のギリギリを通って戻ろう」
「御意」
最大限の警戒をしながら、じわじわと領界ギリギリを通過する家康。しかし次の瞬間。
「かかれー!」
怒涛の如く迫り来る山県勢。領界を侵した瞬間、家康は退却を命じました。
「退け、退け!」
一目散に逃げる家康たち。しかし山県勢はたちまち彼らを包囲していきます。
「このままでは逃げ切れぬ!」
「どうせ死ぬなら、三河武士の意地を見せてくりょうぞ!」
馬首を返したのは本多平八郎忠勝(演:山田裕貴)。まさに死に物狂いの大暴れで、山県勢もたじろぎました。
「平八郎を死なせるな、我らも続くぞ、いざ参れ!」
榊原小平太康政(演:杉野遥亮)や大須賀康高(おおすか やすたか)らも続いて山県勢へ殴り込み、当たるを幸い暴れ回ります。
「……兵を無駄死にさせるな、退け!」
完全に気を呑まれつつあった将兵を察して、山県昌景は兵を引き揚げました。
数で勝っていても、あと一歩で家康を討てそうでも、無理な力攻めは損害が大きい。潔い引き際の見極めは、さすが信玄の腹心と言ったところでしょう。
そのまま駿河へ入るのを見届けて、家康たちも引き揚げたという事です。
終わりに以上、江戸幕府の公式記録『徳川実紀(東照宮御実紀)』による徳川・武田の小競り合いを紹介してきました。
これだけ見たら「信玄ひどい約束破り!」と思いそうですが、家康も氏真のために武田の占領していた駿府城を攻めとるなどしており、どちらも乱世の習いでしょうか。
NHK大河ドラマ「どうする家康」では、完全にすっ飛ばされてしまった大いなる小競り合い。
他にも対武田戦のエピソードは沢山ある(と思う)ので、今後の放送も楽しみですね!
※参考文献:
『徳川実紀 第壹編』国立国会図書館デジタルコレクション日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan