絶体絶命!丸裸で襲撃された剣豪は、いかに刺客を倒したか?江戸時代の武士心得集『志塵通』より
古今東西、老若男女貴賎を問わず、お風呂は裸(あるいはそれに近い姿)で入るものです。
それゆえに隙を生じやすく、昔から多くの者たちが入浴中の襲撃により命を落としてきました。
しかし中にはそんな絶体絶命の窮地を切り抜けた者もいるようで、今回は江戸時代の出羽鶴岡藩士・小寺信正(こでら のぶまさ。天和2・1682年生~宝暦4・1754年没)が収集した武士心得集『志塵通(しじんつう)』より、とある剣豪のエピソードを紹介したいと思います。
則ちその切たる腕を以て……予が叔父の曰く。昔、剣術者湯を浴びしに、仇有人これを伺いて討ちしに、左の腕(かいな)の脈所を右の手にて持ち、左の手を以て受けしに、たまらずその腕を打落しに、則ちその切たる腕を以て、飛込みて敵を打倒しけることあり。当意即妙なりと申しけり。
※『志塵通』より
【意訳】これは私(作者)の叔父が話していたことである。
今は昔、とある剣豪が風呂を浴びていると、彼に恨みを持つ者が襲撃したそうな。この時、剣豪は何も持っていない。万事休す。
そこでやむなく瞬時の判断で、自分の左手首をつかみながら、左腕で刺客の刀を受け止めたのだ。
当然、左腕は切断された。普通ならここでおしまいだが、剣豪は諦めなかった。切断された自分の左腕を棍棒のように握りしめ、刺客を殴り倒した。
刺客も剣豪の左腕を切り落とし、多量の出血にいささか動揺したのか、隙を生じてしまったのであろう。
まさに当意即妙、達人ならではの即断と言えよう……。
終わりにかくして剣豪は左腕を失いながらも窮地を切り抜けたのでした。
自分の腕と生命なら、迷わず生命を選ぶべきと理屈では解ります。しかしそれがイコール腕を捨てるとなると、なかなか瞬時に決断するのは難しいものです。
こうした合理性を徹底的に突き詰めるのが戦場で生き延びる鉄則、まさしく武士の心得と言えるでしょう。
ところで水を差すようで恐縮ですが、入浴時には用心のため木刀など持っておくのがおすすめです。
もちろん何もない中で敵を倒したのは凄いのですが、それだけの腕前を持っているなら寸鉄はもちろんのこと、棒切れ一本あるだけで左腕を失わずに済んだかも知れません。
いついかなる時も備えを怠らず、どんな状況下でも最後まで諦めない姿勢は、現代の私たちも見習いたいものです。
※参考文献:
氏家幹人『武士マニュアル』メディアファクトリー新書、2012年4月日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan
