『べらぼう』幻の英雄・佐野政言が歪めた真実。ついに意次・誰袖・蔦重の「敵討ち」が始まる【前編】

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『べらぼう』幻の英雄・佐野政言が歪めた真実。ついに意次・誰袖・蔦重の「敵討ち」が始まる【前編】

「仇を…仇を討っておくんなんし!」

振り絞るように声を出した、誰袖(福原遥)の願い。

大河「べらぼう」第28話『佐野世直大明神』で、とうとう佐野政言(矢本悠馬)による田沼意知(宮沢氷魚)への刃傷事件が起こってしまいました。

【べらぼう】なぜ佐野政言は田沼意知を斬ったのか?史実資料から実際の犯行の動機を解説

その事件は“仕組まれた陰謀”だと知る由もない極貧生活に疲れ果てた庶民は、「自分らの生活が苦しいのはこいつのせいだ!」と扇動されると、冷静な判断を失い作られた「幻の英雄」を拝むように。

突然の意知の死に衝撃を受ける誰袖(福原遥)、田沼意次(渡辺謙)、「裏で糸を引いている者がいる」と気が付く蔦重(横浜流星)……それぞれによる、意知の無念を晴らす「敵討ち」が始まります。

現代の世相にもかぶる波乱の今回を振り返りつつ、仕組まれた罠とそれに立ち向かうそれぞれの心情と決意を考察してみました。

NHK大河「べらぼう」公式サイトより

幸せな二人に襲いかかった「覚えのない」凶行

吉原で、今は盛りと咲き誇る桜並木を見上げつつ、「今日は雲助様(意知)と会うのか」と蔦重に聞かれ、「雲助袖の下にて死にたし…だそうで」と、西行の句を用い、今夜は意知と桜の花見をすると微笑みを浮かべて答えた誰袖。

江戸城内での1日の勤めが終わり帰宅の途につきながら、「今日は花見の予定があって」と嬉しそうに言いながら微笑む意知。

今宵一緒に寄り添って桜を見るのを楽しみにしていた二人。
そして、殿中で突然立ち上がり、刃を抜いて意知に斬りかかる佐野。

幸せと凶行の二つの場面が重なり合い終わった前回。今回は冒頭から、凶行に及んでしまった佐野と深手を負わされた意知の場面から始まりました。

吉原の桜並木(東都名所・吉原仲之町夜櫻)文化遺産オンライン

田沼屋敷に運ばれた瀕死の意知。志半ばに無念にも逝かなければならなかった今際の際に、せめて誰袖が寄り添っていればと思った人は多いでしょう。

幸せになるはずだった二人の未来を奪った佐野。けれども、父親の介護に疲弊し何事もうまくいかず孤独に悩んでいた彼が、デマを吹き込まれた挙句に「田沼憎し」へと駆り立てられ、凶行に走ってしまった……その経緯を思うと、単純に佐野憎しにもなれません。

「覚えがあろう!」「覚えがあろう!」と、意知に刃を向け詰め寄る佐野ですが、意知に言うというよりも、その言葉で自分自身を鼓舞しないと“佐野家を軽んじ陥れた田沼家に敵討ちをしてやるという決意が鈍ってしまう……と思っているような辛い展開でした。

江戸市中では「今の生活苦はすべて田沼のせい」と悪評が立っていただけに(浅間山の大噴火や冷害は田沼のせいではないにも関わらず)、意知を斬った佐野はまるで救世主のような扱いになります。

NHK大河「べらぼう」公式サイトより

煽動者の「煽り」で一気に「あいつのせい!」の空気に

今回、印象的だったのは、意知の葬列の場面。

最初、道の両側にいる町の人々は、意知の棺を担いだ葬列に対し、頭を垂れ両手を合わせその死を悼んでいました。というか、田沼政治への不平不満はあるものの、斬られて亡くなった人に対し、人としての「礼節」は尽くしていました。

けれども突然、二人の物乞いの男が、意次の乗るカゴに絡み始めたところから空気が変わります。物乞い二人が厳粛なムードを壊したタイミングで、大工姿の男が葬列に向かって石を投げ「天罰だ!思い知れ!そいつが物乞いになったのはお前のせいだろ」と大声で周囲を煽りました。

そう、大工姿の男はあの「丈右衛門だった男」(矢野聖人)です。平賀源内(安田顕)を投獄に追いやった男であり、佐野政言に「意知があなた(政言)の射落とした鴨を隠した」などデマを吹き込んだ、あの男です。

その煽り言葉でスイッチが入ったように、手を合わせていた人たちが、急に「そうだ!そうだ!外道」と葬列に向かって石を投げ始めました。

冷静に考えれば、この煽りをした人物は誰?何が目的?と疑問を持ちそうなものなのに、我を忘れ一斉に石を投げ始める群集心理の怖さ。物乞い二人も「仕込み」だったのではないでしょうか。

米不足、生活苦、江戸市中にどんどん増える流民(難民)、巷で流行る「田沼おろし」の狂歌、日々重荷を抱え込んだ人々の心の中に、“憂さ晴らしをしたい気持ち”は作られていました。

そこに突然、「あいつらのせいで生活が苦しいんだ!とヘイトを向ける矛先」を示されると、理性や良心が壊れ、根拠もないのに「こいつが悪だ!」とばかりそこに傾れ込んでいく。そして、「外道」「鬼畜」と石を投げ、その興奮はどんどん伝播していく。その行為では何も解決にもならないのに。

「いつの世も同じだな」と思わせられる場面で、相変わらずまるで現代の世相に合わせているかのような森下脚本の凄さを感じました。

葬列を見送っていた誰袖は、思わず飛び出して意知の棺を庇い「やめて!お願い…お願いします…」と土下座をします。そんな誰袖の額にも人々が投げた石が当たります。

「どっちが外道なんだよ!」とやり返す誰袖。

なぜ意知が、突然斬られて葬儀で石まで投げられ「外道」呼ばわりされなくてはならないのか。「仇を…仇を討っておくんなんし!」という誰袖の言葉が刺さる場面でした。

NHK大河「べらぼう」公式サイトより

源内の「七ツ星の龍」で気が付く黒幕の存在

そんな時、蔦重は、「煽り」をやった大工姿の男が、今度は浪人姿で「佐野世直し大明神墓所」という幟を佐野の墓がある寺の前に立て去っていく姿を目撃します。

案の定、「作られた空気に乗っかった」町の人々は深く考えることもなく、佐野を英雄視し、「世直し大明神」と称賛しました。

実際、佐野が埋葬された台東区西浅草にある徳本寺には大勢の人が訪れて、まるで観光地のような賑わいだったとか。山東京伝(北尾政演/古川雄大)の弟の京山は、“門前に花や線香を売る所三か所出現し、地上の線香の煙り人を襲う”と書いたそうです。

もともと、田沼びいきではある蔦重ですが「斬られたほうが悪者になり、斬ったほうが英雄になる」とおかしさに気が付きます。

ここで鮮明に思い出されたのが、平賀源内(安田顕)が最期に書いた「七ツ星の龍」

江戸に流れる不吉な噂を利用して悪事を働く悪党がいる。けれど、それに気がついたのが“七ツ星の龍”。その悪党は、すべての悪事を龍のせいにして、犯人に仕立て上げる。

というお話です。

七ツ星の龍とは田沼意次のこと。

この一連の事件は「裏で糸を引いている者がおるとは考えられませんか?」と、蔦重は田沼意次に伝えました。そして、不審なことだらけの平賀源内の投獄を見逃し、うやむやにしてきたツケが今の事態を招いているのでは?とも。

「平賀鳩渓肖像」。木村黙老著『戯作者考補遺』の写本

そんな蔦重に「あやつ(意知)が討たれたのは、俺のせいだ。」と、脇差を手にお前の手で俺を討てと迫ります。

「俺は筆より重いもんは持ちつけねえんで」と涙を浮かべる蔦重。これは“単純に意次を「刀で斬る」ことを拒んだのではない”でしょう。

侍にとっての戦いの武器が「刀」であるとしたら、町人で本屋である蔦重の武器は「筆」

その「筆」で、「俺は、自分の武器である『筆』で、意知様の敵討ちをする」という、決意を意次に伝えたのだと思います。

「だから、意次様も源内先生の時のようにうやむやにせず、必ずこの『陰謀の主』にきっちり仕返しをお願いします」という意味も含めていたのではないでしょうか。

一度は蔦重を追い返す意次ですが、後日手紙を出します。そこには

「思案の結果、私(意次)の敵討ちは、山城守(意知)が生きて成就すべくことをなすべく、その方法こそが、私の敵討ちとしたい」

としたためてありました。

田沼意次(牧之原市史料館所蔵)

一橋治済に「覚悟」を伝える田沼意次の凄み

志なかばで無念の死を迎えた平賀源内の志も、息子の山城守(意知)の志も、田沼意次の心にはしっかりと生き続けています。

意知亡き後、憔悴していた意次ですが、蔦重の言葉も後押しとなり息子の遺髪を胸に、すべての黒幕である一橋治済(生田斗真)への「敵討ち」を決意し、心の炎を燃え上がらせました。

同じように愛する息子の命を奪われた徳川家治(眞島秀和)に「かように卑劣な手で奪い取れるものなど何一つないと」と言われ、「目に物を見せてやりとうございます」と続けた意次の言葉には力強さがみなぎっていましたね。

そして城内で、治済と出会い一瞬腰の刀に手をかけるも意知の遺髪を入れた胸元に滑らせます。いつものように芝居がかった「お悔やみ」を述べるもののそれを力強く遮る意次

「志は無敵です」「もう二度と、毒にも刃にも倒せぬ者となったのでございます」と治済に向かって言った言葉。

“徳川家基(奥智哉)、松平武元(石坂浩二)、平賀源内、そして意知。お前の奸計で毒や刃で殺されたことを俺は知っている。けれど、もう二度とお前は俺を倒せない”

……ということを言外に含ませ宣戦布告をしたのだと思います。

さらに挨拶をして、立ち去ると見せかけて素早く後に回り込み「それがしには、やらなければならないことが山のようにございますゆえ」と低い声で告げる場面は、さすが名優、鬼気迫る凄みがありました。

NHK大河「べらぼう」公式サイトより

いつも余裕をかましていた一橋治済が、呆けたような悔しそうな顔をして立ちすくんでいたのが印象的でしたね。

意知の死を知らされたとき、「死んでもうたか〜。人の恨みを買うとは恐ろしい」とぬけぬけといい、その側で黙々とうれしそうにカステラを食べ続ける幼い徳川家斉。心底、憎たらしい二人でした。

けれども、最終的な目的だった田沼意次の心をへし折ることはできず、逆に今までの分の恨みもあり怒りの炎を燃え上がらせたてしまった。さぞかし、計算違いだったことでしょう。ざまあみろ!と思ってしまいました。

次回の【後編】に続きます。

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