『べらぼう』憔悴の誰袖に笑顔が戻るも…今後訪れるさらなる悲運は史実を基にどう描かれる?【後編】
刀を持たない町人である蔦屋重三郎(横浜流星)が考えた、田沼意知刃傷事件の「敵討」の方法は、お江戸のメディア王として、身分に関係なく誰もが読める「出版」で大ヒット本を生み出すこと。
そして、意知(宮沢氷魚)亡き後、笑顔を失った誰袖(福原遥)が笑うほど「腹がよじれるほど面白い黄表紙」を作ることになりました。
もちろん誰袖を笑わせるだけではなく、「斬られたほうが悪者にされ斬った佐野が大明神して崇め祭り上げられる」そのような間違った風潮を大ヒット本の話題で消そうとしたのです。
本が爆発的にヒットして話題になれば、いつか刃傷事件を裏で意図を引いている黒幕にも届くはず。そいつに「俺は、お前の陰謀を知っているぞ。俺の本の話題で佐野大明神の盛り上がりを消してやった」と知らしめたい、そんな思いもあったのではないでしょうか。
知恵を絞って出来上がった『江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)』は、実際に意知の死の翌年天明5年(1785)に版元は耕書堂で発刊されました。その後3度も再版され、北尾政演(山東京伝/古川雄大)は戯作者として有名になったそうです。
【大河べらぼう】で劇団・蔦重(?)が劇中劇で演じた『江戸生艶気樺焼』の実際の内容を全ページ紹介ドラマでは大河ドラマ初となる異例の「劇中劇」という形で、このストーリーを紹介する形に。視聴者も大笑いする内容で、誰袖もあまりのバカバカしさに久しぶりに笑いを取り戻します。
そして、爆笑から誰袖に笑顔が戻りほっとしたのも束の間、「許してくだりんすかねえ、雲助様は。後すら追えぬ情けねえわっちを。」で、涙の展開になったのでした。
「ド派手な駆け落ち」のばかばかしさに思わず笑った誰袖【前編】では、意知を斬った佐野(矢本悠馬)に似ている男を主人公に、「腹がよじれるような黄表紙を作りてえ」と思案した蔦重は、クリエーターたちと紆余曲折の末に『江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)』という黄表紙本を誕生させたことを振り返りました。
大河『べらぼう』誰袖に戻った笑顔「筆より重いものは持たねえ」名プロデューサー・蔦重の見事な仇討【前編】「家の名をあげるよりも浮き名を流したい」大金持ちの放蕩息子「仇気屋艶二郎」の物語で、ドラマの劇中劇で「劇団蔦重」たちが大げさな素人芝居を繰り広げるという、面白い趣向でしたね。
『江戸生艶気樺焼 』京傳 作 出版者 蔦屋重三郎 [天明5(1785)]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9892607
そして、その抱腹絶倒な物語をただ誰袖に渡すのではなく、蔦重が読み聞かせるという脚本でした。
最後の場面、艶二郎と花魁浮名が三味線のBGMで「ごきげんようお駆け落ち〜」の掛け声で、華々しく駆け落ちを見送られるというばかばかしい顛末に、沈み込んでいた誰袖も、思わず笑ってしまいます。
『江戸生艶気樺焼』は実在する書物で、ドラマの劇中劇でも忠実に再現されていましたが、書物のラストでは駆け落ちした二人は盗賊に襲われ、せっかくあつらえたベルサーチのような派手柄のお揃いの着物を身包み剥がされてしまうのですが、それは実は息子を諌める艶二郎の父親が仕組んだものだった……という内容になっています。
さすがにこの部分の実写化はNGだったのでしょう。
「許してくだりんすかねえ」と呟く誰袖にひとひらの花びらが
あまりのばかばかしい内容に、思わず笑った誰袖。
第28話「佐野世直大明神」では、白装束で髪を振り乱し、寝食を忘れるほど呪詛に全身全霊で打ち込んでいた誰袖の姿が痛々しかったのが印象的でした。
以前「「べらぼう」誰袖の叫びに重なる視聴者の怒りと涙。ついに意次・誰袖・蔦重の「敵討ち」が始まる【後編】」でも書いたのですが、やはり誰袖の呪詛の目的は、佐野や佐野の親族だけではなかったようです。
「べらぼう」誰袖の叫びに重なる視聴者の怒りと涙。ついに意次・誰袖・蔦重の「敵討ち」が始まる【後編】意知の突然の死を受け止めきれないでいるのに、追い討ちをかけるように意知の葬列に石を投げる街の人々の「外道ぶり」に絶望する。後を追うために白装束姿で、喉を突いて死のうとしても、どうしても死に切れませんでした。
蔦重の読み聞かせで「こんな駆け落ち!フフフ!」笑った誰袖は、「死にきれなかった」と告白します。
そこで、激しく呪詛を行うことで「人を呪わば穴二つ」という言葉通り、呪詛返しが自分に返ってくることを願っていたのが切ないですね。
ひとしきり笑った誰袖は、本の話のばかばかしさに笑ったことで凍てついた心が溶けてきたのでしょう。
同時に、蔦重がこの本を作るために時間をかけてアイデアを練りクリエーターが文章を書いて絵を描き、版を作って刷り絵げて製本する、そんな手間をかけて自分のために作ってくれたそんな家族のように大切に思ってくれている温かい愛情が伝わったのでしょう。もちろん、ずっとそばにいてく面倒をみてくれていたしげ(山村紅葉)への感謝も。
「許してくだりんすかねえ、雲助様は。後すら追えぬ情けねえわっちを。」
と呟く誰袖の足元に、「もちろん許すよ」とでもいうかのように、季節外れの桜の花びらがひらひらを舞い落ちてきます。気がついた誰袖は木を見上げながら庭に降り立ち、そこに意知の存在を感じているかのようにじっと見つめます。
「許すっておっしゃってるんじゃないですか」としげ。「ああ、そんなお前だからとびきり好きだってな」と蔦重。
微笑みを浮かべた誰袖は恒例の「しげさんのお尻さわり」を復活させます。今まで心配させた謝罪の言葉を並べるよちも、いつもの誰袖らしい振る舞いをしたほうが、しげが心から安心して喜ぶだろうと知った上の行動でしょう。
皆が笑顔になったところで、花を見上げながら笑顔ながらも涙に潤んだ声で「次はいつお越しになりんす?」と言う誰袖が、切なかったですね。
きっと、いつでも意知がそこにいて見守っていてくれる……そんなことを確信したのではないでしょうか。そして、自分がどん底に落ちてもかならず掬い上げようと愛情を持って見守って助けてくれる人がいるという確信も、彼女をより強くしてくれるでしょう。
今後、史実をもとにどのような展開になっていくのか史実では、誰袖は田沼意次の腹心だった土山宗次郎(栁俊太郎)によって、1,200両という莫大な金額で身請けされます。その後、意次の失脚により、悲運な人生をたどっていくのですが。
大河『べらぼう』身請け後、横領事件に巻き込まれ…実在した花魁「誰袖(福原遥)」が辿った光と影【後編】ドラマでは世間では田沼の評判が悪いので「土山の妾になった」というていで、実は意知と一緒になるという筋書きなので、このまま強く、幸せになってほしいと願ってしまいます。
『江戸生艶気樺焼』は売れに売れ大評判になります。「佐野大明神」ムードもこの本が江戸っ子の間で話題になったことでトーンダウン。
ドラマのラスト、『江戸生艶気樺焼』を手にして笑いながら読んでいた田沼意次は、これが蔦重なりの粋な敵討だとわかります。そして、松平定信(井上祐貴)も。
きびしく出版物を取り締まる一方で、実は蔦重が出す本の読者という二面性を持つ定信。蔦重の出版活動に大きな影響を及ぼしていくので、これからの展開も見逃せません。
【べらぼう】蔦重の晩年に大きな影を落とす松平定信(井上祐貴)の「寛政の改革」とは史実をもとにどのような展開になっていくのか、心配でもあり楽しみでもありますね。
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