『べらぼう』ふく・とよ坊の救いなき最期、家治は毒を盛られ力尽き…無情すぎる絶望回に反響
天明の洪水によって江戸市中が荒廃する中、蔦重(横浜流星)は深川の新之助(井之脇海)とふく(小野花梨)夫婦を見舞い、人々の苦境を改めて痛感させられました。
いっぽう江戸城では徳川家治(眞島秀和)が知保の方(高梨臨)から贈られた醍醐(だいご。チーズ?バター?諸説あり)に毒を盛られ、寿命を縮めてしまいます。
これまで多くの者を葬り去ってきた一橋治済(生田斗真)は、何ゆえかように無益なことを繰り返すのか……田沼意次(渡辺謙)の義憤も虚しく、家治は死去。老中仲間にも見放され、いよいよ田沼政権は終焉を迎えつつありました。
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……NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第31回放送「我が名は天」は、視聴者の心が重い展開となってしまいました。
それでは今週も、気になるトピックを振り返っていきましょう!
第31回放送「我が名は天」関連略年表
老中の職を辞する意次。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」公式サイトより。
天明6年(1786年) 7月12日 風雨が激しくなる 7月16日 両国橋・永代橋を押し流す 7月23日 水害がようやく鎮まる⇒貸金会所令が撤回
⇒印旛沼の干拓が中止 8月25日 徳川家治が死去(50歳)
※同日? ふく母子が押し込み強盗に殺される
(8月27日 田沼意次が老中を辞する)今回は天明6年(1786年)7月半ば~家治死去までの約1ヶ月余りが描かれました。心を痛める場面の連続で、あっという間に45分が過ぎてしまった印象です。
余談ながら、蔦重とおていさん(橋本愛)のやりとりに遠慮が和らぎ、夫婦らしくなってきたのではないでしょうか。ちょっと出て来た喜多川歌麿(染谷将太)がまだ少し嫉妬の色を残しているものの、今回は割愛します。
『徳川実紀』に見る天明の洪水
江戸市中の復興に奔走する長谷川平蔵。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」公式サイトより。
利根川の堤防を決壊させた大水が江戸市中へ流れ込み、人々の暮らしを壊滅状態に追い込んだ天明の大洪水。その様子が江戸幕府の公式記録『徳川実紀』に残されていました。
少し長いですが、被害の凄まじさを実感できるかと思います。
……この月十二日よりわけて雨風はげしく。昨日の夕よりにはか(俄か)に川々の水みなぎり来りて。両国。永代をはじめ橋梁ををしながし(押し流し)。青山。牛込などいへる高燥の地さへも山水出で。屋舎をやぶるに至りければ。わけて本所。下谷。関口。小日向など卑湿の地。大厦(たいか。大家)は軒をひたし。矮舎(わいしゃ。小家)は屋背にもこへ。日数へて水たゝへ。平地は一丈(約3m)にもこえしかば。農商はさらなり。朝参の輩も水にさゝへられ往来もたゆるほどなり。
むかしより府内にかかる水患いまだ聞もおよばぬこととて。人々うれひなげきけり。まして郊墹の外は堤上も七八尺(約2.1~2.4m)。田圃は一丈四五尺(約4.2~4.5m)ばかりも水みち。竪川。逆井。葛西。松戸。利根川のあたり。草加。越谷。粕壁。栗橋の宿駅までも、たゞ海のごとく。淼々(びょうびょう)としてわかず(分かず)。
岡は没して洲となり。瀬は変じて淵となりぬ。この災にかゝりて屋舎。衣食。財用をうしなひ。親子兄弟ひきわかれて。たゞ神社仏宇などの少しもたかき所をもとめからき命をたすかり。中には溺れ死せしも数志れずと聞えければ。ふかくうれひさせ給ひ。
それゞゝの奉行。代官に命ぜられ。官船を出してすくはせられ。両国橋。馬喰町には数椽(すうてん。数軒)の舎をつくり飢民をやどし食をたまはる。
すべて慶長のむかし府を開かれしより後。関東の国々水害かうぶることありし中にも。これまでは寛保二年(1742年)をもて大水と称せしが。こたびはなほそれにも十倍せりといへり。
ことし春のほどより空中にあやしき物音することありしかば。天にて楽を奏すなりと人々いひあへり。また古にいはゆる鼓妖といふものなるべしとて。をそれしものもありけるが。かゝる希有の災害ある先徴にやありけんと申しける。
※『浚明院殿御実紀』巻五十五・天明六年七月「府内水患」天明6年(1786年)7月16日条
あちこちで水深2~4mを超える浸水被害をもたらした水害の一因として、3年前の天明大噴火がありました。火砕流や土砂が利根川の底にたまって水量を押し上げ、それが大水害をもたらしたのです。
またこの年の春ごろから怪異現象があり、空からあやしい物音がしたとか。これを古くから鼓妖(こよう)と呼び、天が世を戒めるために響かせたと言います。
これは田沼政権に対する怒りなのか、それとも……。
中止された貸金会所令と印旛沼の干拓
意次に詰め寄る定信。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」公式サイトより。
……さきに命ぜられし寺社農商より金銀を官に収めしめ。諸家にかし給ふべしといへる令を停廃せらる。これこたびの水害により農商等がうれひ申すによれり。……(中略)……下総国印旛。手賀開墾のこともみなとゞめられたりといふ。
※『浚明院殿御実紀』巻五十五・天明六年八月-同九月「依水害停農商上納金并印旛沼手賀開墾」天明6年(1786年)8月24日条
劇中でも触れられたとおり、以前に発案された貸金会所令や印旛沼の干拓事業は、水害の影響を考慮して取りやめとなってしまいました。
人々の苦しみを思えば無理もないですが、中長期的な資金・食糧調達政策を中断せざるを得なかった意次は、断腸の思いだったことでしょう。
現時点では蝦夷地についての中止は決定されていないものの、あまり見通しは明るくなさそうですね。
今回は松平定信(井上祐貴)の攻勢に押され気味の意次。盟友たちにも見放され、もはやこれまでと老中の辞意を表するに至りました。
に贈られた醍醐とは?
知保の方を励ます大崎。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」公式サイトより。
家治を気遣って元気の出るものをと考えた知保の方に、醍醐はどうかと提案する大崎(映美くらら)。彼女は毒物に詳しいらしく、かつて第19回放送「鱗(うろこ)の置き土産」で、知保の方に毒を手配していましたね。
大河『べらぼう』鬼すぎた誰袖w 春町が史実で予想した江戸を紹介、ほか…5月18日放送の振り返り&解説大崎は既に一橋治済の息がかかっており、主人さえ欺いて醍醐に毒を盛ったのでしょう。
家治に万が一のことがあれば、醍醐に関わった者すべての首が飛ぶ……そう恐れる知保の方を励ます大崎。大丈夫、心配いりません。
家治が亡くなれば、実質的な一橋政権が誕生するのですから、間違いなく庇護されるでしょう(もちろん、用済みとして粛清されるリスクはありますが……)。
ちなみに醍醐とは仏教用語で、牛や羊の乳を精製する過程で変化していく五味(五段階の味わい)の一つ。発酵が最終段階まで進んだ至高の味わいを指します。
実際の製法については記録が残っておらず、バターかチーズか、それとも飲むヨーグルトのようなものではないかなど諸説あるそうです。
いずれにせよ、江戸時代の人間が日ごろ食べ馴れないものであるがゆえに、毒を盛りやすかったのかも知れませんね。
家基の名を呼び続けた家治の最期
最期の力で治済に迫る家治。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」公式サイトより。
「あやつは天になりたいのよ」
御三卿の一家として、将軍位とその継承者たちの命運をもてあそぶ一橋治済。その本性を見抜きつつも手を打てずに世を去ろうとしていた家治は、養子の徳川家斉(長尾翼)に遺言しました。
「田沼主殿頭は……まとうどの者である。臣下には、正直な者を重用せよ……。正直な者は……世のありのままを口にする。それが……たとえ我らにとり不都合なことでも。政において、それはひどく大事なことだ」
ひとしきり伝えた後、いきなり「家基!」と声を上げ、死の病床から這いずり出した家治。そして傍らに控えていた治済に迫ります。
「家基……悪いのは……父だ。全て……そなたの父だ……(※ここまでが亡き嫡男・徳川家基への詫び言。以下は治済に対する警告)よいか……天は見ておるぞ!天は、天の名を騙るおごりを許さぬ!これからは、余も天の一部となる……。余が見ておることを、ゆめゆめ忘るるな!」
ここまで言い切って、力尽きた家治。前半の詫び言は、嫡男を治済の毒牙より守れなかった自身の不徳について言及したのでしょう。
そして後半は言うまでもありません。しかし治済は何食わぬ顔で「(家斉と家基の見分けもつかないほど錯乱していたとして)おいたわしや」とはぐらかしています。
サブタイトル「我が名は天」とは、つまり治済の驕りと、家治の死をかけていたのでした。
ふく・とよ坊の悲しい最期
妻子の死に呆然とする新之助。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」公式サイトより。
水害がある程度収まった後、蔦重は深川の長屋に住む新之助・ふく夫婦を見舞い、米や着物、往来物の仕事など手厚く援助していました。
しかし夫婦(特にふく)は田沼政権を弁護する蔦重の態度に納得いかないようです。
ふく「蔦重は、相変わらず田沼贔屓だね。(民衆のことを)考えているふりをしてるだけさ。だって、家主は金を出せと言われたら店賃を上げるさ。米屋は米の値を上げるし、油屋は油の値を上げる。庄屋は水呑百姓(みずのみびゃくしょう)からもっと米を取る。吉原は女郎からの取り分を増やすだろうね。つまるところ、ツケを回されるのは、私らみたいな地べたを這いつくばっているやつ。世話になってる身で偉そうに悪いけど、それが私が見て来た浮世ってやつなんだよ、蔦重」
まぁ確かにその通りで、古今東西、社会というのはそういうものとしか言えません。他の赤子にまでお乳をあげながら糊口をしのいできた彼女の苦境は、察するに余りあるものです。
そんな彼女が押し込み強盗に遭って殺されてしまうのだから、世の中というのは無情にも程があります。
彼女が襲われたのは、お乳を分けてもらいに来た母親の一人が「あの家には米がありそうだ」と夫に告げたから。
劇中でも米や野菜といった風呂敷包みが置いてあり、急いで隠したものの、目を離した隙に物色されてしまったのでしょう。
恩を仇で返すとはまさにこのことですが、新之助は下手人を責めるに責められません。恐らく、一歩間違えば(蔦重の援助がなければ)妻子を養うために似たような犯罪に手を染めかねないことを自覚していたのだと思います。
第32回放送「新之助の義」
義挙に立つ新之助たち。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」公式サイトより。
蔦重(横浜流星)は新之助(井之脇海)を訪ねると、救い米が出たことを知る。蔦重は意次(渡辺謙)の対策が功を奏したと言うが、長屋の住民たちから思わぬ反発にあう…。
※NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」公式サイトより。
もうどこへ行っても逃げられないし、妻子の死から逃げてもならない……次週はいよいよ新之助が義挙すなわち「天明の打ちこわし」を行うようです。
そして田沼政権の没落が決定的に……果たして本作では、どのような幕引きが描かれるのでしょうか。
この期に及んでもなお「田沼贔屓」な蔦重。言っていることは間違っていないけど、やはり場所や状況に応じて空気は読んだ方が……。
まだまだシリアスな場面が続く大河べらぼう、次週も新之助の活躍を期待したいと思います。
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