【べらぼう】で言及された芝全交(亀田佳明)の黄表紙『大悲千禄本』とはどんな物語なのか?

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【べらぼう】で言及された芝全交(亀田佳明)の黄表紙『大悲千禄本』とはどんな物語なのか?

先日の記事で紹介した、天明から寛政期にかけて多くの作品を世に送り出した戯作者・芝全交。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」では、亀田佳明さんが演じています。

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さて、そんな芝全交(しば ぜんこう)が出した黄表紙『大悲千禄本(だいひのせんろくほん)』とは、どんな物語なのでしょうか。

「べらぼう」第30回放送「人まね歌麿」ではタイトルが言及されるだけだったので、その内容を紹介したいと思います。

※以下の章立ては便宜上割り振ったものです。

第一章「千手観音の手、貸します」

芝全交『大悲千禄本』より、千手観音の手を切り取る場面。

今は昔し、千手観音がカネに困って千本ある自分の手を貸し出すことにしました。

何で仏様がカネに困っているのか?とか、手を貸してカネになるのか?とか、そういう野暮なツッコミはご遠慮ください。

とりあえず一本一両、合計千両の「手切れ金」で面皮屋千兵衛(つらのかわや せんべゑ)に手を切り取らせます。

かくして千手観音から千本の手を借り受けた千兵衛は、さっそくレンタルサービスを始めました。

【千手観音の御手 貸し料】

ちょっと貸し 32文(約1,300円)
1泊2日 銀3匁(約8,800円)
1ヶ月 金2両(約34万円)
1年 金10両(約170万円)

※千手観音(シラミ)のおつぶしには使わないでください。

※おにぎり結びや指人形の五人組(いずれも男性の自慰)には使わないでください。

※心中などで指を切り落とした手は、返却せず買取してもらいます。

以上 十七屋講中(千手観音を祀る十七夜と質屋をかけた)

第二章「観音様の手も借りたい人々」

芝全交『大悲千禄本』より、手を借りたい人々。

お知らせを出すと、猫の手でも借りたい連中が千手観音の手を借りようと集まってきます。

その顔ぶれが、こんなところ。

一の谷の合戦で右腕を斬られた薩摩守・平忠度(たいらの ただのり)。 渡辺綱に片腕を斬られた鬼の茨木童子(いばらきどうじ)。 人形芝居で手をつけてもらえない端役人形。 手のない(接客が下手な)女郎。 てんぼう政宗(まさむね。正宗) 字の書けない男。 三味線弾きの手習い……等々。

中には「足の余りがあったら貸して下さい」なんて者もいました。あいにく千手観音も、足は二本しかないので貸し出せません。

第三章「借りた手の使い方」

芝全交『大悲千禄本』より、借りた手に毛を植えたい茨木童子(右)と、右手に左手をつけてしまった平忠度(左)。

さぁ、千手観音の手を借りた皆さんは、ちゃんと活用できているのでしょうか……。

茨木童子は「こんなスベスベの手じゃあ格好がつかない」と、人形師に頼んで鹿の毛を植えてもらいました。

平忠度は間違えて左手を借りてしまい、せっかく歌を詠んでも文字が反転してしまいます。

「これじゃ格好がつかないから、詠み人知らずとしておこう」

手のない遊女は手を使ってうまく接客していたものの、ちょっと貸しだったので時間切れに。

「お手が鳴るならお銚子、お手がないからお笑止と笑っておくんなんし」

字の書けない男は字が書けるようになりましたが、なにぶん仏様だから梵字しか書けません。

「何だこの手は、役に立たんな。そのまま返すのも癪だから、爪に火を灯してロウソク代わりにしてやろう」

「あちっ!あちっ!」

「ロウソクのくせに、やかましいな」

……とまぁそんな具合で、みんなやりたい放題の好き勝手に活用?したようです。

第四章「貸した手を回収すると……」

芝全交『大悲千禄本』より、貸した手を回収・点検する場面。

手をすべて貸し出してしまい、手が残っていない千手観音の元へ坂上田村麻呂(さかのうえの たむらまろ)がやってきました。

「鈴鹿山の鬼退治に、千手観音様のお手を拝借したい」

ひとたび放てば千の矢先……を飛ばすお決まりの名場面を演出するためには、どうしても千本の手がなくてはなりません。

※一筋の矢を放つには一対の手で弓を扱わねばならないはずですが、そんな野暮はご無用に願います。

緊急事態ということで、千手観音は千兵衛と一緒に貸し出していた手をすべて回収。今度はそれを田村麻呂に貸し出してもう一儲けしました。

しかし回収した手を調べてみると、どれもこれもボロボロです。

女郎に貸した手は小指が切り落とされ、握りこぶしの手は喧嘩したのか傷だらけ。塩屋に貸した手は塩辛く、紺屋に貸した手は青く染まり、下女に貸した手は糠味噌の匂いがとれません。

飴屋に貸した手は粘ついており、飯炊きに貸した手はあちこちしもやけ、米搗屋に貸した手は肉刺だらけです。

他にも剛毛が生えていたり指先が焦げていたり……人差し指と中指から変な匂いがするのは……きっと女性が指人形の二人組(自慰)に使ったのでしょう。

第五章「そしてオチは?」

芝全交『大悲千禄本』より、背中にびっしり手をつけて、いざ出陣。

ともあれ千手観音の手がすべて戻ってきたところで、今度はそれを田村麻呂の背中に装着。これで千手観音の御加護もバッチリです。

「それではさらば!」

手手てん、手手てん、手手てん、手手てん、手手てん
てゝてゝてゝ手手手手手手手 手手手手手 手手手手手てててててててててててててててて
てててててててててててててててててててててててててててててててててててててててて……

※原文より。

去っていく田村麻呂。この「て」の字が「め」の字だったら、薬師如来(※眼病平癒に「め」の字を書いて)に奉納するのに。というオチ。

終わりに

……というお話しでした。

ちょいちょい小ネタを笑えるところも散りばめつつ、そもそも「千手観音の手を切り取って貸し出す」というクレイジーなシチュエーションがたまりませんね。

芝全交は他にも『十四傾城腹之内(じゅうしけいせい はらのうち)』『芝全交智恵之程(しばぜんこう ちえのほど)』『玉子の角文字(たまごのかくもじ)』など、エッジの利いた戯作を世に出しているので、また改めて紹介したいと思います。

※参考文献:

芝全交 戯作 ほか『大悲の千六本 1巻』国立国会図書館デジタルコレクション

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