『べらぼう』闇堕ち寸前の蔦重を救った鶴屋と北尾重政──急転直下する森下脚本の今後の行方は?【後編】

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『べらぼう』闇堕ち寸前の蔦重を救った鶴屋と北尾重政──急転直下する森下脚本の今後の行方は?【後編】

第38回「地本問屋仲間事之始」では、蔦重はもちろん自本問屋やクリエーターたちが「出版の自由」をかけて、松平定信(井上祐貴)との戦いが始まりました。

恋川春町の死を無駄にはしたくないという思い、「女郎が皆幸せになれるような場所にしてえ」と瀬川に誓った吉原が、松平の政策のせいで、地獄と化しそうなことへの怒り。そして、「戯け者はふんどしに抗っていかねぇと、一つも戯けられねぇ世になっちまうんだよ!」という今の幕府に対する危機感。

背負う無念や怒りが大きいが故に、妻てい(橋本愛)とも大喧嘩、クリエーターの北尾政演(古川雄大)とも言い争いになり絶縁。

さらに、蔦重が出した黄表紙本『鸚鵡返文武二道』が松平定信の怒りを買ったことが原因で、出版に関してもさらに厳しい統制がしかれ、自分の仲間である出版を生業とする人々を苦境に陥れてしまいました。

もちろん、このまま悔しさを胸にすごすごと引き下がるような蔦重ではありません。

【前編】の記事はこちら↓

『べらぼう』ブチギレる蔦重、暴走する定信…実は”表裏一体”な二人が守ろうとしているものは?【前編】

皆に責められる蔦重を冷静に助ける鶴屋喜右衛門

蔦重にとって、鶴屋喜右衛門(風間俊介)は本当に頼れる仲間になったなと感じた今回。

蔦重の行動に対し「面白いですねえ、あの蔦重が、かつての己のような輩を潰そうとするのは」と皮肉って笑ったり、政演を呼び出し話し合いの前に「くれぐれも短気を起こさないで」とか「怒らないで!」と逐一叱ったり。蔦重が鶴屋にちょっと甘えている感じも興味深い。クールに見えて、根底のところで蔦重を見捨てずに協力する“愛”を感じます。

今や頼もしい味方の鶴屋の旦那 NHK大河「べらぼう」公式サイトより

「モテたいから絵を書いて、楽しいからやってる」という政演に「てめえさえよけりゃそれでいいのかよ」と蔦重が怒りをぶつけるところは口をはさまず、政演に「でもしくじったのは蔦重さんじゃねえですか」と本音を吐き出させ、両者がお互いに己の非を振り返って考えさせるように持っていくのはさすがですね。

とうとう、定信は、“新しい書物の出版は奉行所の許可を得ろ、時事問題やみだらな内容などを書物や一枚絵にすることも禁止”という厳しいお達しを出します。それもこれもすべて蔦重が出版した黄表紙が逆鱗に触れたせい。

蔦重は、地本問屋、絵師、戯作者、彫り師、狂歌師などを全部集め、自分の行動が統制のきっかけになったことを謝りますが「どうしてくれるんだ、べらぼうめ」と皆の怒りは沸騰します。

そこで蔦重が、幕府のお達しの中の“新規の出版は禁止だが、どうしても作りたい時は『指図』を受けること”というお触れの抜け道を逆手に取り、「皆で沢山の草稿を大量にお上に提出して、相手に根を上げさせる」という作戦を説明します。

それを一月でやってほしいという蔦重に「一月?一月でできるだけねえだろ べらぼうめ」とますます座は荒れてしまいました。

皆がエキサイトする中、扇子を口にあて助け舟を出すタイミングを見計らっている北尾重政 NHK大河「べらぼう」公式サイトより

さっそうと人肌脱ぐ蔦重とは一番長い付き合いになる北尾重政

ここで人肌脱いだのが、北尾重政(橋本淳)です。皆が興奮して激昂する中、ひとり冷静に(いつもですが)皆の話を聞いていましたが、「さてと、助け舟をだすかね」という感じで動きます。

北尾重政自身も才能に溢れる絵師なのですが、面倒見がよくとにかく北尾一門の弟子は多い。いつもごきげんで精神的に安定している。そしてたくさんのクリエーターを育てているので先見の明がある。

そんな北尾重政が、いつものように片膝立てたいなせな江戸っ子という感じで「さてと、いきますか」と立ち上がる場面は、かっこよかったですね。なかなか、粋な人です。

「なにかできることはあるかい」と蔦重に申し出ます。北尾重政は蔦重がまだかけだしの出版人だったころから助け、生涯に渡り一番長く深い付き合があった絵師です。

鶴屋の仕切りと北尾重政の助け舟で場はまとまります。

いざという時に、かっこよく蔦重に助け舟を出す。そんな師匠・北尾重政の背中を見つめつつ「自分さえよければいいのかよ。自分の前に先人がいたからこそ自分は自由に仕事できてんだろうがよ」と蔦重に言われた言葉を思い出す政演も、この師匠の背中に守られて来たという事実を実感したのでしょう。

「俺、帰って草稿かきますね」と言います。「おねがいします。政演先生」と頭を下げる蔦重。このやりとりもよかった。

史実でも生涯に渡り、蔦重と長く深い付き合いになった北尾重政 NHK大河「べらぼう」公式サイトより

さらに、ひさしぶりに登場した、鱗の旦那こと鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)の「またあんじものを考えねえとな!」の声がけに蔦重がうれしそうにするシーンもよかった。

昔から、この二人は、“本のアイデアを出し合うのが楽しくってたまらない”そんな表情をするのですが、それが久々に見れた胸熱シーンでした。

今回は、鶴屋の冷静な仕切り方、北尾重政の漢気、それに感銘した政演の決断、鱗の旦那の助け舟は、かなり見どころだったと思います。皆、蔦重の暴走に腹は立てたものの、蔦重の瞬発力・熱い気持ち・行動力で助けられたこともあった……ということを思い出したのでしょう。

そして、地本屋総出で、分厚い草案を次々とお上に持ち込むシーンは面白かった。

特に、鱗の旦那が「お指図を」といいつつ、分厚い草案を提出してから、ニヤリと口元で笑うところは、さすが!一度お縄になっているだけに、肝が座っている。

「たかがお上のくせに。本作りをやめさせるなんざ、やぼなこと言いやがって」という思いも伝わってきます。

平蔵を上手に使うあたりはいつもの蔦重が戻ってきた

さらに、蔦重は長谷川平蔵(中村隼人)を吉原に招きもてなします。平蔵は、倹約倹約の世の中で街では無法者が暴れるようになり、彼らを更生させる「人足寄場」の担当を定信に押し付けらていました。

前回、定信に対し家臣が「幕府の役付きになると持ち出しが多く誰もやりたがらない」と訴えていましたね。平蔵も自分の持ち出しが多く懐事情は大変な様子。それを嗅ぎつけた蔦重は、昔平蔵を騙して「本を作るからと」入銀させた50両を「返金」します。

このお金はあの時、食うや食わずで死にそうな目になっていた二文字屋の女郎たちの「米代」にしたと打ち明け、当時の女将きく(かたせ莉乃)と女将を継いだ当時の女郎はま(千鳥/中島瑠菜)が平蔵の座敷に登場し、「おかげで生き延びた」と挨拶に来ます。

河岸女郎で、飢えていて、朝顔から弁当を譲られて貪り食べていた千鳥がお女将の後継となり生き延びていたのが感慨深かったですね。

河岸女郎で飢え死にしそうだった千鳥。NHK大河「べらぼう」公式サイトより

「返金」を一度は遠慮する平蔵ですが、蔦重たちの「吉原も出版も救ってほしい」という願いを引き受けました。

平蔵は定信から、地本も書物と同じように株仲間を作り、「行事」を立てて「改」を行い、行事の差配によるお触れに差し障りのない本なら出版していい、という言葉を引き出します。

規制は厳しいものの、新本を出版するチャンスを確保したのです。

長谷川平蔵に瀬川こと花野井を思い出させ、金を受け取らせて、定信との話し合いを依頼するという流れは、いつもの策士でひとたらしの蔦重が戻ってきた感じです。

今回で、抱え込んだものの重さに押しつぶされて冷静さを失ってしまった蔦重が、いままで関わってきた人々に助けられ、本来に自分を取り戻しました。

なんだかんだ蔦重の術中にハマる長谷川平蔵 NHK大河「べらぼう」公式サイトより

あっという間に儚く消えた幸せな二人の時間

蔦重とは逆に、突然の不幸が襲いかかった歌麿(染谷将太)。最愛の妻きよ(藤間爽子)がそう毒(梅毒)に侵されていたのでした。

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そう毒は、当時は治療法もなく、潜伏期は一時的に治ったかのようにみえるが、突然復活して進行していくやっかいな病です。歌麿と出会った頃は、潜伏期だったのかもしれません。足元にできた疱瘡はあっという間にきよの全身に広がり、意識も朦朧としていきます。

亡くなったきよの遺体の横で、「まだ生きている」ときよの絵を描き続ける歌麿。蔦重は「もう死んでいる、このまま放置しては成仏できない」と歌麿に絵をやめさせてようとします。

現実を受け止め切れずに暴れる歌麿に何度も何度も殴られる蔦重ですが、そのまま彼を抱きしめて離さしません。歌麿の悲しみや切望、喪失感をまるごと受け止められるのはやはり蔦重しかいないようです。

NHK大河「べらぼう」公式サイトより

前回、あまりにも幸せそうだった二人だっただけに、この急転直下の不幸な展開には唖然としてしまいました。幸せから地獄へ、急転直下する森下脚本。

今後、歌麿は立ち直れるのか。蔦重やそれを取り巻くビジネス環境がどう変化するのか。ドラマも 残り3ヶ月ほど。もう少し、ゆっくりと進めてほしいと願いつつ、この先を見守りたいと思います。

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