『べらぼう』蔦重の“初恋の師匠”で最長の相棒!北尾重政の影の功労者ぶりを史実とドラマから探る
大河ドラマ「べらぼう」のドラマの中で、温厚で笑顔が絶えず、粋な所作が“一番江戸っ子っぽい”と人気のキャラ、浮世絵師・北尾重政(橋本淳)。
第45回「その名は写楽」では、そんな重政が、“蔦重にブチギレた!”と話題になりました。
『べらぼう』歌麿と蔦重、“二人の男の業と情”因果の果てに「写楽」の絵が誕生!?史実を元に考察史実でも、蔦重が本屋デビューした頃からこの世を去るまで、ずっと親密に付き合っていた浮世絵師といえばこの北尾重政。
蔦重の“初恋の師匠”であり“最長の相棒”、そして江戸時代最強の人気浮世絵師でした。
刻々と最終回が近づいてきた「べらぼう」。そこで、「蔦重が動く影に重政あり」な、北尾重政の活躍ぶりを史実とドラマと合わせて探ってみました。
実は「べらぼう」影の立役者・北尾重政
穏やかな笑顔、粋な所作、面倒見のよさなどで人気の北尾重政。橋本淳さんがぴったりですよね。いつもご機嫌な重政がブチギレして蔦重に「さすがに付き合いきれねえ。このべらぼうめ!」の啖呵を切ったのは、今回が初めてでした。
蔦重からの「平賀源内風の役者の大首絵を描け」という無理難題に北尾一門の弟子、北尾政演(古川雄大)や北尾政美(高島豪志)らが疲弊していくのを見かねたのでしょうか。蔦重の具体性のない「やり直し!」にも腹を立てたのかもしれません。
重政を演じた橋本さん曰く、「蔦重への想いも込めて」怒ったそうです。
思い返せば、蔦重が重政に初めて出会ったのは「べらぼう」第3回「先客万来『一目千本』」。初出版となる『一目千本』の構成を打ち合わせ時、黒一色だけの墨摺りで120人以上の女郎の姿を載せると聞き、「似たような絵ばかりが延々続いて、面白くねえんじゃねえか?」と重政。
そこで、作業場にある生花に目をとめた蔦重は「女郎を花にたとえるってえのはどうでしょう」と提案します。即、「ツンとしているのは“わさびの花”とか!」と即座に返します。「無口なのは“くちなし”!」など、どんどんアイデアが出る二人のテンポのいい掛け合いが印象的でした。
花魁を生け花に見立て…大河「べらぼう」で紹介された北尾重政『一目千本』全ページを一挙紹介!
北尾重政による『一目千本』蔦屋重三郎(大阪大学附属図書館所蔵) 出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100080738
浮世絵界の“優等生は本屋の息子だった北尾重政は、元文4年(1739)、江戸の小伝馬町にある出版活動を行う書肆(しょし=本屋)の長男として誕生しました。家業は弟に譲り、独学で絵の技術を磨き浮世絵師としての道を歩むようになったのです。
重政は、1枚絵よりも「版本」という木版で印刷する本の挿絵を多く手がけていました。数多くの色を使う錦絵の手法で、美人画、役者絵、武者絵などを手がけて、美人画は鈴木晴信風の手足がすらっとした絵を、役者絵は手足をひょうたんのように描く鳥居派風の画風を取り入れていました。また、書道にも通じ有名書家などに混じって、幟の文字や書などの作品も残したそうです。
史実では、重政の方が蔦重より11歳年上です。年齢差があるにも関わらず朋友としてほかの誰よりも長い信頼を結ぶ関係となったのは興味深いところ。本屋という商売の楽しさと大変さは誰よりも知っているので、蔦重の苦労も理解でき発想力や企画力に共感したのかと思います。
つまり、重政の本屋育ちゆえの出版センスが、若き駆け出し本屋蔦重と出会ったことで、面白い化学反応が生じ『江戸の浮世絵文化』が育っていった……といっても過言ではないでしょう。
蔦重が瀬川に贈った豪華錦絵本『青楼美人合姿鏡』安永5(1776)年、重政は蔦重のオーダーで、葛飾北斎の師匠・勝川春章(前野朋哉)と組み、色彩豊かな豪華錦絵本・大型本三冊セット『青楼美人合姿鏡』を作りました。「べらぼう」では、身請けされていく瀬川(小芝風花)に蔦重が餞別として贈ったシーンは、いまだに記憶に残っているという人は多いでしょう。
のぞいて見たい?吉原遊女の舞台裏を描いた最高級の錦絵本『青楼美人合姿鏡』とは【大河べらぼう】史実では、この頃になると、重政の画風は当時の女性のトレンドを敏感に取り入れより現実的な画風へと変化。『青楼美人合姿鏡』では、従来の浮世絵と比べると、女性の頭身や肉付きなどをリアルに描き重厚さと温かみをプラスした新しい画風になり、浮世絵界に新風を巻き起こしたそうです。
天明6(1786)年には、重政は蔦重のもとで狂歌絵本『絵本八十宇治川』(えほんやそうじがわ)や『絵本吾妻抉』(えほんあずまからげ)を刊行します。蔦重と重政は出会って以来、ずっと名コンビとして互いに刺激を与え合いながら、数多くの本を世に送り出したのでした。
青楼美人合姿鏡 北尾重政・勝川春章筆(文化遺産オンライン)https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/556070
指導力だけでなく面倒見がよく付き合いもいい性格二人の関係が誰よりも長く深く続いたのは、重政の「面倒見のいい性格」も大いに関係しています。
史実でも、重政は優れた指導力があり、面倒見がよく、数多くの弟子を育てています。特に、北尾政演、北尾政美、窪俊満の3名は北尾重政の指導のもと独自の路線を見出して、個性豊かな作品を世に送り出しました。
「べらぼう」の中でも、弟子(北尾政演とか)の不義理を詫びに一緒に蔦重のもとに訪れ「すまねえなあ」と頭を下げてましたね。また、常に物事を俯瞰して観察し、適切なアドバイスをする面も。
新しい仕事を始めるときは重政に相談する蔦重が、女郎の錦絵を出す際に、お金を出す吉原の妓楼主たちに「歌麿は無名だからだめ」といわれて北尾政演に依頼しようとした時のこと。
重政が「俺は“歌”にやって欲しかったな」と言いました。「駆け出し絵師の作品を見ると、将来彼らが落ちつく画風は読める。けれど、『歌』はからきし読めない」と言ってたのが、さすが先見の明があるなと思いました。
また、自分の弟子ではないのに蔦や歌麿に「摺師への指示の方法」をレクチャーしたり、「弟子に自分の名で絵を描かせるのはいかがなものか?」と悩む歌麿をサシ飲みで相談にのったり。ほんとうに、こんな先輩や上司がいるといいなと思わされる人柄でした。
蔦重のピンチのときはすかさず助ける
重政の粋な“助け”が話題になったのが第38回「地本問屋仲間事之始」。
蔦重が出した黄表紙本のせいで、幕府の出版統制がさらに厳しくなり、蔦重は、地本問屋、戯作者、絵師、狂歌師ほか仕事に関わる人々を集めて謝罪をしました。
そして、「本を作るときには奉行所の指図を受けよ」という新たな指示を逆手にとり、“地本問屋が一斉に大量の草稿を町奉行に持ち込めばチェックの大変さに音を上げる”という大胆な計画を話します。「短期間にそんなに草稿を書けるか!」と皆が怒る中、頭を下げ続ける蔦重。
そんな状況で「んじゃ、助太刀に行きますか!」と勝川春章。
「弟子が世に出られなくなっちまうからね」と重政。
立ち上がって蔦重に歩み寄り、微笑みつつ「俺たち、役に立てっかな?」……付き合いの長い師匠たちの、粋な手助けでした。
怒っていた全員がやる気になり、どんな本を作ろうかと、打ち合わせが始まります。「春章と重政の二人が蔦重を助けるならしょうがねえ、俺たちもやるか!」といったところでしょうか。こうやって、影から物事が動くきっかけを作り、蔦重の背中を押す役目を果たしているのですね。
重政亡き後に浮世絵の質が下がったと太田南畝
文政3年(1820)に死亡する直前まで絵師としての仕事を続けていた北尾重政。その存在は、喜多川歌麿や葛飾北斎などにも影響を与えていました。
江戸時代の浮世絵師の伝記や来歴を記した本『浮世絵類考』には、「重政は近来錦画の名手也、男女の風俗武者絵を画、刻板の文字を能くかけり」と書かれています。
また、狂歌師・太田南畝(桐谷健太)は、「近年の名人なり。重政没してより浮世絵の風 鄙(いや)しくなりたり」と重政のことを高く評価しています。
弟子たちがこぞって浮世絵を描くようになっても、“若手の仕事”と言われていた挿絵の仕事を中心に手がけ蔦重の出す本を支えていた重政。
駆け出しの頃、勢いで突っ走っていた蔦重を助けて以来、何度も何度も背中を押したり、助言をしたり、ヒントを与えたり、助けたりと、「蔦重栄華乃夢噺」どおり蔦重の夢を支え続けました。
「べらぼう」では、謎の絵師・写楽は、蔦重とその仲間たちで立ち上げた“チーム写楽”のもとに、離れていた歌麿が戻ってきてアドバイスをすることで「写楽」が誕生する流れ。
これも、蔦重と絵師たちが悩んで停滞する状況に「やってられっか、べらぼうめ!」と喝を入れ、写楽誕生への流れを作った重政あってのことです。
北尾重政・勝川春章・蔦屋重三郎 NHK大河「べらぼう」公式サイトより
面倒見がいい、いつもご機嫌、笑顔が安定している、所作が粋……さまざまな高評価をされている重政。SNSでファンが「重政先生のスピンオフを作って!」とコメントするのも納得でしょう。
北尾重政は、数多くの有名な浮世絵師を育て上げ、江戸のポップカルチャーを生んで育んできた“影の功労者”。
歌麿や北斎のように誰もが名前を知る絵師ではありませんが、江戸から今につながっている文化の担い手だと思うと、その人生、生き様、人柄、作品など重政を中心にしたスピンオフドラマを観てみたいと思いました。
初めて自分の本屋としての「夢(本)」を依頼、快く承知してくれた“初恋の師匠”であり、それ以来、一番付き合いの長い“最長の相棒”。
ドラマ「べらぼう」の最終回、重政は蔦重を旅立ちをどのような言葉で見送るのでしょうか。
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