“豚丼”は代替メニューなんかじゃない!北海道(十勝・帯広)の郷土料理としての素顔とその歴史に迫る

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“豚丼”は代替メニューなんかじゃない!北海道(十勝・帯広)の郷土料理としての素顔とその歴史に迫る

十勝・帯広の郷土料理

北海道という広大な大地を語る際、十勝・帯広という地域は独自の食文化を形成している重要な拠点として挙げられます。

その象徴とも言えるのがこの地域を代表する郷土料理・豚丼ですが、この料理が辿ってきた歴史的背景については、意外なほど知られていません。

豚丼は単なる観光客向けのご当地グルメという枠を超え、地元家庭の食卓に深く根を下ろし、年間を通じて老若男女に親しまれる日常食としても機能しています。

もちろん、専門店や多くの飲食店でも提供されています。

調理法の基本は極めてシンプル。厚めにスライスした豚のロース肉やバラ肉を焼き上げ、醤油と砂糖をベースにした甘辛いタレを絡める。これをご飯の上に豪快に盛り付け、店舗や家庭によっては白髪ねぎやグリンピースを添えることも。

十勝帯広名物・炭火焼豚丼

特に専門店においては炭火焼きを採用することが多く、メイラード反応による香ばしさと脂の甘みが、この料理の最大の魅力と言えるでしょう。

しかし、なぜ酪農王国・北海道において「豚」だったのか。その歴史的必然性を理解するためには、十勝地方における豚肉食の定着過程、さらに言えば開拓の歴史そのものへと遡る必要があります。

「豚とひとつ鍋」

明治時代、十勝の開拓は依田勉三率いる晩成社によって推し進められましたが、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。

彼らは豚の飼育やハム製造にも挑戦しましたが、当時の技術や環境では多くが失敗に終わり、生活は困窮を極めました。

「開墾のはじめは豚とひとつ鍋」という勉三の句が残されているように、豚は開拓民にとって身近でありながらも、過酷な生活を共にする存在だったのです。

アイヌの民族衣装を着た依田勉三(Wikipediaより)

そうした苦難の末、明治末期から大正時代にかけてようやく養豚業が軌道に乗り始め、十勝地方、特に帯広市周辺において豚肉文化の下地が形成されていきました。

豚肉食が一般家庭にまで普及したのは大正末期と言われています。そして、この土壌の上に「豚丼」という具体的料理が誕生するのは昭和初期のことです。

1933年(昭和8年)、帯広市内の食堂「ぱんちょう」の創業者である阿部秀司氏が、この名物料理の考案者とされています。

彼は調理における特色あるメニューを模索する中で、当時、滋養強壮の食材として人気がありながらも高価で庶民には手が出しにくかった「うなぎ」に着目しました。

うなぎの蒲焼きのような風味を、より安価で入手しやすい食材で再現できないか。そうした発想から、身近な食材であった豚肉を用い、うなぎのタレを参考にした独自の甘辛い醤油ダレを開発したのです。

「鰻丼よりもうまい」というキャッチコピーとともに売り出されたこの丼は、炭火で焼かれた豚肉の香ばしさが労働者たちの食欲を刺激し、瞬く間に評判となりました。

吉野家が元祖ではない

これに追随するように帯広市内の他店も豚丼の提供を開始し、各店がタレの配合や焼き方に工夫を凝らすことで、地域全体の名物料理へと発展していったのです。

さらに時代を下り、2003年のBSE問題による牛肉輸入停止措置が、豚丼の知名度を全国区へと押し上げる皮肉なきっかけとなりました。

牛肉不足に陥った大手牛丼チェーンの吉野家などが、代替メニューとして豚丼の販売を開始したのです。

この出来事により、多くの人々が「豚丼」という名称を認知することとなりましたが、同時に一つの大きな誤解も生じさせています。すなわち「豚丼は牛丼屋の代替メニューとして生まれた」という認識です。

しかし、これまで述べた通り、帯広の豚丼はそれとは全く異なる文脈、すなわち昭和初期からの長い歴史と独自の調理法を持つ郷土料理なのです。

豚丼の白髪ネギのせ

牛丼チェーンのそれとは区別するため、「帯広系豚丼」「十勝豚丼」といった呼称が用いられるようになったのもこの時期からです。

現在の北海道グルメシーンにおいて、札幌の味噌ラーメンやジンギスカンと並び、十勝の豚丼は確固たる地位を築いています。

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参考資料
北都物産/宅建業と木材業
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日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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