『べらぼう』愛の告白に胸キュン!松平定信(井上祐貴)──ツンデレなオタク全開!10の魅力【後編】
松平定信(井上祐貴)の人間味あふれる魅力。【後編】では、“べらぼう史上最高の萌えキャラ”定信が、憧れの耕書堂で見せたかわいい一面、抱えてきた後悔と懺悔、最後のウキウキ笑顔などの魅力を振り返ります。
【前編】の記事↓
定信の政を皮肉った黄表紙3作の中で、売れ行きがイマイチだった、恋川春町(岡山天音)作の『悦贔屓蝦夷押領』。
悩んだ春町重は、リベンジとして “文武政策という流行りに乗っただけの、ニワカ文武のトンチキ侍”を描くことにします。そして、定信の著作『鸚鵡言』にヒントを得た『鸚鵡返文武二道』を書き上げました。
定信をからかった攻めた内容なため、蔦重の妻てい(橋本愛)は出版を反対。けれども春町は「この本には定信を諫める意味合いがある」といいます。
ところが、定信は春町の新作に大激怒し『鸚鵡返文武二道』を絶版にしてしまいました。春町は作家活動に理解のある主君・松平信義(林家正蔵)のもと、隠居処分で済むはずでした。
けれど、定信の蝦夷政策が気に入らない一橋治済(生田斗真)が、春町の『悦贔屓蝦夷押領』を取り出して、「そなたこそが田沼病と笑われはせぬか」とおちょくったことで定信の怒りは再燃してしまいます。
「恋川春町を名乗る『倉橋格』を呼び出せ」という始末。藩主・信義が仮病を使い誤魔化すも「それでは小島藩邸を訪れる」と言い張ります。
「逃げろ」と匿ってくれる主君に迷惑をかけられないと追い詰められた春町は自死。しかも、腹を切った後、桶に入った“豆腐の角に頭をぶつける”という天才クリエーターとして命がけの「おふざけ」を残すという壮絶かつ切な過ぎる最後でした。
定信の「神」恋川春町の最後。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
主君・信義は定信に、春町の自死を伝えます。「腹を切り、且つ……ワッハッハ! 豆腐の角に頭をぶつけて」と笑ってみせたあと、「戯ければ腹を切らねばならぬ世とは、一体誰を幸せにするのか」と続け、静かに責める言葉は定信の胸に重く響いたことでしょう。
思えば、老中首座である定信が、一万石の大名の家臣にわざわざ会いにいくというのも不思議な話です。「仮病かどうか確かめる」なら、使いの者に確かめさせればいいだけ。定信は、屋敷を訪れても春町を手打ちにしようなどは思っていなかったでしょう。
きつくお咎めの言葉をいうとともに、実は推しの春町に一目会ってみたかったのかもしれません。けれど、それが春町を死に追いやってしまった。信義と会った後、布団部屋で布団に顔を埋めて慟哭する定信。
激怒したとき「こんなもの!」とばかりに破り裂いた春町の『鸚鵡返文武二道』は、しわを伸ばして丁寧に重ねられてありました。捨てることはできなかったのです。
この取り返しのつかない後悔、悲しみ、衝撃……さまざまな感情の嵐は、独りで受けとめて耐えるしかなかった定信だったのでした。
定信の慟哭を受け止めてきた布団部屋。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
黄表紙など上方に任せれば?にムキに「『世は思うがままには動かぬもの』。そう諫言した者を私は腹を切らせてしまいました。その者の死に報いるためにも私は、我が信ずるところを成しえねばなりませぬ!」……違う方向へと自らを追い詰めていく定信。そして、出版業界はより厳しい規制がされるようになってしまいました。
そこで、蔦重は長谷川平蔵(中村隼人)に頼み、「江戸の本屋は規制が厳し過ぎて新刊が出せない。上方の本屋が黄表紙も錦絵も作ろうとしてる」と定信をそそのかしてもらいます。
「くだらぬ町方の意地の張り合いにございますよ」と平蔵にいわれピキッとなる定信。「くだらなくなどなかろう!江戸が上方に劣るなど将軍家の威信に関わる!」と。俺の大好きな黄表紙を上方に奪われてなるものか!とムキになります。
そして “地本問屋は株仲間を作り、行司(内容の吟味・判定をする役)を立て草稿の改めを行う”と新たな法令を作ることになりました。手玉に取られやすい定信でした。
ところが、蔦重が「教訓読本」と称し袋入の好色本を出版したことが逆鱗にふれ、蔦重は作者の山東京伝(北尾政演/古川雄大)とともに逮捕されます。
なぜか、お白洲には定信がお出ましに。町人の取り調べを、老中首座(現代でいえば総理大臣クラスか)が行うという前代未聞の出来事でした。
定信は、蔦重がどのような男なのか会ってみたかったのか。「二度と戯けた本は作らない」と約束させ耕書堂の命は繋ぎたかったのかもしれません。
ところが反省どころか、舌鋒鋭く戯けパフォーマンスを行なった蔦重は、「身上半減の刑」を申し渡されてしまいます。
けれども、その程度で済んだのは、春町を自死に追い込んでしまった定信の後悔もあったかもと思いました。
蔦重を騙せ!源内に寄せた草稿を作る定信
月日は流れ、蔦重と定信は安徳寺にて再会。実は“生きていた”と噂の平賀源内(安田顕)に呼び出されたと思って出向いた寺で待ち構えていたのは定信のほか、三浦庄司(原田泰造)、高岳(冨永愛)、長谷川平蔵、柴野栗山(嶋田久作)のメンバー。
数多くの命をうばった一橋治済への仇討ちをするべく結集したアベンジャーズです。「どうだ、蔦屋重三郎。我らと共に仇を討たぬか」と誘われました。
蔦重を呼び寄せるための罠、 “七ツ星の龍と源内軒の物語『死を呼ぶ手袋』”の続きは、定信が書いたのでした。絶対にワクワクしながら書いたに違いありません。きっと、「あれ、どうだった?」と蔦重に感想を聞きたかったでしょう。けれど、「源内が書いたと思って騙されて寺まできた」という事実に満足したはずです。
結局、蔦重は仇討ち作戦に乗り「写楽プロジェクト」が誕生します。絵師や戯作者たちが結集して仕上げた写楽の絵を定信に見せると、大満足!といった表情で、「画号は『東洲斎写楽』とせよ。写楽は東洲、江戸っ子。これは江戸の誉としたい」と言います。
名付けることで自分もこのプロジェクトに参加した!という爪痕を残したかったのでしょう。
「あ゛?」という、結構失礼な感じの蔦重の返事には笑いました。
初めての耕書堂に嬉しさが隠しきれない
一度は失敗したものの、一橋治済をそっくりな男・斎藤十郎兵衛(生田斗真)とすり替える作戦は大成功。仇討ちは見事成功しました。そして、定信は国元に帰る前に耕書堂に立ち寄ります。
大名行列の籠から降りた定信は、耕書堂の暖簾をくぐり店内に足を踏み入れた瞬間、笑顔になり今にもわぁ〜!と声をあげるのではないかと思ったほど喜びが溢れ出ていました。
後悔や怒りで何度も血走った瞳が、澄んでキラキラと輝いたのも印象的でした。見ているほうも「そりゃ嬉しいよな〜」と微笑ましくなるほど。
感動の面持ちで店内を見渡し、店頭に並んでいる黄表紙をどんどん手に取る定信。仇討ちに上様を巻き込んだ蔦重の策を誉めます。
「それだけでわざわざ立ち寄ったのですか?」と不審そうに尋ねる蔦重に、「イキチキドコキキテケミキタカカカッタカノコダカ」と、照れ気味に早口で言います。
少年時代に初めて『金々先生栄花夢』を読んで知った「カ行抜き」言葉で「いちど きて みたかった のだ」と言ったのでした。
小鼻を膨らませた「どや!」な達成感に溢れる表情と、照れ臭そうに目を逸らすところがかわいかった。
プライドが高いので、普通に「いや〜、一度ここに来てみたかったんだよ」とは絶対に言わないけれど、わざわざ「カ行抜き」言葉で言うあたりがツンデレな魅力でしたね。
「一度来てみたかったのだ」の後の言い切った顔がかわいい定信。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
「蔦屋耕書堂は神々の集うやしろ」の名台詞さらに「春町は我が神。蔦屋耕書堂は神々の集うやしろであった」と文学オタクらしい名台詞を言う定信。
春町の死は自分の政の中で唯一の不覚と認め、本の内容を例えに出し「上がった凧を許し笑うことができればすべて違った」と、懺悔の言葉を口にします。ほかならぬ蔦重にこの言葉を伝えたかったことでしょう。
「春町先生を唆し、でっけえ凧をあげさせてしまったのは自分」という蔦重。
二人で店内に貼られている手書きの本の題名と春町の名前をじっと無言で見つめました。お互いに「この人も自分と同様、生涯忘れられない罪悪感を背負いここまで来たのだな」と思ったことでしょう。
今までずっと、定信に対して感じ悪く接していた蔦重が初めて「ご一緒できてようございました。」と丁寧に頭を下げたのには、ぐっと来ました。二人の心がやっと歩み寄った瞬間。
照れ臭さもあったのか、「今後はよい品物は白川に送るように。抜け目ない商人に千両も取られたゆえ、倹約せねばならぬ」と嫌味で返すところが定信らしい。(ほんと「そういうとこですよ」)
そして、店頭の黄表紙本をどんどん手に取っていくちょっと大人気ないところも笑えましたね。(春町の本は豆腐桶に入ってました)
籠の中で待ちきれないとばかりに、ニコニコ顔で黄表紙を読み始める定信。SNSの「コミケ帰りの戦利品を帰りの夜行バスで見ちゃう人」という例えがまさにぴったり。こちらも思わず微笑んでしまうような、定信がかわいい場面でした。
コミケ帰りのホクホク顔の定信。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
実は文学好きで豆本作家の一面も井上祐貴さんがまさにドハマリ役だった松平定信。
史実では、定信は豆本作家の面もあり、現存しているものだけでも160冊以上あるとか。隠居後は時間があると豆本を作っていたそうです。
また、日本で初めて誰でも入れる庶民の憩いの公園「南湖公園」を作ったりもしています。文学や浮世絵など日常的な楽しみが、実は人生をより豊かにしてくれるということをよくわかっていた人なのでしょう。白川に帰った後の活躍ぶりをスピンオフでみたいなと思いました。
清濁を合わせ飲む田沼意次の人間臭さを魅力的に描いただけではなく、その最大のライバルである「清き流れに住み難い」ほどの堅物・松平定信を、萌えキャラとして実にチャーミングな人物に描いたのも「べらぼう」の面白さでした。
耕書堂での蔦重のやりとりは名場面。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
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