【豊臣兄弟!】あの“迷い”は史実の豊臣秀長への布石——なぜ小一郎は戦に向かった?直が突きつけた問い
「やはり来たか。小一郎」。
戦の準備をしている場に現れた弟を、にやりとして迎えた藤吉郎(池松壮亮)。侍になる決心をし飛び出した村に帰ろうとした小一郎(仲野太賀)。
けれども、出陣の支度をする藤吉郎の前に、甲冑を着け刀を下げた姿で現れました。瞳にはメラメラと燃える炎が映り込み、その覚悟が湛えられていました。(王道の少年漫画冒険物のような演出でした)
ここまでくるには紆余曲折があった、今回の『豊臣兄弟』第3話「決戦前夜」でした。
「豊臣兄弟!」直の言葉の真意、藤吉郎はなぜ撃たせた?斬新すぎた草鞋の逸話…第3回放送を考察前回、母や姉妹が「たっしゃでな〜!」と鳴らす「願いの鐘」の音に見送られ、意気揚々と故郷の村を飛び出した藤吉郎・小一郎の兄弟と、小一郎の初恋の女性・直(白石聖)。
清洲に到着した三人の新しい生活がスタートし、いよいよ、誰もが知る激動の乱世へと時を刻む針の音が聞こえ始めた気がします。
今回は、のちの秀長を彷彿させる小一郎らしい“迷い”、本心を“気づかせた”直の存在を、史実が伝える秀長の人間像や軌跡とともに考察してみました。
明るく「願いの鐘」を鳴らし兄弟を見送った母と姉妹。NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより
兄弟の初恋の人同士が、姫と侍女の関係に清洲に到着した藤吉郎、小一郎、直は、織田家に使える武士・浅野長勝(宮川一朗太)の屋敷を訪れます。
そして、直は「侍女がみな喧嘩するか泣いて逃げ出すか」くらい、振り回しキャラの長勝の娘・寧々(浜辺美波)の侍女になることに。
寧々の前でデレる小一郎に腹を立てた直は、寧々に「こちらの方は?」と問われて「許嫁です!」と、自分ではっきり答えるのが直らしくて笑える場面でした。
ご存じのように、直は小一郎の幼馴染で初恋の人ですが、ドラマのオリジナルキャラクターで実在の人物ではありません。
“芯がまっすぐで意思がはっきりしていて、嫌なことは嫌やという性格”という設定。
以前、直を考察した記事でも書いたのですが、“派手さはないけれども芯の強さを持つ直は、後年「秀吉の名補佐役」と称される秀長の人物像と静かに呼応している”ように見えます。
そんな直は、負けず嫌いな感じの寧々と、どのような化学反応を起こしていくのでしょうか。
寧々の侍女となった直。今後の展開はいかに。NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより
太陽と月が運命の軌道に乗り動き出す「豊臣兄弟!」のオープニングで、藤吉郎(秀吉)は太陽、小一郎(秀長)は月を思わせるデザインの映像があります。
確かに、出世街道を爆進していく秀吉と、それを陰で支える秀長は、太陽と月のようなイメージに例えるとぴったり。
実際、この「豊臣兄弟!」に合わせて岐阜県の大垣観光協会では、表舞台で輝いた“秀吉は墨俣一夜城と太陽を金色ベースで”、陰で支えた秀長は“大垣城と月を銀色ベースで”表現した、2枚一組のデザインの武将印を販売しています。
そして、それに呼応するように、藤吉郎の初恋の相手で生涯のパートナーとなる寧々も“明るく輝く太陽”のイメージ、小一郎の初恋の人ながらも結ばれない(悲劇の結末をむかえるらしい)直は“静かに闇夜で輝く月”のイメージがします。
第3話では、そんな“太陽”と“月”たちが、運命の軌道に乗り静かに動き出した感じがしました。
衣装の色合いや柄がそれぞれの個性を浮かび上がらせている。NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより
武将・信長 VS百姓・小一郎藤吉郎の粗末な借家で新生活を始めた豊臣兄弟。
藤吉郎は、15年前に戦で死んだ父親・弥右衛門の仇が、織田家の家臣で槍の名人・城戸小左衛門(加治将樹)であること、戦になったらどさくさに紛れて彼を討とうということを打ち明けます。
そして、永禄3年(1560)5月。およそ2万5000の大軍を率いて、今川義元(大鶴義丹)が尾張を目指しているという知らせが。軍議が開かれるも「何もせぬ」という織田信長(小栗旬)。
戦にならないと敵討ができません。藤吉郎は、清洲城に出向いて信長に「出陣をしないのか」と尋ねるも、「勝つ方法を教えてくれ」と問われ黙り込みます。
と、思いきや、「小一郎申し上げよ!」と相変わらず返答に困るとすぐ弟にムチャぶりする兄っぷり。仲野大河さんの「え!?」」という表情は笑ってしまいます。
しゃがみ込んで「苦しうない、もうせ」と信長にねめつけられ強烈な圧をかけられつつも「それは……勝つすべなどないかと」と、正直に言葉にしてしまいます。
ついで、信長の目を見詰め「ですが、負けぬことならできるやも知れませぬ。和睦なされませ」と。
「今川とてわざわざ血を流すことは望んでいない。我らが争えば時も金もかかることは明白。それよりは和睦を受け入れたほうがよい」……と信長の顔色を伺いながらハラハラする兄を尻目にはっきりと意見を述べます。
「戦いは好まない。皆が平和のほうがいい。だから合理的な解決を」という、のちの秀長らしさを感じる場面。いざ戦いに直面し臆病風に吹かれたわけではないでしょう。
史実では、はっきりとしたことは不明な部分も多いようですが、冷静沈着・温厚で寛大・計画的という人物像が伝わる秀長。
戦はまだ未体験とはいえども、野盗による殺戮を目の当たりにしてきた小一郎。“死と隣り合わせの現実を知る冷静さ”からきたごく当たり前の考えかと思います。
けれども、武将である信長の叱責も当然。戦国時代を生きるには、「命を懸ける覚悟」を求める厳しさも必要でしょう。
そんな武将ある覚悟を知らぬかのように見える小一郎の「和睦」の言葉は信長を激昂させてしまいました。またもや、信長にいきなり殴られる小一郎。
衣装デザイナー氏「信長といえば黒、マントのイメージが強いですが今回は紫や赤紫をメインカラーにしました。」とのこと。NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより
臆病風だけではない現実的な言葉に秀長らしさが「和睦は敗北。たとえ負けるとわかっていても命をかけて戦わねばならないこともある。それが侍じゃ。志のないものは失せよ。」と信長。
個人的には、そこで目が覚めたように瞳を輝かせて「は!命をかけて戦います!」とはならない小一郎が、のちの秀長らしくて好きでした。
逆に、小一郎の瞳には、“侍というものに対する怒りと失望”が灯ったような。
「ああそうかい。侍なんぞこっちから願い下げじゃ」と呟いて、立ち去る小一郎。村を出たときの「侍になるぞ!お〜!」という希望や夢が急速に萎んでいくのがみえました。
その帰り道、城戸小左衛門にばったり会います。「どけ!」と怒鳴られても無視する小一郎。「その木彫りのお守り御利益はありますか」といきなり聞きます。(実はそのお守りは父親のもので小左衛門に盗られた?)
「御利益はある、もらいもんだが」と言いつつ、おのれの自慢話をして父親の悪口を言う小左衛門に、笑いながら「あまりにもブサイクなお守りなのであなたさまにお似合い」と、強烈な喧嘩をふっかける小一郎。
“侍”というものにうんざりし過ぎてヤケになったようにも見えます。
小一郎は、以前、戦の準備をする年配の家臣に小左衛門が「俺は戦でたくさん殺している。お前と俺とではどちらが役になっているか?」とすごく威張り倒していた場面を見ています。
小左衛門は「父の仇」と言うだけではなく、「殺傷能力だけが自慢の威張り倒す嫌な“侍”」という認識もあったのでしょう。
参考記事:
『豊臣兄弟!』あれは不穏な伏線!?藤吉郎に容赦ない稽古をつけた城戸小左衛門の正体と今後の展開前回、野盗に斬られた友人の亡骸を抱きしめ「信長も信長じゃ…偉そうなこと言うて、わしらのことを守ってはくれんじゃないか!わしらが米を作らなにゃ生きていけんくせに…」と慟哭していた場面を思い出します。
「負けるとわかっていても命をかけて戦うのが侍」……覚悟を決めたかっこよさげな言葉ではあるけれども、その侍の命を支える米を作るのは百姓。いざ戦になれば、犠牲になるのは戦わない百姓。
小一郎は、強くなり偉くなり皆を守りたいと侍になると決意したものの、その現実に直面して幻滅して、すっかりやる気を失ってしまったように見えました。
小一郎の“根っこ”を照らした「直」のストレートな言葉
侍を捨て「村に帰ろう」という小一郎に、「勝手に決めないで!」と怒り「いやじゃ!」という直。
あんたは本当にそれでいいの?
あんたは利口だから勝てない相手には最初から負けを認め、傷つかないように格好をつけているだけだと。
けれども、本当はそういう自分が悔しいくせして。だから、身分が低くても這い上がれる侍になって見返したのでしょ?
今戦わなくていつ戦うのか。侍になったのは自分自身のためではないかと。
と言います。
直は、村が野盗に襲われたとき。野盗に首を斬られた信吉(若林時英)の亡骸を抱きしめて、「なんなんじゃこれは…わしらが何をした!!」と慟哭する小一郎の姿を見ています。
彼はただ「侍に憧れただけ」ではなく、百姓という弱い立場で家も家族も命さえも無惨に奪われてしまうだけの人生でいいのか……と、思ったはず。
そんな、小一郎の考えていることが手に取るようにわかる直。幼いときからずっと見ているだけあって、内面の動きが手に取るように肌感覚でわかるのでしょう。前述の言葉は、直にしかいえないセリフですね。
直の言葉は、小一郎の“根っこ”の声を代弁し、鮮明に照らしました。
そして、自分の本来の気持ちを再認識し迷いを吹っ切った小一郎は、出陣の支度をする藤吉郎の前に、甲冑を身につけ腰に兄が戦場で拾ったとくれた刀(縁起が悪いと断ってましたが)を下げ姿を現します。
月の光に照らされ再び立ち上がった小一郎。
単なる、「俺も敵を倒すぞ〜!」な「宣戦布告」ではなく、自身の迷いを乗り越えたことの「意志の表明」。
これから秀長という人生への「いざ、出陣じゃ!」だったのでしょうか。
架空のキャラクターである直の存在は、小一郎から秀長へと人生が切り替わっていく道標として必要だった。そんな気もしました。
直の言葉は小一郎の“根っこ”を照らす。NHKT大河「豊臣兄弟」公式サイトより
最後に……豊臣秀長は、温厚・誠実・思慮深い人物として、戦場での派手な武勲よりも、豊臣政権を支える冷静な判断や調整力、計画力が評価されました。
実際に、表舞台に登場するのは、信長の家臣として兄の秀吉が頭角を表し始めた頃と伝わります。
今回、ドラマで鮮明に描かれた小一郎の「迷い」は、将来的に史実の秀長の人物像を表す布石なのかもしれません。
次回の4話「桶狭間!」。いきなり勇猛果敢な侍ぶりを発揮して手柄を立てる……とは、到底思えない小一郎。もしかしたら、「腕」ではなくその「知」でなにか働きぶりを見せてくれるのでしょうか。
「豊臣兄弟!」ついに桶狭間、父の敵討ちなるか?次回1月25日放送のあらすじ&場面写真、相関図が公開日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan


