『豊臣兄弟!』直(白石聖)の孤独と別れの予感…“家族の輪”に入れなかった直は豊臣秀長の原点だった
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」第6話『兄弟の絆』。根底に流れたテーマは「人を信じる力」でした。
(松川博敬チーフ・プロデューサーによると、このドラマは「人を信じる力」の話をしているのではないか、と思うようになったそう)
「人を信じる力」が強い豊臣兄弟の確固たる絆と、それを失った織田兄弟の崩れゆく絆の違いが、浮き彫りになりました。
【豊臣兄弟!】大嫌いになり申した!小一郎が信長に示した信じる力、豊臣にあり織田になかった“兄弟の絆”鵜沼城と小牧城という離れた場所にいながら、「信じる力」でお互いを守り抜いた兄弟。
藤吉郎(池松壮亮)は宣言していた通り、帰宅と同時に寧々(浜辺美波)にプロポーズします。寧々もほっとした表情で快諾し、いよいよここに歴史的な「豊臣家」が爆誕!
兄弟、母や姉妹、その夫たち、“家族”がみな笑顔で祝福し、「よかったね、お寧々さま」という微笑ましい場面だったのですが。
けれど……。
気になったのが、小一郎(仲野太賀)と直(白石聖)の間に生じた距離感でした。
寧々は藤吉郎の、直は小一郎の“初恋の人”ですが、史実でも、生涯の伴侶となった藤吉郎&寧々と比べると、小一郎と直は、どうも結ばれないようです。
『豊臣兄弟!』小一郎と直(白石聖)はその後どうなる?史実ベースで悲劇的末路や二人の子供を考察もちろん、直はドラマのオリジナルキャラで、小一郎の正妻となる慶(ちか/吉岡里帆)の存在も発表されています。
実際、若かりし小一郎の恋愛関係の記録はないそう。出世してからも正室以外の側室の記録は一人ほどといわれています。
直のような存在の女性が実在したのかはわかりません。
けれども、ドラマでは、直は、一介の百姓で「死ぬのは嫌じゃ!人を殺すのは嫌じゃ!」と泣く小一郎を、信長(小栗旬)に仕える侍になるまで導く人物として大きな役割を果たしてきました。
6回の放送で、随所に演出された「直の孤独と別れの予感」。これからの伏線のような気もしてしまいました。
そこで、気になる
・小一郎にとってただの恋人ではない直という存在
・“豊臣の輪”に入れなかった直の心境の変化
・直という存在が、のちの“秀長”に与えた影響
などを、創作と史実を織り交ぜながら考察してみました。

幼い頃からずっとお互いをよく知っていた直と小一郎。NHK大河『豊臣兄弟!』公式サイトより
小一郎が「生きておれば十分」が直の本音だった鵜沼城に人質になっている兄の命を助けるため、鵜沼城の城主・大沢次郎左衛門(松尾諭)に着せられた濡れ衣をはらそうと奔走する小一郎。
母・姉妹とその夫たち・寧々・寧々の父・浅野長勝(宮川一朗太)の“家族”会議で、小一郎はある策を提案します。
必死な小一郎をじっと見つめる直。その表情はちょっと複雑そう。
「小一郎は、いつも兄者のことで頭がいっぱいだな」という表情と「これ以上、小一郎の身が危うくなってしまわないのかしら」という心配そうな表情でした。
第3話『決戦前夜』で、“侍”という存在にとことん嫌気が差した小一郎は村へ帰ろうとしました。けれど、直は「あんたが侍になったのは、あんた自身のためでしょ!」と、喝を入れ、なぜ村を捨ててきたのかを思い出させました。
そして、第4話『桶狭間!』では、目の前で繰り広げられる殺戮に恐怖を感じた小一郎は「俺は戦で死にとうない、生きて帰りたい」と叫びます。無事に帰還した時、直は人目も憚らずに小一郎を抱きしめ「生きておればそれで十分じゃ!」と言いましたね。
「死にとうない」は、人の命を奪う戦いに直面した者の、正直な言葉。
「生きておれば十分」は、ただ無事を祈り待つしかできない者の、正直な言葉。
小一郎に対する直のアンサーソングは見事で、この二人はこれからソウルメイトとして深い絆で結ばれていくのか……感じさせられたものです。
今は、村にいた頃のように突然野盗集団に襲われ殺される恐怖はなくても、信長に仕えている(というより無鉄砲な兄・藤吉郎に仕えている)状況は、直にとっては心安らぐようなものではなかったでしょう。
“いつ小一郎の身に危険が降りかかるかもしれない”という、別の恐怖や不安を、常に抱いていたはずです。
それが今回、藤吉郎を助けるため無鉄砲なことをしそうな小一郎を見ていると、さらに不安に追い込まれていくのも当然でしょう。
「豊臣家族」の“輪”に居場所がなかった直姉・とも(宮澤エマ)、妹・あさひ(倉沢杏菜)、その夫・弥助(上川周作)や甚助(前原瑞樹)、皆を包む母のなか(坂井真紀)という、兄弟たちの家族。
皆、明るく仲良しで、普段は藤吉郎のことを「お調子者」「エロ猿」などと悪口を言って笑っているものの、人質の件を聞けば、そこは家族なので皆、本気で心配しています。
そして、寧々もすっかりそんな家族に溶け込んでいる様子でした。豊臣の家で料理の手伝いをしている寧々は、本人からのプロポーズはまだでも、もうすっかり「お嫁さん」というポジションを確立している様子でしたね。
けれど、そんな家族の中で、“直の居場所”は不明瞭でした。
「藤吉郎が結婚するまでは……」と、直と一緒になるのを遠慮していた小一郎。
そのせいで、直は、許嫁でもない・妻でもない・家族でもない、とても曖昧なポジションでした。
3人が村を出てから約5〜6年が経過したのではないでしょうか。その間、小一郎は兄者のほうばかりを見ていて、直にプロポーズもしていません。
小一郎に望まれて一緒に付いてきたものの、直にとって「ここは私の居場所だ」と心の底から思える場所が今だにない状態です。
寧々の侍女として支える浅野の家の家族でもなく、豊臣姉妹・夫婦・母の住む家の家族でもない直。
だから、結婚して世帯を持つことで、戦国の世で侍としての道を歩み始めた小一郎にとって「私は貴方が帰ってくる唯一の場所=家」になりたかったはず。
「私が心配しているのは藤吉郎さんじゃない。あんたよ。ずっと兄者兄者って。あんなやつのために死んだら承知しないから。私はあんたにずっと生きていてほしいの。」
いつも兄者、兄者ばかりで自分と一緒になることなど二の次になっている小一郎に、本音をぶつけた直。
「私と◯◯◯とどっちが大事なの!?」なんて、一般的には“うざがられる代表的なセリフ”ですが。
今まで、小一郎をずっと励まし「生きておればそれで十分じゃ!」と思っている直だからこそ、沁みる素直で率直な言葉でした。
藤吉郎を心配する寧々と、小一郎を心配する直。NHK大河『豊臣兄弟!』公式サイトより
「豊臣家族」の“輪”に入れなかった直藤吉郎が無事に帰還して寧々にプロポーズし、ここに「豊臣家」が爆誕した場面。全員が藤吉郎と寧々を囲み嬉しそうに笑っていましたね。
けれども、直はその輪に入ることなく、家の門の前に佇んでいました。うれしそうに涙を流していましたが。
豊臣家族たちの、キラキラした輪の中に入らず、ポツンとひとりだけ距離を置いている直に、とてつもない“孤独”を感じてしまいました。(豊臣家族のハッピーオーラが輝いているだけに、直が静かに立っている姿が印象的でした。)
藤吉郎と小一郎が出世の坂道を登っていくとともに、ご飯も食べれるようになり住まい環境もグレードアップしていく家族たち。そんな出世のスタートラインにポツンと置き去りにされてしまった直。
小一郎は決して直への想いが醒めたわけではありません。城で大沢次郎左衛門に自分を斬るように伝え、覚悟を決めた時。
涙を流しながら口からでたのは「直、すまん」の言葉でした。けれども、それを、直は知りません。想いをちゃんと伝えるのがほんとうに下手な小一郎。
兄と寧々を見て満足そうにニコニコ笑っているだけではなく、直のもとに駆け寄り、「心配をかけたな」と言って抱きしめ、ついでにプロポーズをすればいいのに!小一郎よと、思ってしまいました。
藤吉郎と寧々を囲んで大喜びする“豊臣の家族”。この輪に直は入っていません。NHK大河『豊臣兄弟!』公式サイトより
豊臣秀長になるために必要な存在だった直史実ではなくドラマのオリジナルキャラクターだった直。
けれども、ただ小一郎の存在に花を持たせるために若い女性を登場させたわけではありません。前述したように、村の百姓だった小一郎の胸の中に燃え上がった「侍への憧れ」を察し、背中を押し続けた直。
ずっと傍にいると決めたのに、小一郎はいつまで経っても「兄者!兄者!」で、そのままなので妻にも家族にもなれない。
藤吉郎と寧々の結婚は、直にとって喜ばしいことではある反面、我が身を鑑みて「この先の未来に、希望を見出せなくなってしまった」のかもしれません。
次回の予告では、病なのかふらつく姿や、旅支度をする姿が。そうは思いたくないのですが、小一郎は「自分が帰れる唯一の場所」のはずの直を失うのかも。
もしかしたら、直は、小一郎の恋愛相手という存在だけではなく、のちの「秀長」を作るために大きな役を果たしているのではないでしょうか。
もし失ってしまったら、直という女性は小一郎にとって
・守れなかった存在
・「わしの傍にいてくれ!」と伝えたくせに、その約束を果たせなかった存在
・妻に迎えるはずが、さんざん待たせるだけ待たせてただけで、できなかった存在
という、痛恨と後悔が生涯残る特別な存在になるのではないでしょう。
史実に伝わる豊臣秀長という人物は、温厚・腕利きの調整型・暴走しやすい秀吉のブレーキ役・人望が厚いと、すこぶる評判がよく、兄を支え続けた名補佐として有名です。
歴史に名を残すその人物像の陰には、若かりし頃、直のような「自分が帰れる唯一の場所」を失ったこと、自分を信じてついてきた女性を家族にできなかったことなど、約束を守れなかったことの痛み・後悔・痛恨などが、心にしっかりと刻まれたからではないでしょうか。
次回、直がどのような行動を起こすのか、小一郎との関係はどうなるのか、まったく不明ではありますが、直というオリジナルキャラクターを存在させたのは、のちの「秀長の原点」を作った存在として必要だったのでは……そんなふうに感じました。
最後に予告を見てしまうと、小一郎と直がハッピーに結ばれるという予測がしづらいもの。(見事にその不安が裏切られるといいのですが)
6話のラストで、桶狭間の戦いから帰還した時のように、小一郎のそばに駆け寄って抱き付かず、“家族の喜びの輪”に入れなかった(あえて、入らなかった?)直をみていると、彼女の複雑な心境の変化を感じるとともに、「小一郎がここまで成長するためには、なくてはならない水先案内人のような存在」なのだなと、改めて思いました。(強さと落ち着つきを兼ね備えた雰囲気を持つ白石聖さん、はまり役ですね)
そんな流れを見ていると、出世とは“誰かを(もしかしたら一番大切な人を)置き去りにすること”なのかもなどと感じました。
直は、その“置き去りにされる側”の痛みを一身に引き受ける存在として、たとえ小一郎と結婚しなくても、“秀長の人生の物語”の中心に立ち続ける存在なのかもしれません。
これから切ない展開になりませんようにと祈りつつ、ドキドキの次回からの展開を見守りたいと思います。
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