かつて「タバコ」は神聖な植物であり“万能薬”だった…人類史に刻まれた知られざる役割

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かつて「タバコ」は神聖な植物であり“万能薬”だった…人類史に刻まれた知られざる役割

この間寺めぐりをしていて、本堂の前にある大きな香炉「常香炉」から出る煙を浴びました。「この習慣はなぜだろう?」と、疑問に思ったことはありませんか?

前回の記事では、宗教を超えて広がる“煙”による祈りと浄化の思想を紹介しました。

お寺の香炉で煙を浴び身を清める風習はなぜ?宗教を超えて広がる“煙”による祈りと浄化の思想

続いて本記事では、「煙」をタバコの歴史の観点からひも解いてみましょう。

喫煙がリラックスや健康に良いとされてきた歴史は1500年以上に及び、喫煙が体に害だという風潮になったのは、ここ30年程度に過ぎません。

それどころか、発祥の中南米では「薬」として扱われ、儀式や治療でタバコが使われており、煙によって体内の悪い気を追い出すといった考え方がされていました。

前回の記事で紹介した、ゾロアスター教の流れをくむ仏教での「煙を体の悪いところに浴びる」という風習と同じですね。

中南米から世界に広まった「薬」としてのタバコ

開花したタバコ

もともとタバコは南米原産のナス科の植物です。メキシコのマヤ文明では、7世紀頃のパレンケ遺跡のレリーフでは、神様がタバコのようなものをチューブから吸引している姿が描かれています。

北米・南米の先住民の間では、タバコは単なる嗜好品ではなく、タバコの煙は「天(神)へと昇っていく祈り」そのものと考えられ、神や精霊と交信するための神聖な植物でした。また、狩りの成功や収穫を祈願する宗教的な儀式としてタバコを吸っていたのではないかと考えられています。とにかくタバコのもたらす作用が高揚感を高めていたことは間違いないようです。

また、北米のネイティブアメリカンの間では、仲間内の重要な儀式や合意形成の際に「平和のパイプ」を回し飲みすることで、神に誓いを立て絆を深めました。

メキシコのパレンケ遺跡の神々(イメージ、フォトAC)

西洋にもたらされたのは1492年、コロンブスがサン・サルバドル島のアラクワ族に遭遇したことが始まり。

彼らの友好のしるしとして贈った物の中に、乾燥タバコの葉があったとされています。
先住民がタバコを薬として使う習慣が、疫病に喘いでいた当時のヨーロッパで「病を治す薬草」として大きな注目を集めました。

スペインの医師ニコラス・デ・モナルデスが1571年に著書を出版。自ら栽培・研究した結果をもとに、タバコを「万能薬」として推奨。これがベストセラーとなり、タバコが薬草として信奉される決定的なバイブルとなりました。

まずは宮廷から喫煙の習慣が流行しました。その頃はいわゆる煙管(キセル)と同じで、パイプにタバコの葉を詰めて吸うのが主流。しかし、フランス宮廷ではルイ13世が「鼻から煙を出すのは下品だから禁止」とのお触れを出したことから、粉末を鼻から吸う「嗅ぎタバコ」が流行します。しばらく嗅ぎタバコは貴族の象徴的な携行品になりましたが、フランス革命後、庶民の喫煙習慣であるパイプが一般的なものになります。

その後フランスでナポレオンが登場し、ヨーロッパを征服した過程で、スペインで主流だった葉巻を持ち帰るとその手軽さから流行し、西洋全体に広がります。

時代が下がると更に安価で手軽な紙巻きタバコが登場し、20世紀中頃から主流となり現在に至ります。「パイプ→葉巻→紙巻き」という流行の変遷をたどったわけですね。

語源は?

スペイン語・ポルトガル語の「tabaco」。カリブ海周辺の原住民(タイノ族)が使っていた喫煙具か、植物自体を指す言葉であったとされていますが、はっきりとはわかっていません。ちなみに嗅ぎタバコは「スナッフ」、葉巻は「シガー」、巻きタバコは「シガレット」となどと呼称されます。

日本

日本にタバコが伝来したのはコロンブスのタバコとの遭遇から約50年後の1543年といわれ、ポルトガルから鉄砲と一緒に種子島に持ち込まれたのが始まり。

徳川家康が1601年にスペイン人修道士からタバコの種と薬(タバコ)を贈られた、日本初の喫煙者とされています。

最初は武将の嗜好品として流行し、しだいに民間にも広まり、タバコは肺切り傷の血止め、化膿止め、咳、歯痛、胃病、腹痛、頭痛、しもやけなど、多岐にわたる症状に効くと考えられていました。刻みタバコを傷口に詰めて血止めにする方法は、江戸時代の一般的な民間療法。タバコを吸うことを「一服する」「のむ」と呼ぶのは、薬として扱われていた名残です。

明治期にも「薬」としての広告や、輸入品一覧にも記載があります。

欧米売薬集珍(平野一貫編、半田屋医籍、明34.5/国立国会図書館)

歴史上の有名人も愛飲していました。

伊達政宗(1567年9月5日〜1636年6月27日)

特にヘビースモーカーとして有名だったのが伊達政宗で、日に4度、決まった時間に喫煙をしたそう。
実際に使用していたキセルが現存しており、全長68cmという今では考えられない大きいサイズでした。根付けなどと同じく、キセルも工芸品として趣向を凝らしたデザインが発展していきます。

平賀源内(1728年〜1780年1月24日)

平賀源内も、煙管(キセル)を手にした肖像画が有名ですね。実は世界で初めてライターの原型を発明したのも源内といわれています。

このライターの名は「刻みタバコ用点火器」と名付けられ、キセルにつめたタバコの葉に火を付ける発明品。火打ち石と鉄をぶつけてできる火花が、もぐさにつくことで発火するというもの。

平賀源内が刻みタバコ用点火器を発明したのは1772年なので、この発明を輸出したら世界で流行ったかも!?

現代、宗教ではどう扱う? 仏教では

ところで、仏教には「不飲酒戒(ふおんじゅかい)」はありますが、「不喫」の禁止はありません。なぜなら、釈迦の時代にはタバコが存在しなかったからです。

ただ、僧侶に聞けばやはり受動喫煙や中毒性の観点から推奨はされません(当たり前といえば当たり前ですね)。しかしタバコをたしなむ際には、タバコの葉の植物に感謝をし、周囲の人間に謝罪の心をもって接せねばならぬという姿勢のようです。仏教では生きるということは、直接・間接的関わらず他者に迷惑をかけることと捉えているので、このように寛容な側面も持ち合わせているようです。

キリスト教

個人の嗜好品としての立ち位置は、現代のカトリックやプロテスタントの多くは個人の自由として認めていますが、モルモン教などは健康上の理由からコーヒーやアルコールと共にタバコを禁じています。

イスラム教

コーランに記述はありませんが、現代のイスラム法学者の多くは、健康への害や依存性を理由に「ハラーム(禁止)」または「マクルーフ(忌避されるべきもの)」と見なしているようです。

タバコは、やはり古来の宗教感と関係が深い存在だったことがわかりました。

宗教的イメージと清浄化するイメージのどちらが先かはわかりませんが、千年以上も良いものとして人間に親しまれていたことは確かです。

薬効よりも健康を害するものとして立場はひっくり返りましたが、新型コロナ流行感染の時期には、喫煙者が感染しづらいという医学的見解もありました。

人体の不思議ですね、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということでしょうか。

古代では神の嗜好品であり、宗教では神とつながるアイテムであり、民間では体を清め薬効があるとされてきたタバコ。人類史で無視できない存在であったことは間違いありません。

参考:たばこと塩の博物館せんねん灸

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