【豊臣兄弟!】お市が長政を介錯した衝撃ラスト…“終焉と滅亡”が描かれた第17回『小谷落城』を考察
「いつまでも、あなた様をお慕いしています」
織田には戻らず夫・浅井長政(中島歩)と共に小谷城に残ることを選んだお市(宮﨑あおい)。切腹した長政の介錯をするときに伝えた言葉でした。
ラストシーンが衝撃的な展開だった大河ドラマ「豊臣兄弟!」第17回『小谷落城』。
※関連記事:
『豊臣兄弟!』お市の長政介錯は史実?義昭のその後、義景斬首の実際…怒涛の展開、第17回放送を考察今回はオープニング映像なしという異例の始まりで、「今日は特別な回だ」という意図が込められているように感じました。
最後も、長政の血飛沫で染まったお市の顔から暗転し、黒背景に白抜き文字で「出演」のクレジットのみで重い沈黙に包まれたエンディング。予告もありませんでした。
切腹し意識朦朧とした長政の目に、最期に映ったのは介錯のために戻って来た愛するお市の姿。最期に聞こえたのはお市の声と愛の言葉。
最期、長政は独りではなく愛する妻と共にいられてよかった……。
今回は、小谷城落城までに向けて、いくつかの「終焉」「滅亡」「退場」がかなりのボリュームで描かれていました。
▪️織田信長(小栗旬)が、15代将軍足利義昭(尾上右近)を追放したことによる「室町幕府」の滅亡。
▪️「民や土地を守る」はずが「この手で終わらる」と狂気に染まった朝倉義景(鶴見慎吾)が朝倉景鏡(池内万作)に首を斬られ「100年以上続いた越前・朝倉氏」が滅亡。
▪️浅井長政の自刃により北近江の戦国大名「浅井氏」の滅亡。
ほか、いろいろ盛りだくさんでしたが。今回は、クライマックスを迎えた『浅井長政とお市の最期』を中心に振り返ってみました。
最高のベストカップルだったお市と浅井長政。(NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより)
「すぐに楽にしてさしあげまする」お市の介錯「豊臣兄弟!」チーフ演出・渡邊良雄氏のインタビュー記事によると、第18回からは『羽柴兄弟!』という新しいフェーズに入るため、「第17回は今までのピリオドになる回」にしようという意図があったそうです。
確かに、ひとつの時代の幕引きが行われたという印象がありました。
過去数回に渡り、信長とお市の兄妹関係、信長と長政の間に育まれた兄弟関係、そして長政とお市の愛が深まっていく夫婦関係を、時間をかけて丁寧に描いてきた「豊臣兄弟!」。
兄弟同士の愛情、夫婦の愛情がきめ細やかに描かれただけに、その後待ち受ける『小谷落城』の日が来ないでくれと願いたくなるほどでした。
第10回『信長上洛』のとき、嫁ぐ前のお市が、居合術の稽古をし真剣を手に斬り落とし納刀をやる場面が描かれていたのを覚えている人は多いでしょう。
あれは、最愛の兄の「弟」にはなれずとも剣の腕前はある、いつでも兄のために役立てるという意味かと思っていましたが、今回の介錯につながっていたのですね。
長政をお市が介錯するという異例の演出に、「涙が止まらなかった」「お市の悲しみと覚悟が辛い」と絶賛する声が多い一方で、「女の介錯などありえない」(※)「そんな簡単に介錯はできない」という声も。
実は、「長政の切腹をお市が楽にする」ストーリーはこのドラマの制作初期に決まっていたそうです。
政略結婚で、最初は打ち解けなかったものの、長政の実直で誠実な人柄に触れるうちに夫と深く心を通わせるようになったお市。
夫と心が通い合ったからこそ「あのラストに説得力が生まれるのではないかと考えた」と渡邊氏は考えたそうです。
「お市は、ただ『夫に寄り添う女性』ではなく『主体性を持つ人物として描きたいという意図から、長政との最期の場面の形になった』」……という物語設計には納得です。
介錯する時、「すぐに楽にして差し上げまする」と長政に近寄り「私は変わりませぬ。いつまでもあなた様をお慕いしておりまする」と訴えたあとに、声には出さず「ごめん」と言い、介錯したお市。
長政が「そなたが大好きじゃった」と過去形で言ったのに対し、これからも生きていくお市が、「いつまでもお慕いしておりまする」と、進行形で伝えたのが胸に刺さりました。
この後、柴田勝家(山口馬木也)と再婚するのは有名な話。けれど、たぶん「(長政を)お慕いしておりまする」と進行形で伝えた通り、お市にとって最愛の相手は長政だけなのではないでしょうか。
再婚時点でお市35〜36歳、勝家は60〜61歳で、25歳ほどの年齢差があったそう。また結婚も、最期を迎えるまでわずか7ヶ月ほどという短期間。勝家は、夫というよりも、もしかしたら、誰よりも信頼できて頼りになる保護者のような存在だったのかもしれません。
※「女の介錯」:九州・筑後国(現在の福岡県)の領主、黒木家永という武将が切腹したとき、13歳の実の娘が父の介錯をしたという話があります。
意識朦朧とした長政の目に最期に映ったのは、最愛の妻であるお市。(NHK大河「豊臣兄弟」公式サイトより)
お市を守るために「死」を選んだ長政小一郎(仲野大河)と藤吉郎(池松壮亮)と柴田勝家は、信長に「たってのお願い」とお市救出を申し出ました。
小一郎と藤吉郎は、長政とお市に会い「織田家に戻るよう。信長殿は、謀反はお市さまをを守るためだと分かっている」と説得するも、長政は断ります。
お市を守るための謀反ではあったものの、一時「天下取りの夢をみてしまった。信長にもお市にもすまない」と謝る長政。けれども、「織田信長と戦い、あと一歩のところまで追い詰めたことを、わしは誇りにしている」「だからもう、このままここで終わらせてくれ」と涙ながらに語りました。
「私もお供いたしまする」というお市に「ならん。そなたにはまだやらねばならぬことがあろう」と断り、生き続けることを望みます。
「ずるいお人じゃ。恨みまする」とお市。
長政の返答に納得がいかない小一郎は、
「人はどんな人でも皆死ぬ。病や怪我で死ぬものも大勢いる。なんでわざわざ自ら死なねばならんのじゃ。侍の誇りがなんじゃ。そんなものは捨てて、生きたくても生きれなかったもののために生きてくだされ」
この言葉は、本当、100%賛成でした。
「戦って死ぬが侍の美学」とせず「みっともなかろうが、手柄をあげなかろうが、負けようが、『生きていることが大切』」というこのドラマのポリシーが、今回は小一郎のセリフに息づいていました。
この渾身の説得には、「直(白石聖)の願い」も生きていましたね。
けれども意思を変えない長政は、最期に信長とはできなかった相撲の試合を豊臣兄弟二人を相手に行います。
以前、信長と相撲をとった場面を思い出す長政。思い切り、豊臣兄弟を投げ飛ばし「勝った。わしは勝ったんじゃ。ざまあみろ、信長」と、幻想の中で信長を打ちまかし「これで思い残すことはない」という心境になったのでしょうか。
自分に言い聞かせるように言ったあと、柔らかな表情で「藤吉郎殿、小一郎殿ありがとう。わしのためにここまでしてくれて。最期に会えたのが二人でよかった」
と、静かに微笑みます。こういうセリフを素直に相手に伝えられるのが、このドラマの長政の魅力。ほんと推せます。
お市は「娘たちをそなたのようなよき姫に育ててくれ」「いつまでのそなたらしく強く生きてくれ。わしはそんなそなたが大好きであった」と長政に言われ、渡された手作りの3つのお守り袋を握り締め、娘や次女たちとともに城を出ようとしますが……。
実は、記録によると、お市は長政を置いて小谷城を退却したことを悔やんでいたそうです。
浅井三姉妹の次女 「初」ゆかりの江戸城大奥の老女・渓心院の覚書写本『渓心院文』(お市の実像をうかがわせる信ぴょう性のある史料とされている)に
夫・長政との別れについて「御いちさま仰せには、あざい殿時分出させられさえ御くやしく候に」という記述が。つまり、浅井家滅亡の際に、夫を置いて退去したことを「くやしく」思っていたのです。
お市は共に最期を迎えようとするも、ドラマのように「ならん。そなたにはまだやらねばならぬことがあろう」と説得されたのではないでしょうか。
手作りの「三つ盛亀甲に唐花菱」の木のパーツを入れたお守り袋をお市に託す長政。(NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより
優しい「大男」の物語がお市の行動を決めたそんなお市の最後となる行動を決めたのは豊臣兄弟の他愛ない「物語」でした。
第12回『小谷城の再会』で、小一郎と藤吉郎が茶々を産んだお市と久々に再会した時に、途中まで話をしていた『不思議な大男の物語』。
今回、その物語の続きを唐突に小一郎が語り始めます。
それは、去ろうとしたお市が立ち止まりお守り袋を握り締め、俯いて涙声で「強うなどなれぬ……」と呟いたのを見たから。
「続きを話すと約束していたから」と小一郎も藤吉郎も、泣きながら話を続けます。
湖の水を飲み干して溺れた娘を助けた大男。その娘が大好きなので抱きしめようとするも膨らんだ大きなお腹が邪魔で抱きしめられない。
そこで、大男は「この針を私のお腹に刺してくれ」と娘に頼むも「そんなことはできない」と断られて、自分で針をお腹に刺す。
すると鉄砲水のように水が吹き出し、その勢いで大男は空に昇っていった。
そして月となり、その娘をいつも優しく見守った。
月が丸くなったり細くなったりするのは大男のお腹が膨れたりしぼんだりするからかもしれない。
炎が燃えさかり煙が蔓延する小谷城、腹に刀を突き立て苦しむ長政の映像を背景に、二人は最後まで泣きながら話をします。
「私はいつも思うておった。兄上が太陽ならば殿は月のようじゃと。」というお市。
長政の介錯を決めて「刀を」を寄越すように手を差し出します。一瞬迷う小一郎に、かすかに頷く藤吉郎が印象的でした。
太陽の明るさ・熱は、度が過ぎると眩しく熱くその激しさで人々を疲弊させます。けれども、月は強烈な主張はないものの、静かに暗闇を優しく灯し続けてくれます。まるで長政とお市のことを表現した物語でした。
史実では、浅井長政はかなりの巨漢で、背が高いだけではなくまるで「相撲取り」のような立派な巨体だったそうです。
娘を助け空でいつも見守っている月になった大男は、史実の長政のことを表しているのでしょう。
「刀を」とてを差し出したお市。(NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより)
最後にさまざまな要素が詰め込まれた今回。やはり、個人的には「長政とお市の最期」が一番心に残るエピソードでした。
けれど、「光秀はどうしておる?」と信長に尋ねる足利義昭に、「十兵衛はもう我がものにございますゆえ」と、元カレに対して強烈なマウントをとる今カレ感の強い信長の場面も、印象に残りました。
というのも。「俺のもの」にしたはずの光秀に、これから信長は討たれるから。光秀は、図らずも「公方様が織田に置いていった爆弾」となる未来が待っています。
豊臣兄弟が好きだった義昭。別れ際の「光秀と仲良くしてやってくれ」と頭を下げ「信長が嫌になったらいつでも儂を頼って来い」と将軍ジョークをいうのが好きでした。
確かに制作側のいうように「ピリオドになる回」だけあり、濃密で何度も見直したくなりました。
※大河ドラマ「豊臣兄弟!」関連記事:
『豊臣兄弟!』お市の長政介錯は史実?義昭のその後、義景斬首の実際…怒涛の展開、第17回放送を考察 『豊臣兄弟!』足利義昭の追放で終わりではない!“幻の16代将軍” 信長に翻弄された嫡男・義尋の生涯 【豊臣兄弟!】朝倉氏ついに滅亡…それでも“再興”を諦めなかった男・朝倉景嘉の決断と末路日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan


