朝ドラ【風、薫る】フユは本当に嫌な先輩?実在モデル・吉村セイは若き看護婦を導き慕われた“人格者”だった

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朝ドラ【風、薫る】フユは本当に嫌な先輩?実在モデル・吉村セイは若き看護婦を導き慕われた“人格者”だった

NHK朝の連続ドラマ「風、薫る」。

3月末から始まったこのドラマも中盤に近づき舞台が「病院」となり「若き看護婦の成長ストーリー」がよりリアルになってきました。

それと同時に、ヒロイン二人、一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)が、それぞれのモデルとなった実在の人物、大崎和鈴木雅を彷彿させるキャラになってきています。

また、明治時代にあった「看護婦に対する偏見や差別」「女性が『物申す』ことに対する敵意」も、リアルに織り込まれています。

5月25日(月)からスタートした第9週目のテーマは『看病婦とアメ』。とうとう年配ベテラン看病婦と若き看護婦の関係性が描かれていくようです。

クローズアップされたのは、「看護」は雑で患者に対する態度もつっけんどんだけれど、手術介助ができるベテラン看病婦のフユ(猫背椿)と、ヒロインの関係。

ドラマのストーリー展開予想とともに、実際にあった「看病婦」と「看護婦」の違いもご紹介しましょう。

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永田フユのモデルは「吉村セイ」というベテランの看病婦。NHK朝ドラ「風、薫る」公式「X」より

※現在では「看護師」という名称ですが、この記事では当時の名称に合わせ「看護婦」と表記しています。
※本記事では登場人物のモデルとされる実在人物を紹介していますが、ドラマ上の人物設定や物語展開は創作を含むため、実在人物の生涯・経歴とは異なる場合があります。

養成所では「手術介助」を学ばなかった学生たち

りんの「心に触れる看護」で手術を決意した侯爵夫人・和泉千佳子(仲間由紀恵)の手術は無事終了。そこには、ベテラン看病婦・永田フユ(猫背椿)の手術介助の手際のよさもありました。

看護婦養成所から来た実習生 “ナース7”は、最新のナイチンゲール式の看護を学んでいますが、「手術介助」は学んでいないようです。

史実でも学んだのは、看病の要旨・薬餌用法・包帯術・病褥用器具扱法・患者運搬法・患者拭洗及浴方・消毒方・汚物扱い方・死体扱い方の9種類。

医師の手術介助はカリキュラムには入っていません。実際に大病院でも手術時の器械出し(直接の介助)は、ベテラン看病婦が「OJT(現場で学ぶ)」という形で習得していたそうです。

ちなみに、明確に看護婦と手術専門の看護婦(オペ看)が分かれたのは、戦後の昭和20年〜30年ごろだったそう。当時は医療技術が高度になり手術件数も増えたことから、器械出し専門の技術に長けた「オペ看」の需要が高まったとか。そのため、専門領域として認められるようになったそうです。

実在の人物、吉村セイは後進の指導に熱心だった

ドラマの中の永田フユのモデルは、実在の人物「吉村セイ」という20年以上のキャリアを持つベテランの看病婦でした。

実際は、後進の指導にも熱心な人格者で、吉村セイは大関和ら見習いにも惜しみなく器械出しや大怪我の患者の応急処置など自分の知識やスキルを教え、母親のように慕われていたそう。

「やる気がなく仕事が雑な看病婦」ばかりを見て呆れていた大関和は、セイを見て「正式な看護を学んでいなくても、現場で経験を積みスキルを身に付けた熟練看病婦もいる」と知り、「養成所で学んだ自分たちこそが本物の看護婦」という思い上がりを恥じたそうです。

ドラマのフユは、登場からつっけんどんで感じが悪く、患者の対応もガサツで、“ナース7”をちょっと小馬鹿にしているような人物として、実際のセイとは異なるキャラに描かれています。これは、大関和が経験をした「先輩看病婦と後輩看護婦がお互いに助けあう」プロセスを描くために、設定したのかもしれません。

正しい知識を学んだトレインド・ナースと、数十年も現場で経験を積んだ年配の看病婦。まったく異なるようですが、どちらも「働く女性」。そして、「女中風情が」「金目当てで病人の世話をする賎業」と、世間や(時として家族にも)医師からさげずまれ差別を受けてきた……ということは共通しています。

頭に刻む「学問や知識」も身体で覚える「経験や体験」も両方、必要。

その両者が、お互いの偏見を捨て手を結ぶことで、日本の「看護」はより強靭なものになっていったのです。

トレインド・ナース見習いに対して、つっけんどんなフユ。NHK朝ドラ「風、薫る」公式サイトより

明治時代「看病婦は吉原のやり手婆さん」だったことも

明治時代、軍が運営する病院では規則として「看病婦は40歳以上」と決められていたそう(若い娘だと男の患者が刺激を受けるため)。それで集まってきた看病婦たちの評判はよろしくなかったそうです。

〜「明治初年、東大附属病院で看病婦を雇ったとき、なり手がいなかったので、やむおえずに吉原のやり手婆さんを連れてきて看病をさせた」「そしてやり手上がりの看病婦が、65歳〜70歳くらいで長キセルをふかしながら、若い看病婦の取締にあった」(『明治女性史』)〜

〜看病婦は、莫連女(世間ずれしている女)で「出戻りかさもなくば、あばずれのしたたか者と思われるような者ばかり」(『職業夫人調査』)〜

など、ひどい言いいようの史料も複数存在していたそうです。

実際に、そのような人もいたようですが、すべてが同じ評価をされてしまっては、働いているほうとしては仕事へのモチベーションも下がるし、向上心も失うでしょう。

医師や病院側も、知識を学ばせる機会を積極的に作るわけでもなく、やる気のある人は、自分で見よう見まねで覚えるしかなかったようです。

明治時代の花魁。やり手(左)と禿と。このやり手はだいぶ若そうですが、年配が多かったようです。wiki

ベテラン看病婦に感銘を受けた大関和

そんな状況で働く看病婦の前に、ある日突然、紺色のロングワンピースに真っ白なエプロンとキャップという、モダンなユニフォームの若い見習い看護婦が入ってきて「トレインド・ナースです」と名乗られても、「気に入らない」と思うのは無理もありません。

最初は、やる気がなくぞんざいな看病婦たちに呆れていたトレインド・ナース見習いたちですが、大関和は、吉村セイのような優秀なスキルを持つ人もいることを知り、学問として看護学を学んでいないけれども「長いキャリアを積み、その手でたくさんの命を救ってきたのだ」と改めて実感しリスペクトしたそうです。

確かに、医師の手術のスキルは重要ですが、「器械出し」をする人の手腕も問われます。

実際に、オペ室担当ナースは、手術の流れを先読みする高い集中力、流れを読む目、異変を察知する耳、器械出しの素早さ、長時間の手術にも耐える強靭な足腰、など非常に高いスキルを求められるとか。

それをテキパキとこなす姿を間近で見たら、尊敬しますよね。大関和は吉村セイからさまざまなことを学んだそうです。

素早い判断力と正確さが必要とされる手術介助。NHK朝ドラ「風、薫る」公式サイトより

感情の大関和と冷静な鈴木雅

看病婦の意識改革や知識を学んでもらうことに熱心だった大関和。鈴木雅も同じでしたが、それに加えて、

「看護婦として自立するためにはそれなりの報酬が必要。確かな技術があれば評価を得やすい…報酬には反映されない献身が当たり前のように求められるようになったら看護婦にとっては負担ではありませんか」

と述べたそうです。すごくごもっとも。

大関和と井上雅のこんなやりとりは、感情的になりやすく突っ走るけれども患者の心に寄り添うりん、冷静に現場やプロセスを観察して物事の本質を突く直美という、ドラマの中のりんと直美を彷彿させますね。

彼女たちが帝大病院に勤めるようになった明治21年(1888)から137年も経っているというのに、令和の現在でも「看護婦はやって当たり前」な横柄な態度の患者をたまに見かけます。大病院では「患者によるハラスメントに対する警告」のポスターも貼ってあったり。

最近では「ナースステーションで看護師が水を飲んでいた」という意味不明なクレームもありました。他病院でもよくあるそうで、病院側も患者から見えないところで気を遣って飲むなど配慮しているそう。

このような「看護婦はやって当たり前」「看護婦は休むな」な考えの苦情があること自体が恥ずかしく感じてしまいます。

いつも、りんにタイミングよく声をかける直美。いいバディになってきました。NHK「風、薫る」公式サイトより

看護学生りんとベテラン看病婦フユは手を結べるか

「風、薫る」の原作となった『明治のナイチンゲール 大関和物語』の著者・田中ひかるさんは、コロナ禍になって「感染の危機にさらされる中でも仕事を遂行する看護師さんはすごい」と思って、日本の最初の看護師さんたちについて調べて、この本を書いたそう。

確かに、コロナ禍では、もし自分たちが病に侵されたらお世話になるのに、常軌を逸している差別がありました。暴言・差別・中傷なども見かけました。

ドラマ「風、薫る」が始まった頃「流行病の患者や看病する人間」に対する村人たちの差別の場面は、令和もまったく変わらないな……と嘆息したもの。

ごく当たり前のように、診察も看護も受けられる現代。その最初の道を切り開いて
きた多くの先人の苦労や努力をリスペクトする気持ちは忘れたくないものだと思いつつ。

大関和こと一ノ瀬りんは、年配ベテラン「看病婦」VS最新の若き「看護婦」の間をどのように繋いでいくのか楽しみです。

頑張れ!看護の未来を切り開く若きトレインド・ナースたち!

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参考:

「明治のナイチンゲール 大関和物語」田中ひかる著

「オペ看」ミサヲ 著/ 人間 まお原著

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