朝ドラ『風、薫る』本当にあった“寛太みたいな詐欺”!七変化の詐欺師に重なる明治時代の弱者たち
NHK朝ドラ「風、薫る」は早くも半分が過ぎ、後半に入ろうとしています。
前半の登場人物の中で、名前も職業もルックスも大豹変し登場のたびに話題になる人物といえば、寛太(藤原季節)です。
思い返せば第13回の初登場では、爽やかな青年海軍中尉(自称)の小日向栄介として、ヒロインの大家直美(上坂樹里)の目の前に現れました。
けれども「海軍中尉」は大嘘で、正体は詐欺師。冷静に人を見て判断する力がある直美も、すっかり騙されてしまいました。
けれども、二人とも、親の顔を知らず苦労して生き抜いてきた者同士で、どこかシンパシーを感じ合っているのでしょう。何かと縁は続いています。
6月29日(月)から始まった今週のテーマは『ウソと誠』。
久しぶりに寛太は直美の前に現れました。今度はなんと「大日本帝国憲法発布」 記念碑 寄付金 詐欺師として登場。次々よく思いつくなという感じですが。
「大日本帝国憲法発布」は、その内容云々というよりも、『国民的なイベント』として注目され盛り上がったそうです。
文明開花後は混沌としていた明治時代。そんな社会の中でチャンス到来!とばかりに、「立身出世」や「一攫千金」を夢見る若者はたくさんいました。
寛太は、めざとく時代のトレンドを掴み、短期で金儲けできる詐欺を行っています。
特に実在の人物のモデルはいないようですが、“時代の波をサーフィンのように乗りこなす一攫千金を夢見る若者たちの一人”なのかも知れません。
ドラマの前半期、大注目された“七変化の寛太”という人物を振り返って考察しつつ、「寄付金詐欺」などこの時代の詐欺を調べてみました。
※朝ドラ「風、薫る」関連記事:
朝ドラ『風、薫る』直美に急接近する軍人・小川吾郎(甲斐翔真)は“未来の夫”か?実在モデルとの共通点に注目※現在は「看護師」という名称ですが、この記事では当時の名称に合わせ「看護婦」と表記しています。
※本記事では登場人物のモデルとされる実在人物を紹介していますが、ドラマ上の人物設定や物語展開は創作を含むため、実在人物の生涯・経歴とは異なる場合があります。
その時々でまるで別人になる寛太(藤原季節 )の「七変化」ぶりにはSNSでも驚きの声が。(NHK「風、薫る」公式「X」より)
海軍中尉を名のる詐欺師だった寛太「風、薫る」の男性キャラクターの中でも、その個性では群を抜いている詐欺師・寛太の今までを振り返ってみましょう。
トレインド・ナースになる前、雀の涙ほどの給金しかもらえないマッチ箱工場で働いていた直美は、先の見えない貧困生活に疲弊していました。
上昇志向の塊だった直美は、身分を偽り華族・大山捨松(多部未華子)に接触、頼み込んで「鹿鳴館のメイド」として働き出します。
そんな直美の前に現れたのが、アメリカ帰りの海軍中尉・小日向栄介(藤原季節)だったのです。
栄介は、軍服に身を包んだ礼儀正しく笑顔の爽やかな青年で女性慣れしていない純情そうな感じ。直美は将来の夫候補としてロックオン!デートに応じます。
軍人ということで、「直美の実在のモデル・鈴木雅の夫で、大日本帝国陸軍軍人だった鈴木良光がモデルでは?」と推測されていたのですが……どうやら共通しているのは「軍人」だけだったよう。
その後、直美は遊び人風の着流しにメガネをかけた姿で女性とイチャイチャしている別人のような栄介を見かけます。女性には「欣二」と呼ばれていました。
実は、栄介は鹿鳴館の華族の女性をターゲットにした詐欺師だったのです。基本的に肝が据わっている直美は、そんな寛太を逆に利用し「実の母親探し」を依頼し時々会っていました。
そして、今回は、リッチな西洋のスリーピーススーツに身を包んだ姿で再登場した寛太。あまりの変貌ぶりに、またSNSでも大評判になっていました。
純粋な若き軍人に見えた寛太にすっかり騙された直美。(NHK「風、薫る」公式サイトより)
寛太の新ビジネス!?「憲法発布の記念碑寄付」詐欺高価そうな洋装のスリーピーススーツ姿の寛太は、着流しの遊び人姿とは別人のようです。
直美に会いに来た目的は、直美が探している「産みの母親」の情報を届けにきたのでした。(意外と義理堅くていい人)
立派なスーツ・髭・山高帽という姿に驚いた直美が訳を問うと、「ここのところ、憲法発布で忙しくてさ」と言いました。
そして、いきなり芝居がかった調子で、
「え〜、この度“大日本帝国憲法発布の記念碑”を建設することになりました!そこで、皆様のような名士の方々の名前を記念碑に刻ませていただきます。一口50円から寄付を願います……ってな」
「見栄っ張りの小金持ちに声かけると、おもしろいように金が集まる。どうせ、憲法なんか読んだことあるやつなんか、いやしないんだから」
と、言って嘲笑いました。
相変わらず、世の中のトレンドに乗る詐欺を働いている寛太。商売?は順調で東京から地方まで遠征してるようです。スーツも帽子も、全部儲けたお金で揃えたのでしょう。
実際に、「記念碑 寄付金 詐欺」は存在していたのでしょうか。
国家的イベントの便乗詐欺があった明治時代実際、明治時代、国家的なイベントに便乗した商売・風説・募金の募集など数多く誕生した時代だったそうです。
明治22年(1889)2月11日の大日本帝国憲法発布のときは、日本中が祝賀ムードに包まれ、さまざまな出来事が起こっています。
▪️『絹布の半被』という噂
大騒ぎになったわりには、ほとんどの人が「憲法発布」という意味を理解してなかったので、「天子さまが絹布(けんぷ)の法被(はっぴ)を国民に下さるのだ」という噂が広まってしまいました。
▪️「憲法」そっちのけのお祭り騒ぎ
東京では通りは提灯や花で飾られ、屋台や山車が出て、人々は国旗を振って「万歳」と叫び回り大騒ぎ。国旗がバカ売れしたため職人は徹夜で作り、日毎に値段は釣り上がっていきました。
この様子を見て、ドイツ人の医学者エルヴィン・フォン・ベルツは「日本人は馬鹿騒ぎをしているが、誰も憲法の内容を知らないのは滑稽なことだ」という皮肉を日記に期しているとか。これは現代も同じなので、耳が痛い思いです。
前述した、寛太も同じようなことを言ってましたね。盛り上がるときは「高値に釣り上げてもモノが売れる最大のチャンス」なので、詐欺も当然あったことでしょう。
(ちなみに、ベルツは「風、薫る」の舞台となっている帝都医大病院で精神医学の教鞭をとっていた人物です。)
▪️提灯行列・奉祝式典・祝賀会など
地方でも各地で行われました行列や式典など。募金や寄付の募集、記念碑や銅像の建設なども増えたそうです。
記念碑や銅像以外にも、寺院、学校、橋、神社などでは、高額納付者の名前を石碑や額に刻むということもごく普通に行われたとか。
こんなふうに世の中がお祭り騒ぎになれば、「記念碑寄付」詐欺が起こっても不思議ではありませんね。
大日本帝国憲法発布を伝える新聞。(NHK「風、薫る」公式「X」より)
本当にあった東京府を騙った「腕時計」詐欺明治時代にあった、実際の詐欺事件を1つご紹介しましょう。
慶応4年(1868)8月、江戸府に代わって東京府が開庁。
同年11月、銀座で時計商を営む小林伝次郎の元に、若い男性が来店し、東京府知事・烏丸府知事の家来に「金属製の時計を持参するよう」命じられたと言いました。
見知らぬ男だったので「後ほど」と言うと「急いでいるから間に合わない。後から使いの者を寄越すので、その者に渡すように」と命じて帰っていきました。
翌日、今度は背の高い立派な服装の武士風の男が訪れ「東京府から来た」と言い、色々な時計を品定めした挙句に、14両〜25両ほどの時計を4点選び「持参するように」と言ったのでした。
伝次郎は、立派な身なりで相手を信用してしまったのでしょうか。
「昨日の来た男性に烏丸府知事の御家来から頼まれた……と伺ってます。東京府庁の御台所小頭詰所へ伺いましょうか?」と尋ねると、その武士風の男性は「今日は通用門の突当り入口へ来るよう」と言いつけて帰りました。
そこで、店使い・徳蔵が東京府に出向き取り次ぎを申し入れると、さきほどの武士風の男が出てきて、時計を包んだ風呂敷を受け取り「程なく応対するので待て」と去っていきました。
ところが待てど暮らせど誰も応対に出てきません。徳蔵が烏丸府知事の御台所(買い物等を司る組織)の小頭に問い合わせると、そんな注文はしておらず時計は騙し取られたことがわかりました。
開庁まもない東京府を舞台にしたこの大胆な詐欺事件によって、伝次郎は合計76両もの損害を被り、担当判事は東京府が弁償するように命じています。
この事件後も伝次郎の店は銀座煉瓦街に店を構え、東京時計商工業組合の頭取を務め、明治27年(1894)ごろには東京を代表する時計商として名を馳せました。
最初は「若い男」、次は「年上の武士風の男」だったことから「信用できそう」と思ったのでしょうか。二人はグルなのかグループなのか見当も付きませんが、東京府庁知事を騙り、実際に府庁者で受け取るとはずいぶんと大胆な犯行です。
寛太は明治時代に必死で生きる弱者の代弁者か
一筋縄ではいかないような詐欺師だけれども、殺人などの悪質な犯罪はしない寛太。演じた藤原さんは“寛太という人物像”について、
「明治新政府がシステムを作っていく中で、そのシステムに乗れずこぼれてしまった子どもたちが絶対にいて、それが大人になったのが寛太。
孤児として生まれ育ち、世の中を憎んでいるので『復讐してやる』『金持ちから金を奪ってやる』という気持ちが動機となり詐欺を行い世の中を渡り歩いている。
けれども、社会の弱者の代弁者なので『弱者からは金を取らない、金があるところからしか取らない人間』
と語っていました。すごくしっくりくる寛太像だと思います。
確かに、鹿鳴館の”張りぼての一面”を見抜き、出入りしている人間から金を巻き上げようとし、小金持ち相手に博打で金を巻き上げ、今は「憲法が何かを読んでもいないくせに記念碑に名前を刻みたがるばかな子金持ち」を相手に、寄付金詐欺。
「開化だなんだって今は努力しだいで立身出世っていうけどよ。努力してもどうにもなんねえことなんかいくらでもあるだろ」
悪ぶっているものの、社会的弱者からは盗まない寛太にはどこか好感を持ってしまいます。
記念碑寄付金詐欺をしながらも、直美の母親探しは忘れない寛太。(NHK「風、薫る」公式「X」より)
最後に…最初は、軍人姿で現れたので、直美の実在のモデル・鈴木雅の夫候補か?と思われた寛太。ところがまさかの「軍人はただの詐欺だった」という意外な展開になり、それにとどまらず、“七変化”ぶりを見せ驚かせてくれます。
身分制度もなくなり、出自が貧かろうが誇示だろうが、自分の知恵と度胸と努力次第ではビックチャンスを掴もうと立身出世を夢見る若者が多い時代。
無事たくましく生き抜いてほしい……と思いつつ、直美との関係の進展を見守りたいと思いました。
※朝ドラ「風、薫る」関連記事:
朝ドラ『風、薫る』直美に急接近する軍人・小川吾郎(甲斐翔真)は“未来の夫”か?実在モデルとの共通点に注目 朝ドラ『風、薫る』虎太郎(小林虎之介)が再登場!『立身出世』を夢見る明治社会の若者群の象徴か 朝ドラ『風、薫る』短い人生を駆けた異才…シマケンこと島田健次郎(佐野晶哉)の実在モデル・鄭永慶の生涯日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan


