「一口」が「いもあらい」!? 日本の難読地名には知られざる“名前の法則”があった
旅行や登山に行くと、全く読めない不思議な地名に出くわすこともあります。みなさんもそういった経験はありませんか?
調べてみると、日本語としての「音(おん)」が先にあり、あとから漢字を「当て字」にし、さらにそこから「縁起のいい字」に変化していくことが多いようです。
音は文字と違い、録音して伝達することができなかったため、オトが文字として記されている文献や、地形や方言も含めのフィールドワークから研究が重ねられていますが、なかなか確度を高めるのは難しいようです。ほとんどは「諸説あります」ということになりますが、様々な推察をご紹介します。
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この「イモアライ」ですが「イモ」は疱瘡のことを指し、「アライ」は病気を洗い流すという意味が込められている説があります。
疱瘡とは「天然痘」のことで、強い伝染力と高い致死率を持つ感染症のこと。かつては疱瘡に罹患した際に皮膚にできる「あばた」のことを、「いも」「いもがさ」と呼んでいました。なぜかというと、発疹によりできた小さなくぼみや傷跡が、イモに似ているからだそうです(江戸時代まではサトイモが主流でした)。ちなみに疱瘡治癒の祈願で「いもあらい地蔵」というのが奈良にあります。
イモアライに「一口」という字を当てた理由は、「(サト)イモを一口で食べられるように、一言願えばすぐに病気を治してくれる」ことを願ったのではということです。一言で願いを叶えてくれる神様のことを、通称「一言主」というので、説得力がありますね。
茨城県潮来市(いたこ)この地域は常陸国風土記などによると「板来」「伊多久」と書かれており、古くから「イタク」と発音されていたそうです。
「潮来」の字に変えたのは水戸黄門こと徳川光圀。
そもそもはイタクは潮が押し寄せてくるところという意味。なぜかというと「潮(しお)」は古い方言で「イタ」と呼ばれていたそうです。「イタが来る」という意味だったのですね。
そのため板を潮にかえて「潮来」としたのではということです。ちなみに鹿島神宮の末社に潮宮神社(イタノミヤ)もあります。
高知県安芸市「猿押・熊押」(さるおす・くまおす)
東北から九州の山間部に「押・遅」の字を使った、「オシ・オス・オソ」という地名が夥しく存在します。これは山林に多くの野生動物が生息していたことに由来し、熊押(くまおし)はかつて「熊多し」と呼ばれた狩猟地でした。「熊押山」という山も存在します。
しかし「オス」には他の意味があり、狩猟装置の名詞でもありました。
この装置は重しの石を乗せた釣り天井が落ちてきて、獲物を押しつぶす仕掛けでした。これを略して猟師や地元の民は「オス」と呼んでいたのです。獲物は熊のみならず、鹿・猿・アナグマなど、山の獣が対象です。
この罠は昭和30年ごろまで使用されていたとのこと。獣が「多く」、狩猟装置の「オス」から生まれた地名なのですね。ちなみに現在、九州では熊は絶滅しています。
山形県大江町「左沢」(あてらざわ)
これは音だけ拾うと「アデラ」「アテラ」と同じで、阿寺という当て字ならば各地にあります。共通してかなりの山中に存在し、遅れて開発された場所だそうです。阿寺の字は多いものの、左沢は珍しいですね。
分解すると、「おち」は「おちこち(遠近)」という古語にもあるように、遠いという意味。「ら」は接尾語ですのでつなげると「おちら」になり、あっちの遠い方という意味になります。
しかし昔は「ち」を「てぃ」と発音していたから、「おてぃら」と発音されていたのが、最終的に「おでぃら→あてぃら→あてら」と転化したとか。
よって左沢「アテラザワ」の「左」はただの方角であり、最上川の右岸を「こちらの沢」、左岸(現在の左沢市街地がある側)を「あちらの沢」と呼んでいたためとされています。
難読ではないけれど、由来が意外な地名 佐倉や桜(さくら)
前述したように日本語はまず「音」があり、そこに該当する漢字を後から当てはめたことが多いので、音を分解すると「さ・くら」になります。
「さ」は「狭い」を意味し「くら」は「岩」の意味を持ちます。
よって佐倉や桜という地名は、両側が狭まった場所や峠に多いそうです。
鹿児島で有名な桜島は、桜がたくさん咲き誇る名所…?というわけではありません。島内に日本神話の女神・木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)を祀る神社があり、「咲耶島(さくやじま)」と呼ばれていたのが「桜島」に転訛したという説が有力です。
しかし764年には「かご島」(漢字が変換できませんが、籠に近い)と書かれており、これはこの年の大噴火により「欠(かけ)」た島、「崖」(がけ)の島という意味でつけられたのではないかという解釈もあります。桜島の名は変遷し、中世の文献には「向島(むこうじま)」という記述もあり、桜島ときちんと定められたのは16世紀になってから。
よって、噴火により岩が堆積した山という意味で、岩を意味する「くら」という音が先にあり、後に桜という縁起のいい字があてられたのではという解釈もあります。
不動滝「不動滝」「不動ノ滝」という滝はたくさんありますね。大体山奥の、行き止まりのひっそりした場所に存在する滝に命名され、山岳修験者たちの行場にも多く使われていました。
あまり難読でもないですし、滝といえば修行を連想して仏教での不動明王と紐づける人も多いでしょう。しかし実は、どうやら不動明王とは関係がなさそうなのです。不動の滝といいつつ、不動明王が祭られていない場所も多いので筆者も不思議に思っていました。それに仏教が伝来する前から「フドウ」と言われていた場合、腑に落ちないですよね。
実はフドウは「ホド」という音が訛ったものといわれています。ホドは「女陰」の意味があります。両脇の崖が太ももで、そこに穿たれた穴を女陰に見立て「ホドノ滝」が訛って「フドウノ滝」になった(もしくはあえてそう発音した)のではということです。
庶民は「ニョイン」とは呼ばず「ホド、ホト」と呼んでいたことから、地名表記をする際に直接的な漢字を使うことを避け、不動という字を当てたというのが有力です。日本には、後世にそういった「縁起の良い」字に変化してしまうことが多くあります。
ホド野、ホドヶ谷など「ホト」「ホド」という名のつくところは、かつて両側に山が迫るどんづまりの場所が多いようです。
静岡市清水区「由比」(ゆい)
関東圏の人には鎌倉の「由比ガ浜」が有名なので、そちらを思い起こすでしょう。由比・手結・田井(ユイ・タユ・タイ)という地名は各地にあり、沿岸部に集中しています。これは漁をするときの地引網などを地域で「結った」共同作業にちなんだ地名だとのこと。
いかがでしたか。なぜこの発音でこの漢字?という地名は、先に「オト」があり、後から「字」をあてたと考えるとよさそうです。また、だいたい発音が縮まっていったり、発音しやすい音に変化していく傾向にあることがわかりました。
他にもたくさん難読地名がありますので、またご紹介できたら嬉しいです。
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