『豊臣兄弟!』なぜお市は秀吉の勧めで柴田勝家と再婚した?悲劇に繋がる「真相」を史料と伏線から探る
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」第30回『清洲会議』。
浅井長政(中島歩)が自刃し、竹中半兵衛(菅田将暉)が逝き、織田信長(小栗旬)が去り、明智光秀(要潤)は別れを告げ……。
戦国史で有名な人物がドラマチックな最期を迎えて舞台から去っていくたびに「ドラマが寂しくなっていく」という声もあります。
けれども、このドラマの主人公は、小一郎(仲野太賀)です。
第29回『天下への道』で、息子・与一郎(大西利空)を失い、“武士の世”に絶望し嘆きの涙を流した小一郎。
そんな弟を抱きしめながら「わしが上様の思いを継ぐ」と誓った秀吉(池松壮亮)の眼差しは、すでに“今の世”を俯瞰して、腹を括った様子でした。
どこか背筋をひやっとさせるような“怖さ” “非常さ”を宿したように感じました。
これから、小一郎はそんな兄の有能な補佐役としてその能力の高さで豊臣政権の屋台骨を築き上げていきます。いよいよ、『清洲会議』から小一郎の本格的な活躍が始まるのではないでしょうか。
「清洲会議」といえばそれに伴い描かれるのが柴田勝家とお市の再婚。
これに関しては、さまざまな説があります。のちの悲劇につながるこの再婚に関しての謎を、史料から推測できることと今までのドラマの伏線を考察しつつ探ってみました。
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「美女と野獣」のような勝家とお市(NHK「豊臣兄弟!」公式」X」より)
ピュアな恋心の勝家を翻弄する小悪魔・お市「豊臣兄弟!」での柴田勝家といえば、当初から山口馬木也さんが「あまりにもそっくりすぎる」と大いに話題になりました。
昔の肖像画や浮世絵などに残された勝家はワイルドな風貌で、「本物の勝家がこのドラマのために過去からタイムスリップして来た」といわれてました。
ちなみに、喜多川歌麿も落合芳幾の浮世絵の勝家は、もじゃもじゃの総髪と濃いヒゲが特徴。いかにも「瓶割り柴田」とか「鬼柴田」という異名がぴったりくる風貌です。
左:柴田勝家「太平記英勇伝十三」落合芳幾画 右:柴田勝家(NHK「豊臣兄弟!」公式「X」より)
ドラマは「ずっと市に恋していた」という設定他を制するほどの眼光の鋭さや圧の強い声の勝家。けれども、お市(宮﨑あおい)がいると必ずチラチラと視線を送り「好き!」が溢れる弱気な表情になるギャップが、印象的でした。
SNSでも、そんな場面が出るたびに「心の声だだもれ」「柴田殿、可愛い」と評判になっていました。
「瓶割り柴田」は「お市への憧れや恋心をずっと抱いている」という設定でした。
第6話『兄弟の絆』では信長とお市に向かい、「この勝家、決して殿を裏切りませぬ!!」と大声で宣言しつつ、チラチラっとお市のほうを見ていましたね。それに対してクールなお市。
第10話『信長上洛』のお市の婚礼では、丹精なルックスと優しい気遣いを見せる浅井長政(中島歩)とちょっとまんざらではない感じの白無垢姿のお市の二人を、わかりやすく不満げな顔で見つめていた場面も面白かったですね。
「お市への純愛」をずっと持ち続けている勝家を要所要所で印象付けつつ、これを悲劇の将来へ結びつけるのだな……と思うと、勝家のドギマギが微笑ましくも、切なく感じました。
小悪魔お市に手玉に取られる鬼柴田そんな勝家とお市の、将来への伏線を印象付けたのは、長政との婚礼後の場面でした。
婚礼が終わった勝家がお市に挨拶しに来たときのこと。
お市が「『嘘から出た真じゃ』『そなたのせいで私は不幸になった』と伝えよ。」と小一郎への伝言を頼みます。
何のことか、さっぱり分かっていないのに「小一郎がお市殿に何かした!」と思い込み「あの野郎!」と気色ばむ純な勝家。
激しく憤る勝家に「勝家………戯言じゃ」「いっそお前と一緒になる方がマシだった」と微笑むお市。
あまりの直球な言葉に心臓を射抜かれ、ドギマギして慌てふためく勝家と、そんな彼を手玉に取るなかなか小悪魔なお市。
この先に訪れる二人の再婚劇の理由や二人の関係性や夫婦の力関係を匂わせる、印象的なシーンでした。
勝家をからかう、なかな小悪魔っぷりがよかったお市(NHK「豊臣兄弟!」公式「X」より)
親子ほども歳の離れた勝家と結婚を決めた理由浅井長政が自刃した後、本能寺の変・清洲会議を経て、天正10年(1582)ごろ柴田勝家と再婚したお市。
お市は35〜37歳頃、勝家の生年ははっきりしていないのですが、お市との年齢差は25歳ほどだったので、勝家は60数歳くらいだったのでしょう。
けれども、二人の結婚生活はわずか7〜9ヶ月ほどの短い期間でした。賤ヶ岳の戦いで秀吉に敗れ、天正11年(1583)4月24日に北ノ庄城にて、勝家はお市とともに自害しました。
「お市はなぜ、親子ほども年齢の離れた勝家との再婚を承諾したのか」に関しては諸説あります。
よく知られる通説では、
▪️清洲会議で、織田信長の三男・織田信孝が、秀吉の思うがままになりそうな流れを阻止するために、叔母のお市に「勝家と一緒になって欲しい」と頼んだ
▪️お市は秀吉が我が身を狙っていると危機感を覚えて勝家と一緒になった
などのストーリーでしょう。
けれども、この話は後世軍記物などで触れていることはあっても、同時代の一次史料でお市と勝家の再婚までの経緯や二人の感情などを示すものはほぼないそうです。
『南行雑録』の中に収められている「天正10年(1582)10月6日付・堀秀政宛柴田勝家書状」には、秀吉と勝家が申し合わせたことや、お市との縁組に関する記述が見られるため、近年では、「勝家と秀吉の間で婚姻について何らかの合意がなされていた可能性」が主流になってきたといわれています。
お市にからかわれて驚愕する勝家と、お市。 (NHK「豊臣兄弟!」公式「X」より)
秀吉と勝家が美しきお市を巡りバトル?説柴田勝家と秀吉が、美しいお市を我が物にしたいとバトルしたというストーリーは『祖父物語』に見られます。一部を抜粋してみましょう。
一太閤ト柴田修理ト取合ハ其比威勢アラソイトモ云又信長公ノ御妹オ市御料人ノイハレナリトモ申ナリ淀殿ノ御母儀ナリ近江ノ国浅井カ妻ナリケル浅井ニハナレサセ玉ヒテ御袋ト一所ニオハシケルカ天下一ノ美人ノキコヘアリケレハ太閤御望ヲカケラレシニ柴田岐阜ヘ参リ三七殿ヘ心ヲ合セオイチ御料ヲムカエ取オノレカ妻トス太閤コノヨシ聞召柴田ヲ越前ヘ帰スマシトテ江州長浜ヘ出陣アリ(祖父物語 称朝日物語)
原文はちょっと読みづらいのですが、わかりやすく現代語に訳してみると、
〜太閤(豊臣秀吉)と柴田修理(柴田勝家)の争いは、当時の勢力争いによるものとも言われている。
また、信長公の妹であるお市の方(お市御料人)も原因だと伝えられている。
お市の方は淀殿(茶々)の母君で、近江の国の浅井(浅井長政)の妻であった。
浅井から離縁させられた後、母上と一緒に暮らしておられたが、天下一の美人との評判があったため、太閤は彼女を望まれた。
ところが柴田が岐阜へ赴き、三七殿(織田信孝)と心を合わせて、お市の方を迎え取り、自分の妻としてしまった。
太閤はこのことをお聞きになり、柴田を越前へ引き返させようとして、近江の長浜へ出陣された。〜
というような内容です。ただし、
歴史学者であり大河ドラマ『真田丸』や『豊臣兄弟!』の時代考証も担当する黒田基樹氏によると、この祖父物語は「江戸時代中期くらいの成立」と考えられるとのこと。
ドラマチックに盛り上げられる話ではありますが……のちの創作なのでしょうか。
お市の心にずっとある「織田家のため」。(NHK「豊臣兄弟!」公式「X」より。
実際にはどのような思いがあったのか…「勝家はお市が嫁ぐ前からずっと慕っていたために、お市と結婚するまで独身を貫いていた」「そのために、再婚して短い結婚生活でも仲が良かった」……という鬼の柴田のピュアな逸話もあります。
ドラマでは、それを彷彿させる勝家が描かれていましたが、これも、同時代の史料はないようです。
ルイス・フロイスによると、柴田勝家は「はなはだ勇猛な武将であり、一生を軍事に費やした人」だったとか。
そんなところから、武骨もの・戦のことで頭にいっぱいの猛将で妻を娶ることに興味はなかった……というイメージが育ったのでしょうか。
「豊臣兄弟!」では「そなたのことが大好きだった」と残した愛する夫・長政のことは、介錯を務めただけに、お市の心にはずっと存在しているはず。
そして、この時は、長政の願い通りに三人の娘のために生き延びる道を選びました。
ドラマ内では、秀吉に頼まれて再婚を決めたものの、兄・信長江の思いとともに、長政への思いも生涯消えないはず。勝家への気持ちとは異なるでしょう。
長政の願い通りに、この時は生きる道を選んだお市。(NHK「豊臣兄弟!」公式「X」より
夫との二度目の最期は「共に…」ドラマでは、秀吉の策略によって、「織田家のため」に勝家と再婚するお市は再び、また夫を戦で失う悲劇を迎えます。
二度目は、生きのびることはせずに、勝家とともに最期を迎える決意をします。
それまで、お市・浅井三姉妹・柴田勝家の心情はどのように描かれていくのでしょうか。
基本的には「ずっとお市を慕っていた」という設定ではあるものの、女好きの秀吉のように「やっと我が物になった!」とは思わない誇り高き勝家。
この二人の行く末は、「楽しみです」とはいえない悲劇がすぐ先に待ち受けているのですが、見守っていきたいと思います。
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もしも豊臣秀長が長生きしていたら…?秀吉の暴走と豊臣家滅亡を防げた「最強のカリスマ性」参考文献:
『祖父物語』
黒田基樹『お市の方の生涯「天下一の美人」と娘たちの知られざる政治権力の実像』/朝日新書
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