『豊臣兄弟!』覚醒した“ラスボス”お市、自ら選んだ道で秀吉に挑む!清洲会議の深層と「豊臣VS織田」の行方
「勝家………私をめとれ」
お市(宮﨑あおい)が、柴田勝家(山口馬木也)にいった言葉。かっこいいお市に痺れました。
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」第30回『清洲会議』。
本能寺の変から25日後、清洲城で開かれた、織田家の後継と領地分配をめぐる清洲会議と、それにより決定したお市と柴田勝家の再婚。
お市の再婚自体は史実ですが、そこまでのプロセスはいくつか説があり、ドラマ・映画などで描かれる有名な会議なのに謎が多いのも興味深いところです。
今回のドラマでは、羽柴秀吉(池松壮亮)が、文字通り、織田家当主の息子・三法師(清水伊織)を担ぎ上げ、「織田家筆頭家老」を名乗り満面の笑みで「わし後継者」宣言をするという、トリックスターぶりを発揮しました。
「いよいよ覚悟を決めた秀吉の天下取りが開始!」と、思いきや。
まるで幽界に佇んでいるかのように生気を失っていたお市が、見事、覚醒。
毅然とした強いお市に戻り「勝家………私をめとれ」の流れになりました。お市がこの織田家跡目争いのラスボスだったとは。
「戦国のだからお市に決定権はない(ので再婚に従った)」説ではなく、「織田家のため」という秀吉の嘘を見抜いたお市が「私が自分で選んだ」となったのが痛快でした。
脚本の妙に痺れた、第30回『清洲会議』を考察しつつ、今後の「兄弟(兄妹)対決」を予想してみました。
※関連記事:
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ネット記事もSNSも沸いたお市の「勝家…私をめとれ」。かっこよ過ぎる。(NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより)
「やることができた」小袖は幼子懐柔の妙案羽柴与一郎(大西利空)の早過ぎる死に落ち込む豊臣レディースに、晴れの場で着せる三法師の“小袖”を作るように頼む秀吉。
どんな小袖にしようかと、早速、寧々(浜辺美波)・慶(吉岡里帆)と秀吉の母姉妹らは『女たちの清洲会議』を始めます。
「やることができた」ので未来に向い動き出せた豊臣レディース。
三法師は、信長の嫡男・信忠(小関裕太)の息子。立派なお衣装は持っているはずなのに、なぜ小袖を作らせるのか?
悲しみの沼に浸る家族に「やること」を依頼して気力を取り戻せたかったから?
そんな機会をあえて作った秀吉、優しいと思いきや。
それだけではありませんでしたね。小袖を「三法師に着せ付ける」のが狙いだったのでしょう。
しゃがんで幼子と同じ高さの目線・体が触れ合う“親”ならではの近い距離感・着付せながら体に触れ噛んで含めるように笑顔で「役目」を教え込む。
信忠が亡くなって以来「父のような存在」がおらずに寂しい思いをしている幼子には効果的だったでしょう。
“小袖”は幼子懐柔の小道具……さすがは、人たらしの秀吉でした。
清洲会議で三法師を擁する羽柴秀吉(『絵本太閤記』の挿絵)wiki
「天下取り宣言」三法師の小袖と秀吉の半衿さらに……お気づきだったでしょうか。
白地に黒の麻の葉紋様(※1)、黄・赤・緑(※2)の瓢箪柄の三法師の小袖の生地と、清洲会議の秀吉の長襦袢の半衿が同じ生地だったこと。
三法師の小袖の生地と秀吉の半衿は同じ生地。さりげないリンクコーデ。(NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより)
織田の正統な後継・三法師と、「織田家筆頭家老で後見人」宣言する秀吉が、まさかのリンクコーデになってたとは。しかも柄はこれ見よがしな「ザ・豊臣柄」。
けれど、控えめに半衿でチラ見せなのが憎いところです。(家臣たちは気が付く余裕はなさそうですが。でも半兵衛だったら気がつきそう)
お揃いコーデはダサいけれどリンクコーデなら逆にハイレベルなオシャレ……という現代感覚な演出が素敵でした。大河ドラマならではのクリエイティブの妙。
このセンス秀吉の指示とは思えないので、寧々どの?お慶どの?のアイデアなのでしょうか。
浮世絵などでは、この場面、三法師は織田信長の家紋『織田木瓜』の柄の袴や、『雲立湧紋様』という高貴な紋様の着物を着用しています。
※1:麻の葉紋様:邪気を祓う、長生きなどの意味がある
※2:ベースの白、麻柄の黒、瓢箪の黄・赤・緑の5色は、陰陽五行説に由来するすべての基本
ほかの史料で描かれた清洲会議の流れ
清洲会議の流れは、例えば『多聞日記』には、
七月六日
天下ノ様、柴田・羽柴・丹羽五郎左衛門・池田紀井守・ホリ久太郎、以上五人シテ分取ノ様ニ其沙汰アリ、信長ノ子供ハ何モ詮ニ不立云々、浅猿浅猿
とあります。現代語に訳すと、
〜天下の情勢は、柴田勝家、羽柴秀吉、丹羽長秀、池田恒興、堀秀政の5人の実力者たちが、まるで天下を切り分けて自分たちのものにするかのように合議して決めてしまった。
信長様の子供たちは、誰一人として全くお呼びでない状態にされてしまったとのことだ。
まったく呆れたことであり、情けない限りである。〜
という感じでしょうか。「浅猿浅猿」とは、秀吉の悪口かと思いましたが、浅ましい・嘆かわしいなどの意味です。
また、『川角太閤記』には、勝家が織田信孝を推し、秀吉が三法師をたてるのが筋と主張、ほかのメンバーがだまりこむ場面が。
此座敷に秀吉於有之は惣談しにくかるべき也と思召候つもの虫気少し指出申候と被申出候而に座敷と被立候てそれよりたいすの間へ御座候而茶坊主共に枕を御取よせ被成御やすみ候て湯なと御取よせ香薫散なとまいりゆる
現代語に訳してみると、
〜こうした様子を御覧になった秀吉は、心の中で次のように考えた。「この座敷に私がいたままでは、皆も本音で話し合いしにくいだろう」。
そこで秀吉は、「持病の腹痛(虫気)が少し差し込んできました」と言い訳をして、会議の席を立った。
それから台子の間へと移動し、茶坊主たちに枕を持ってこさせて横になり、「お湯を持ってまいれ」「香薫散(気付けの漢方薬)を持ってまいれ」などと言って、体を休めました。〜
「豊臣兄弟!」では、池田恒興(堀井新太)が「秀吉が腹を壊して清洲会議に参加できない」と言い、柴田勝家が「まったくこんな時に」と怒り、丹羽長秀(池田鉄洋)が「こんな問いこそ四人で助け合わねば」という流れにいかされていましたね。
腹痛で不参加だったはずの秀吉が、三法師を抱き上げて登場。(NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより)
信雄の愚策で戻った友情からの鮮やかな裏切り清洲会議の前、三法師が突然行方不明になり家臣四人で慌てて探すシーンがありました。
織田信雄(山脇辰哉)が三法師を誘拐して物置部屋に隠し、実行犯の女間者が暴れて抵抗し自害するという結末に。
とりあえず三法師が見つかりほっとしつつ「あの頃、俺たち皆で力を合わせ戦ってたよなあ」と昔を思い出して「もう一度、仲良くやろうぜ」な、おじさん版ワンピースのような感動場面はぐっときたのですが。
せっかくの感動シーンからの、まさかの秀吉の抜け駆けが鮮やかでした。
その前に、「柴田殿の力強さ、池田殿の虚を捨て実を取る性分、丹羽殿の慎重に見極める目利き、そしてわしの調子の良さ、これらが合わされば、三法師様を御支えできましょう」
と、口八丁で「私利私欲を捨て皆で三法師を支えよう」と話をまとめたのに。
結局言い出しっぺの秀吉が「三法師を抱いて上座に立つ」という驚くほどの裏切りっぷりでした。
秀吉が、天下人の道への第一歩を踏み出す大どんでん返し。
面白い展開でしたね。
左:庭五郎左衛門長秀(落合芳幾)/中:池田恒興(狩野甫信)/右:柴田修理進勝家(落合芳幾)public domain
幽界にいるような儚げでありつつ洞察力は衰えずさて、お市と柴田勝家の再婚についての話は、前回の記事
〜『豊臣兄弟!』なぜお市は秀吉の勧めで柴田勝家と再婚した?悲劇に繋がる「真相」を史料と伏線から探る〜
でご紹介しました。
『清洲会議』ではどのように描かれるのか楽しみでしたが。
秀吉が「信長の仇を討った」報告に訪れたとき、まるで幽界に足を踏み入れているかのように生気を失い儚い幻のようになっていたお市には驚かされました。
目から生命の炎が消え、髪や着物は乱れ、顔は青白く血の気を失ってい、信長から貰った手紙がばら撒かれた中に座っているお市。
秀吉に柴田殿に嫁いでくれといわれ、
「織田家のためか?」と聞くお市。
「無論でございます」と猿。
「ではそなたの言うとおりにいたそう」……
秀吉は、あれほど敬愛してきたお市にも平気で嘘をつく覚悟を決めたのでしょう。
秀吉は、たぶん武骨な勝家なら絶対に拒否すると目論んでの賭けだったのかもしれません。
お市はそれをすべて見通したうえでの「そなたの言うとおりにいたそう」だったのでしょう。
生気を失ったお市の凄みある美しさ。けれど持ち前の洞察力や勘は失っていない。(NHK大河「豊臣兄弟!」公式サイトより)
織田後継者争いのラスボス・お市が覚醒お市は信長の訃報を知って気を失ったとき、一度魂が死んでいるのかもしれません。
そして、信長が望んだ「お前が男であったら」通りに、“織田家の跡を継ぐ男”として覚醒したのかも。
だから、勝家を呼び寄せて「やらねばならぬことができた」と宣言し、「勝家………私をめとれ」と、命じたのかもと思ってしまいました。
髪も着物もいつもの通り。今まで以上に凛然とし目には強い力が戻っていました。
秀吉の手から織田家を守るために、あえていうことを聞いたように見せかけ、宿老である勝家に「私を娶れ」と命じる。
織田信長の志は、この覚醒した私、お市が継ぐ。お前ら羽柴には渡さない。
という、「織田の血をひく武将お市」に痺れました。
通説の一つ「戦国の女だから選択肢はなく、お市は娘のために勝家に縋る。でも勝家はお市にずっと恋をしていたので一緒になってお市を愛し夫婦仲は睦まじいものだった」という話は、このドラマのお市には似合わないでしょう。
「従ったのではない。これは私が選んだ道。やれるものならやってみろ猿」という静かな闘志が感じられる……このお市にはこの展開のほうが似合うと思います。
「豊臣兄弟」では、秀吉に嫌悪感を持たず、珍しく豊臣兄弟とはずっと仲良く、特に小一郎とは「同じ大変な兄を持つ者同士」として本音を語っていた(それがお市を救いもしてきた)という関係性が、なくなってしまうのかと思うとすごく寂しいのですが。
覚醒してさらに毅然とした強さとオーラが強まったお市(NHK大河「豊臣兄弟!」より)
豊臣兄弟VS織田兄妹の戦いドラマの根底にずっと流れているテーマ「きょうだい」。
織田家の「簒奪」を表明する覚悟を決めた羽柴兄弟。けれども、それを阻む最大の障壁は「信長きょうだい」のお市。
そんな戦いがこれから始まるのでしょうか。
来週の『これで、お別れにございます』で、覚醒したお市がどのような姿を見せてくれるのかが楽しみです。
茶々(井上和)が、秀吉が「美しくなられて、お市殿の面影が…」と褒め始めたとき「父、浅井長政の面影もあるであろう」とビシッと被せたのもよかったですね。
この茶々、やはり男を振りまわす悪女ではなく、「浅井家」の誇りを胸に毅然と強く戦う女性になっていきそう。こちらも楽しみです。
参考:
『清須会議 秀吉天下取りへの調略戦』柴裕之
『川角太閤記』
『多聞日記』
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