『ブラッサム』良妻賢母に抗う同級生・角田忍に絶賛の声!その魅力や実在モデル、宇野千代との関係を考察
NHK朝の連続テレビ小説「ブラッサム」。
第2週のテーマは、その名もずばり『父からの、解放』』です。
舞台は、大正2年(1913)。主人公の葉野珠(石橋静可)は、山口第二高等女学校の四年生になりました。
高等女学校は、戦前期の日本における女子教育機関です。1年生が12〜13歳なので、4年生というと14〜15歳くらいでしょうか。
読書が大好きで文才のある珠は、尋常小学校に入った幼ない弟や妹に読み聞かせる小説を書くことを楽しみとしているようでした。
父・清治(渡部篤郎)は相変わらず放蕩無頼のまま…というか、悪びれもせずに平気で嘘をついたり警察沙汰になったり、前よりも荒んできた様子です。
そして、母・リョウ(国仲涼子)は相変わらず優しい。
そんな環境で成長した珠が学ぶ高等女学校では、実際に明治後期頃から国家公認の教育理念であった「良妻賢母」教育一色でした。
女生徒たちは、何も疑問を持たず「早くお嫁さんになりたい!」と夢見る人と、女性の意思を認めない教育に疑問を持つ女学生に分かれているようです。
この時代、少数派と思われる後者のタイプが、珠の同級生・角田忍(木龍麻生)でした。
第2週目から初登場した忍ですが、早速「凛としていてステキ!」という声があがっています。
公式サイトでの角田忍の人物紹介では…
珠が通うことになる高等女学校のクラスメート。反骨心が強く、行動力みなぎる、たくましい性格の持ち主。
とあります。
「父親には絶対服従」で育ってきたため、何を決めるにしても「でも…父に叱られる」と迷ってしまう珠に対し、『あんたならできる』と背中を押す忍。
もしかしたら、珠の生涯の友人となっていくのでしょうか。
この時代に珍しく、自分自身を持ち反骨精神のある角田忍の魅力や、実在のモデルはいるのか?などを探ってみました。
反骨精神の持ち主・角田忍(木竜麻生)(NHK「ブラッサム」公式「X」より)
『良妻賢母の育成』が目的の高等女学校「およそ主婦たる人にもっとも必要なことは、愛と希望と忍耐でございます。まず“己を犠牲にする覚悟”が肝要です 」
…現代からすると、は?と言いたくなるような教科書を朗読する珠。
実際、当時の高等女学校では一般科目以外にも「家事」「裁縫」など男子の旧制中学校にはない科目もあり、卒業後に就職するためのスキルアップ教育ではありませんでした。
実際、卒業直後の進路の多くは「家庭」で、就職した女性はかなり少なかったようです。
文部大臣の樺山資紀が明治32(1899)年の地方視学官会議において,「高等女学校ノ教育ハ其生徒ヲシテ他日中人以上ノ家二嫁シ,賢母良妻タラシムルノ素養ヲ為ス二在リ」と述べており,高等女学校には,良妻賢母の育成が期待されていたことがわかる。(男女共同参画局「高等女学校における良妻賢母教育」)
現代語に訳すると、「高等女学校の教育は、生徒たちが将来、中流以上の家に嫁いで、賢母・良妻となるための素養を身につけさせることにある」という内容。
ときの文部大臣が述べていたというのが、時代を感じます。
女性の意思を無視する教育に疑問を抱く忍
ドラマ内では、『良妻賢母』教育を当然のことと受け入れる女生徒もいましたが、角田忍は疑問を抱いたようです。
珠が朗読する教科書の内容に、ほかの女生徒のように頷いたりせず、固い表情を浮かべていたのが印象的でしたね。
教室の黒板の上に掲げられた『高雅貞淑』の書。
気品があり洗練され貞操を守りしとやかであること……ずいぶんと女性に求める(というか押し付ける)条件が多いよう。
放蕩無頼で荒んでいく清治のような夫でも『高雅貞淑』であれということでしょうか。
以前、珠に「父をどう思う?」と聞かれたリョウが「どうもこうも……嫁いで来たんだから…」と、「嫁いだ以上は不満などは言えないわ」と、戸惑ったような諦めが入ったような表情で言ったことを思い出しました。
明治前期〜後期にかけては、合わない嫁・婿を簡単に追い出す慣習が強く、手続きも緩やかだったため離婚率は高かったそう。
けれども、明治31年(1898)明治民法施行以降、家制度の強化、親権の父優先、離婚に親の同意が必要になるなどの法的・社会的制約が影響し、離婚率は急激に低下し大正時代になるとさらに低下しました。
夫が横暴な問題児でも「離婚しよう!」とは簡単に考えられない社会だったようです。
「良妻賢母」教育の教科書を朗読する珠。(NHK「ブラッサム」公式サイトより)
反骨心旺盛な忍が朗読する『青鞜』家では父親が怒るから好きな本が読めないという珠に「どこの父親も専制君主じゃね」と言う忍は、親が勝手に縁談を決めたことに怒りを抱いていました。
「うちは嫌じゃ。自分のことなのになんで親に決められにゃいけんのじゃ」。なかなか反骨心がある女学生です。
きっぱりと言い切る忍を珠は羨ましがります。
突然、「原始、女性は実に太陽であった。真正の人であった。」平塚らいちょうの本『青鞜』を朗読し始める忍。
らいちょうは、女性解放運動家・思想家・評論家・作家などマルチな活動をした女性です。
「今、女性は月である。他に依って生き、他の光によって輝く、病人のやうな青白い顔の月である。さて、ここに「青鞜」は産声をあげた。」(『青鞜』日本ペンクラブ電子文藝館)
「なんべん読んでも震える。うちも、らいちょうみたいに、ものが言えたら!」と『青鞜』を抱きしめる忍。
忍を演じる木龍麻生さんは、インタビューで角田忍という役柄の魅力について…
「自分の信念だったり信じたいものを曲げられないというのは、私はとてもかっこいいと思います」(朝ドラ「ブラッサム」公式「X」)
まさに同感です。
仲良し同級生を誘って「同人誌」を創刊した行動力のある忍。(NHK「ブラッサム」公式サイトより)
珠の背中を押す忍の「あんたならかける」「同人誌を作ろう!」
「自分にも意志がある。同人誌の中で好きなことを書くくらい、ええじゃろ」と、忍は仲良し同級生らに提案します。
一瞬目を輝かせて「小説を書きたい」と言いつつも「でも、どうじゃろ」と、迷う珠。
この頃、千代は文学の面白さに目覚めていたのですが、父からは雑誌や新聞を読むことを禁じられていたため、厠へ行くふりをして読んでいたそうです。(おいでませ山口へ「作家・宇野千代とは」)
思い起こせば、ドラマ初回。
昭和57年(1982)、加賀まりこさん演じる85歳の珠は、新聞記者の質問に答えて「思いついたらなんでも始めたくなっちゃうの!」と答えてましたね。
今のとまどいがちな珠とは、別人のようです。「父からの解放」で、変わっていくのかもしれません。
忍に『あんたなら書ける』と背中を押され、珠は小説デビューしました。
それぞれが思い思いの文章や絵を綴った同人誌『黎明』は、女性の地位向上をうたった忍の論文や、珠の小説「イワンの馬鹿」の主人公を女性に置き換え創作した物語が、同級生の間で話題になります。(学校側にバレて、捨てられてしまいますが)
表立って声を上げられなくても、実は良妻賢母教育に内心不満や疑問を抱いていた生徒も多かったのではないでしょうか。
『あんたなら書ける』の忍の一言が、珠の背中を押す。(NHK「ブラッサム」公式サイトより)
実際に同人誌を作っていた宇野千代珠のモデル・宇野千代も実際に同人誌を作っていましった。
16歳 大正2年 (1913)
父俊次が病没。文学に興味を待ち始め、変名で「女子文壇」などの雑誌に投稿。文学サークルを始める。(宇野千代のこと「宇野千代年譜」宇野千代生家)
千代は、岩国高等女学校在学中に『海潮音』という同人誌を作っていたそうです。さらに、17歳で卒後後にも『海鳥』という同人誌を発行しています。
1914(大正3)年、岩国高等女学校を17歳で卒業した千代は、川下村尋常高等小学校の代用教員になりました。仲間とともに同人誌『海鳥』を発行するようになったのもこの頃だそうです。
ドラマでは、忍と珠の付き合いは卒業後も続くよう。
NHK「ブラッサム」の公式サイトによると、
大正3年、尋常小学校の代用教員として働くことになった珠を訪ねてきた忍は「婦人記者になるために東京に行く」と宣言。珠はそれにおおいに刺激されることになるようですが。
とのこと。
珠も父から解放され、婦人記者になるという忍の行動力に刺激を受けて、狭いカゴから解き放たれた鳥のように、自由に社会に羽ばたいていくのでしょうか。
女学校を卒業した忍が珠を訪れる(NHK「ブラッサム」公式サイトより)
同級生・角田忍のモデルは?珠のモデル・宇野千代の同級生が婦人記者になったという記録はないようです。
実際に、明治後期からは婦人記者が登場し始めたそう。けれども、大正初期でも、各社に数人程度のごく限られた存在だったそうです。
新聞社はほぼ完全な男性社会で、女性が入社すること自体が珍しかったよう。
もし、採用されても本格的な政治・社会報道の第一線に立つのは難しく、雑用や家庭・女性向けの軽い記事を任されることが多かったそうです。
社会部や政治部の男性たちが、世間を揺るがすスクープや他社と競争しながら一刻を争う情報合戦を行う横で、いつ掲載されてもいいようなものを書く日々……。まさに「号外に関係ない」仕事に追いやられているのが婦人記者だった。(明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記 平山亜佐子 著)
男性社会の中で体を張った取材や独自の視点で記事を書き、後の女性ジャーナリストの道を切り開いた存在となる婦人記者として活躍した実在の女性もいます。
同人誌を学校側に捨てられ、そのとき「何も言い返せなかった自分が悔しい」と言った忍に、婦人記者はぴったりの仕事ですね。
忍が無事に婦人記者になり、女性に対する社会の理不尽さを「ペンの力で変えてやる!」と頑張って欲しいな…と想像してしまいました。
これから、宇野千代との接点など、史実とドラマの共通項がストーリーに登場してくれば、より人物像が輪郭が明確になっていくのでしょう。
参考:
・男女共同参画局「高等女学校における良妻賢母教育」
・内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版」
・日本ペンクラブ「電子文藝館」元始女性は太陽であった
・おいでませ山口へ「作家・宇野千代とは」
・NPO宇野千代生家
・明治大正昭和化け込み婦人記者奮闘記 平山亜佐子
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