【IS事件】『メディア比較』アメリカではどう報道されている?
ISによる後藤健二さん、湯川遥菜さんの人質事件はお二人とも惨殺されるという最悪の結果となり、更には後藤さんと共に人質交換要員になったヨルダン人パイロットモアズ・カサスベ氏もあまりに非道なやり方で殺害されました。 その後のヨルダンの報復空爆により、(アレッポにあった国境なき医師団の病院で支援活動をしていた)アメリカ人人質のケイラ・ミューラーさんが亡くなったことが確認されました。 日本は事件の対応や今後の方策を巡って大きく揺れ動いていますが、アメリカではどのように報道されているか、いくつかの新聞の見出しと記事のポイントを紹介します。
まず、ニューヨーク・タイムズの記事から
Obama Condemns Islamic State's 'Heinous Murder' of Japanese Hostage
『オバマ、ISによる日本人人質の凶悪な殺人を非難』
(1月31日 REUTER, Reporting by Will Dunham; Editing by Alan Crosby)
アメリカはパートナー、同盟国と共に立ち上がる。断固とした行動をとり、最終的にはISILを壊滅させる。
Hostage’s Apparent Beheading by ISIS Stirs Outrage in Japan
『ISISによる人質の断首殺害に日本激震』
(2月1日MARTIN FACKLER and ROD NORDLAND)
身代金要求に応じず、テロリストに譲歩することなく強固な対応を取っていた安倍首相は、邦人殺害声明のヴィデオに強く非難し、日本は国際社会と協力し、テロリストに代償を払わせると語った。今のところ日本社会は深い悲しみの中結束し、首相を支持しているように見えるが、今後は首相がどのように危機に対処していたのか、疑問を投げかけるだろう。日本国内では安倍首相がISと戦っている国々に非軍事的援助をすると表明したことでISを挑発した、という批判も起きている。
この記事の結びは『我々は人道的支援として食料や医薬品のサポートを増やし、テロリズムと戦っている国際社会への責任を毅然と実行していく。』という発言で締めくくっています。
Departing From Japan’s Pacifism, Shinzo Abe vows Revenge for Killings
『平和主義からの脱却、安倍晋三、殺害に復讐を誓う。』
(2/1 NY Times, Martin Fackler)
ISが邦人人質を惨殺したヴィデオを投稿した際、安倍晋三総理大臣は『テロリストにはこの代価を払わせる』と断言した。過激派の暴力に直面した時、西洋諸国のリーダー達が報復を誓うのは珍しいことではないが、対立を嫌う日本からそのような反応が出ることは今まではなかった。
この記事では、『日本は白日夢から目を覚まして厳しい現実に対峙する時が来た』、一方では、『暴力の連鎖は避けるべきだ』、『日本は過去に後戻りするべきではない』、『安倍首相は日本をより厳しい状況に追い込んでしまった』、といった政府の元高官から一般市民まで、様々な意見を載せ、日本が大きく揺れている様子を紹介しています。
Abe Is Said to Have Plans to Revise Pacifist Charter
『平和主義憲章を変更すべく安倍の計画。』
(2/1 NY Times, Martin Fackler)
安倍総理大臣は、日本国憲法を改定すべく作業を来年早々に始めたいと語った。
憲法第9条(武力放棄)の改定について明言したわけではないが、今週、首相は今回のISによる人質脅迫、殺害のような事件に対して日本の対応の強化を図るべく変更を加えたいと国会で述べた。アメリカを中心とする有志連合参加に反対する議員もいるが、暗黙の中にも連合による武力での対抗も辞さないという気運は高まっているようだ。
Could ISIS Push Japan to Depart From Pacifism?
ISIS は日本を平和主義から脱却させることはできるか?
(2/8 Heng)
ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、“後藤健二氏殺害の後、安倍首相は復讐を誓った”としてHengの風刺漫画が掲載されています。
次にワシントン・ポストの記事から
Japan’s leader defends handling of hostage crisis
日本の首相、人質事件の対応について弁明。
(2/2 AP通信:Mari Yamaguchi, Elaine Kurtenbach)
安倍首相は脅迫前日のISと戦っている国々への2億ドルの人道支援について、日本の強い責任を伝える意味があったと述べた。一方、首相の決断はもっと慎重であるべきだった、そして、ISISを名指しするべきではなかったという疑問の声もあり、その問いに首相は、既に人質の状況には気づいていたことを明らかにした上で、次のように語り、慎重論を退けた。『国際社会は中東の安定的平和を模索しており、私はもっとも適した所に赴き、メッセージを伝えた。このことは、ISと戦う国際社会への日本の貢献であり、責任である。そして、テロリズムとの戦い、その拡大を防ぐために効果がある。』
Some Japanese see slain hostages, Abe as troublemakers
『安倍がそうであるように、日本人は殺害された人質をトラブルメイカーとして見ている。』
(2月5日:ワシントンポスト AP通信)
日本人は問題を起こして他人にかける『メイワク』を避けることが最も重要な価値とみなされ、個人よりも優先されるところである。同情がある一方で、ISに殺害された二人の人質はトラブルメイカーともみなされている。多くの日本人は彼らが警告に従ってシリアに行かなければ、もしくは首相が(イスラエルで)IS武力勢力に対峙する多国籍連合(有志連合)に支援するという表明をしなければこんなことにはならなかったと感じている。
更に、見出しのすぐ下には2004年にイラクで人質になった方の近親者達がマスコミの前で深々と頭を下げて謝罪している写真(2004年4月12日 AP)を載せています。
Hostage killings highlight threat, meager options for Japan
人質殺害、危険度を強調、日本にオプションはわずか
(2/3 AP通信 Elaine Kurtenbach, Mari Yamaguchi)
人質殺害によってISは日本にはほとんど選択の余地はないことアピールした。そのことは、日本がいかにテロリズムの脅威に悪戦苦闘を強いられるかを匂わしている。日本はISを攻撃するアメリカへの支援はしているものの、金銭的、非軍事的なものに限定されていたこともあり、これまではISに直接巻き込まれたことはなかった。今回の事件によって、もしジハードを起こされた場合でも阻止するものがないことが証明された。日本は今後の脅迫、また2020年に東京で開催されるオリンピックにおいて、いかに準備し対応するか再検討しなければならないが、東京は行政における外交的プレゼンスに欠け、アラブの専門家も少ないと言われている。身代金を支払うことがオプションのひとつになりうるかどかも明確ではない。軍事行動は第二次世界大戦後に占領したアメリカによって起草された憲法により厳密に制限されている。
『お前たちの愚かな決定が勝ち目のない戦争を引き起こした。このナイフは健二を殺すだけではない。世界中にいる日本人の大虐殺を引き起こすだろう。日本にとっての悪夢が始まったのだ。』というISの言動に対して野党である小池晃議員は、ISが要求した身代金の額が、安倍首相が表明した支援の額2億ドルと同じだったことに触れ、湯川さんと後藤さんが囚われの身になっていることを知りながらスピーチをした、彼らのリスクを考えなかったのか? と質問したが、安倍首相はその懸念を否定、人質の窮状を考慮にいれながら、難民を受け入れ前線で戦う国々を支援するがもっとも重要なことだと考えている。我々の団結を見せることは自然なことだ。と答えた。安倍首相は既に自身の内閣で憲法を再解釈し、アメリカなど同盟国と限られた範囲での“集団的自衛権”行使を容認する方向で動いている。
同記事では、専門家によるコメントも掲載されています。『日本の支援は失望した難民がISの兵士になることから救うかもしれない。しかし、安倍首相はもっと注意深く発言するべきだった。』
(日本エネルギー経済研究所 中東研究センター長 田中浩一郎氏)
『日本のナショナリストは人質事件を日本の軍国化の口実にしたいのかもしれない。しかしながら、アメリカは過去何ヶ月で数人の市民を失っているが、世界でもっとも洗練された軍隊をもってしても、彼らを救出することなどできなかった。日本にとって、あるいはアジア諸国にとってのもっと差し迫った問題は、IS過激派がより市民を標的にし、手先として政治利用するかもしれないということだ。』
(国際基督教大学 政治学教授 スティーヴン・ナギー氏)
続いてアメリカにも拠点があるBBCの記事も紹介しましょう
Japan hostage killing: Critical test for PM Shinzo Abe
『日本人人質殺害:安倍首相への“臨界実験”』
(2/1 BBC (by Dr. John Swenson-Wright)
出典: BBC
IS武装勢力による後藤健二氏の殺害声明は国内外の日本国民の将来への安全、事前外交政策、日本自衛隊に海外での積極的役割を負わせるべく法制化の可能性など、安倍内閣、更には国民にも大きな政治的課題を突きつけた。
Japan seizes passport of Syria-bound journalist
日本、シリアに向かおうとしたジャーナリストのパスポートを取り上げる。
(2/8 BBC)
出典: BBC
過去にもシリアやイラクの紛争地域で現場をレポートした写真ジャーナリストの杉本優一氏は、今月末にシリアに行く計画を立てていたが、行政機関によってパスポートを取り上げられた。杉本氏は以前に何度もイラク、シリアの紛争地帯で報道しており、常に安全策を取り、危険が及んだ場合はすぐに撤退していたと主張している。旅行の自由、報道の自由はどうなっているのだ、と述べた。
新聞(読売)によると日本では政府の対応に60%の国民が支持している。また同様の割合で、日本の支援は非軍事に限られるべきだ、ともしている。安倍首相は先月、ISと戦う国々に非軍事の支援をすると表明している。
以上、ISによる日本人人質殺害事件についてアメリカの新聞記事を中心にいくつか紹介しました。皆さんはどう感じられましたか。それから、事件後の安倍政権の支持率が60%に上がったというのはこちらのメディアでも驚きのようです。
ここで日本とアメリカの考え方の違いについて触れておきましょう。最近の日本の風潮では、ジャーナリストや支援者が紛争地域に入る、そして、万が一人質として囚われたり、更に犠牲になるのは『自己責任』だとする傾向があるようです。日本の報道機関で働く人は企業の社員なので、危険な現地に赴くことはほとんどなく発表報道を頼っており、現場での取材については、フリーランスのジャーナリストに委ねているのが現状だと思います。一方、アメリカでは契約社会ですから、報道機関はフリーランス・ジャーナリストとあらかじめ契約を交わし、特派員として現地に派遣するそうです。そもそも英語では『自己責任』という考え方はないように思います。ぞれぞれの行動には必ず責任が伴うからです。それゆえに契約で事細かく決めているのでしょう。
もう一つ、日本と大きく違う点は、アメリカ(ヨーロッパ諸国もそうかもしれません。)には『ヒーロー』という考え方があります。勇敢な行動にはまず賞賛があり、敬意が払われます。そして、不幸にも犠牲になった人々は讃えられるのです。
これから日本で今回の事件がどのように検証され、対応していくのか、また、残されたご家族のケアがどのようにされていくのか、気になるところです。
最後に、雑誌ニューヨーカー最新号の記事から結びの一部を紹介しておきます
”Why ISIS Muederd Kenji Goto”
(2/3 New Yorker: Geoge Packer)
出典: THE NEW YORKER
ISISは費用対効果で行動するような組織ではない。野望に向かって突き進む、浄化の名の下に殺戮を繰り返す。伝統的な独裁主義や全単体主義というよりカルトと言った方がいいかもしれない。地域における反乱と国際テロリスト・ネットワーク両方の要素も持つが、彼らは死のカルト的な軍団、原始的な国、クメール・ルージュのよう組織を思い起こす。
このような強権的体制の歴史で我々が学んだことは、論理的分析で予測するより遥かに強く、より持続的な力になりうる、そして、彼らは自滅することはない、ということだ。



