わからないを知る『人間力』五木寛之(作家) (2/2ページ)
ブッダはね、アーナパーナサティ・スートラという呼吸に関する教えというか、お経がありますね。仏教では呼吸法が大きな意味を持っています。道元も白隠も善神も、現代に至るまで宗教っていうのは、呼吸法ととても深くつながっていますから、これもまた面白い。
人間も80にもなると、大体8つほどの持病が出ると言われています。僕は元々、体が弱かったんですが、一切病院に行かないっていう目標を立て、自分の体は自分で診ると決めたんです。戦後、一回だけレントゲンを撮ったけど、それ以外被爆経験はありませんし、歯医者以外で医者にかかったことはないです。
そんな日々を僕は積み重ねてきました。親鸞が、人間は場合によっては、人殺しもするかもしれないと言っている。その時の状況次第で、例えば、アウシュビッツの看守になれば、人殺しになる可能性は誰しもが秘めている。そんな風にはっきりしないものなんです。
その人間が日々を積み重ねて作っていく歴史っていうのも、不確定なんですよね。歴史は常に今までの例っていうのを破って動いていく。かつて、こうだったから、こうなるとは限らない。だから、未来は未定という覚悟で生きていくしかない。
明日は明日の風が吹くとね。刹那的な生き方だ。僕はそうやって一日一日を積み重ねて今日まで来た。
ですから、日刊ゲンダイで足かけ40年続けている連載『流されゆく日々』も、原稿をストックしたことはないんです。夜12時の締切に間に合うよう、毎日、前日の夜に書いています。
明日がわからないのだから、とにかくその日、その日を積み重ねていく。この気持ちで豊かな下山をしていければなと思っているのですが。
撮影/弦巻 勝
五木寛之 いつき・ひろゆき
1932年9月30日、福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部露文科中退。その後、作詞家として活躍しつつ、1966年、モスクワで出会ったジャズ好きの少年を題材にした『さらばモスクワ愚連隊』で、第6回小説現代新人賞を受賞。翌年、ソ連の作家の出版を巡る陰謀劇『蒼ざめた馬を見よ』で、第56回直木賞を受賞。代表作の『青春の門』を始め多数の人気作品がある。また、音楽業界への造詣も深く、当時下火だった演歌を題材に書いた『涙の河をふり返れ』は、後の藤圭子の販売戦略に使われた。12年には、『親鸞 激闘編』(上下巻・講談社刊)を上梓し、極上の知性を発揮した。