【岩井志麻子】格安風俗店のサツキvol.2 ある日、突然いなくなって…

格安風俗店のサツキvol.2 ある日、突然いなくなって…
ハードなサービスが売り物の格安店。となれば、若くて可愛い子がいるわけはない、と最初からわかるだろう。いても、何かがやばい女だろうとは見当がつく。
その店には、若いのに変に落ち着いた店長がいる。取材に来た女性編集者に、サツキという女の話をしてくれた。自称、見える人。アタシ霊が見えるという種類の女だった。
「サツキは見える人なのに、見えない。っていうか、それこそ霊感ゼロの誰もがサツキの見せる写真に、変な中年女性の顔がいると見てるんですが。サツキだけは見えない、私と彼氏しか写ってないといい張る。他の人のなんでもない写真を見ると、いちいちここに顔があるだの手が写っているだの、単なる影や模様を見て騒ぐのに」
おもしろいんだか怖いんだかわからない話を聞いて、何カ月か過ぎた頃。女性編集者は再び店長に会う機会があったので、例のサツキちゃんは元気かと聞いてみたら……。
「あの子、いなくなっちゃったんですよ。五月に入ってすぐ」
と、あっさり答えられた。こういう世界の子は、辞めるといわずに辞めて、休むと連絡せずに休む子も少なくない。たいていは人気のない子、売れない子だ。そして、店長にいわせれば霊が見えるといいがちな子だ。
「でもうちって、ユルいでしょ。ふらっといなくなったのに、悪びれずにまたふらっと戻ってくる子もけっこういるんですよ」
それこそ、女性編集者も霊感ゼロの何も見えない人だが。なんとなく、サツキはもう店には戻ってこない予感がした。それをいうと、店長もうなずいた。
「僕も霊感ゼロですが。サツキはすでに、この世にもいない気がします」
岩井志麻子(いわい しまこ) プロフィール1964年12月5日生まれ
A型
高校在学中の1982年、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入選。少女小説家を経て、1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が選考委員の絶賛を受けて、日本ホラー小説大賞 を受賞。 半生を赤裸々に語るトークや「エロくて変なオバチャン」を自称する強烈なキャラクターが注目を集める。