千葉県で起きた野口愛永さん（18・画像）を生き埋めにした殺害事件。当初は金銭の貸し借りのトラブル等が報道されていたが、実は逮捕されている18才の少女と被害者はホスト絡みで揉めたこと。また、卒業アルバムの貸し借りのトラブルが発端との見方が強まってきている。扇動した人間も複数いるようだ。

　今回筆者が注目したのは、この「卒業アルバムの貸し借り」である。なぜ卒業アルバムに価値があったのか、そしてこれらを何に使うのか。この事件を聞いた時、ある人物が脳裏に浮かんだ。その男は過去に偽造免許証、偽造パスポートを作っていた。１年ほど前に会った時に「今は同じ偽造でも、真面目に卒業アルバムです」と言っていたのを思い出した。なぜ、卒業アルバムなのか？ 改めて点と点が一致した。久し振りにこの男Ｓ氏に会って話を聞くことができた。

ーー以前、偽造の卒業アルバムを作ってると言っていたのを思い出したんだけど。

「ああ、話してましたっけ？ 通常の卒業アルバムは学校を卒業した記念に貰うものですけど、オレらが請け負うのは学校からじゃない。あくまで個人からの依頼ですね」

ーー一部でも報道されていたが、その用途は「風俗店の面接用」ということになるのか？

「そうです。今では年齢確認のために履歴書や身分証なんかより、卒業アルバムを必須だという風俗業者が増えていますね。まあ、女の子を囲い込んで逃げられないために卒業アルバムを提出させるっていう考えもあるみたいですけど」

ーー何冊も依頼が来るほど需要があるものなのか。

「それは今の風俗業界の雇用システムが関係しています。新たな店に卒業アルバムを提出して体験入店を繰り返せば、その店では『新人入店』とか大きく宣伝を打ってもらえて、待遇も良かったりする。とくに性風俗店の場合はキャバクラと違って、新人好きの客がかなりつくんですよ。そんな理由から、いろんな店を渡り歩いている女の子が多い。それも自分がいた店を無断でばっくれて辞めるんで、卒業アルバムが何冊も必要になってくるんですよ」

ーー具体的にはどのようにして依頼が入るのか？

「女の子が個人で来るケースもあるけど、売り掛けをためたホストに連れられてくるパターンやスカウトに連れられてくるパターンもある。うちに来る子は学歴がない子が多いんで、偽造するのは中学校の卒業アルバムが多いですね。まあ、中学のアルバムなら卒業から数年経ちますし、顔も変わっているから偽造がバレにくいというのもあります」

ーー卒業アルバムを偽造してバレないものなのか？

「基本的に個人写真と卒業年度と学校名の入れ替えだけですから、赤の他人には100％見破れませんね。とくに風俗業者は面接に来たその子の確認しかしませんしね。だから例えば、同じ業者に同じ卒業アルバムを提出しても、学校名さえ変わっていれば絶対にバレません。そのためにも丁寧に偽造していますから。きちんと製本もしているし、注文した女の子の本籍地に合わせて実在する学校で作っていますから。だからリピーターも多いんです。だいたい一人で複数冊注文しますね。女の子は絶対に儲かるでしょ。お客さんは初めは口コミで都内だけだったですけど、その女の子が地方に飛ぶじゃないですか。だからいつのまにか日本でも有数の風俗街に女の子のお客さんはいるようになっています」

ーーちなみにそういった「偽造卒業アルバム」の費用は？

「女の子がどれくらい材料を用意できるかで若干前後しますね。例えば、注文する女の子の中学生時代の写真がない場合、今のすっぴん写真から画像ソフトで加工したりで手間もかかるし。だいたい引き渡しまで1週間で、一冊注文の場合は5万円からですね。複数注文で割引がしたりはします」

　以前より、悪質な性風俗の店舗は女の子を逃がさないために運転免許証やパスポート、住基カードを取り上げるといった行為を繰り返してきた。だが、それらの身分証明書はどれも再発行が可能だ。やがてより強い拘束力を持つ一冊しか持ち得ない卒業アルバムの提出・保管が広まっていったのだ。

　最後にこんな質問をぶつけてみた。罪悪感はないのかと。すると即座に「偽造免許証とかパスポート作っていた時のことを考えると全然ないですね」という答えが返ってきた。厳密には、卒業アルバムの偽造は刑法に抵触しにくいだろうが、だからといって野放しにしていい商売でもないような気がする。裏社会には、次々に隙間産業が生まれている。

Written by 西郷正興