認知症の老人が死の間際に… 音楽が起こした奇跡

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認知症の老人が死の間際に… 音楽が起こした奇跡

 人が亡くなるとき、意識を失い、目を開けることも話すこともできなくなっても、聴覚だけは残っているという。末期がんの患者やその家族のために行われるケアであるホスピスの現場では、「音楽」の力がとても大きな役割を果たしているのだ。

 『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(佐藤由美子/著、ポプラ社/刊)は、ホスピスで1200人以上の患者を看取ってきた米国認定音楽療法士の佐藤由美子氏が、心あたたまる語る感動のノンフィクションを語った一冊である。

 佐藤氏は、アメリカの大学院在学中に「音楽療法」と出会う。音楽療法とは、患者やその家族の心身の回復、向上を促すために効果的に音楽を利用するというもので、音楽を共有することで、末期の患者が自分の気持ちを表現できるようになったり、家族との時間を有意義に過ごせるようになったりするという。
 冒頭にように、聴覚は最期まで残るため、音楽療法はホスピスにおいて非常に重要な役割を持っている。

 ホスピスの患者は、潜在意識で自分の死期が近いことを察しているしか思えないような言動をとることがある。では、アルツハイマーなどで認知的な能力が弱まった人の場合はどうなのだろうか。
 佐藤氏が音楽療法のインターンシップをはじめて、最初に受け持ったのが、ハーブという80歳の男性だ。彼は老人ホームに住むアルツハイマーの患者だった。以前は社交的な性格で、部屋でじっとしているよりも、デイルームなど人の集まるところが好きだった。しかし、病状が悪化し、ほとんど言葉を話せなくなると、人とのコミュニケーションは日に日に難しくなっていく。音楽療法の依頼が来たのは、音楽によって気持ちを落ち着かせたり、脳を活性化するためだ。委託書には「ハーブは昔、ジャズシンガーだったので、音楽療法に適していると思われる」と記されていた。

 8月の猛暑日。佐藤氏は老人ホームに出向く。ジャズのスタンダードを佐藤氏が演奏し、ハーブは歌の間だけは生き生きとリズムをとったり手をたたいたりして、廊下で居眠りをしていたときとは別人のようだった。

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