本好きリビドー(111)

| 週刊実話

◎快楽の1冊
『代体』 山田宗樹 KADOKAWA 1700円(本体価格)

 SFというジャンルはなかなか厄介で、でも面白いものでもある。書き手側からすれば、創造する喜びを楽しめる。今にない別の空間を創り、そこでの人間関係やストーリーを展開していくのは、創造主としての王者の気持ちを味わえる。
 しかし同時に厄介なのだ。すべてを考える、という厄介だ。昔の江戸時代や明治時代をもとにすることもできない。今の事象を応用することもできない。ただひたすらに、頭の中で新しい世界を構築していくというのは、ものすごく大変なことである。ある種の狂気を持っていなければ、書き上げることはできないだろう。だから厄介で面白い、と言えるのだ。
 読み手の側について言えば、今、生きている厳しい現実を忘れさせてくれるフィクション・ジャンルとして、SFを楽しむ気持ちはあるだろう。
 すべての読者がそうだ、とは言い切れない。しかしそういう人も少なからずいる、と言い切れる。現実をきちんと見つめることができない、辛い、と思うことはある。現実の人間関係は面倒くさいな、と感じ続け、そこから逃れたくなるのである。皆、そうなのだけれど、とりわけ、現実を回避したい方はSFを好む傾向があるのではなかろうか。どうだろうか。
 ともかく、私個人はSFフィクション好きの作家や読者を尊重しているのだけれども、現実逃避の狂気と喜びもSF創作、鑑賞に含まれているのは確かではないか。
 本書『代体』の作者は2013年に『百年法』で日本推理作家協会賞を得た。このとき、SFとミステリーを合体させる作家と世間に認められたのだ。そして本書。人の意識を別の肉体に与え、生死をあやつられる時代を描いている。こんな時代が果たして来るのか、疑うけれども、空想すると楽しい。そう、空想は楽しいのだ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
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