田中角栄 日本が酔いしれた親分力(9)番記者たちも田中のトリコに

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田中角栄 日本が酔いしれた親分力(9)番記者たちも田中のトリコに

 田中は、通商産業省(現・経済産業省)の幹部職員たちとの宴席の場でも、他の宴席の場のようにふるまった。

「俺が君たちのところを回るから、君たちはじっとしてろ」

 そう言って、一人ひとりを分け隔てすることなく、酒を注いで回った。

「君、どっかで会ってるよな」

「はい。○○の件でお会いしています」

「ああ、そうだった。あの問題だったな」

 田中と幹部職員の中には、田中が自民党幹事長時代に会っている職員も大勢いた。その時のことを、田中は覚えていた。田中の記憶力は、抜群だった。

 小長啓一は、こんなことを言われたことがある。

「俺は、政治家になるまで、自分の名刺なんか持たなかった。相手から名刺をもらう意味はあるが、相手の方にすれば、俺の田中土建の名刺なんか糞くらえで必要なんかないだろう。それに、名刺をもらうと顔を覚えない。俺は名刺をもらわず、相手の顔を覚える。君らは、すぐ名刺交換をするから忘れるんだ」

 田中の方から「どこかで会っているよな」と言われれば、幹部職員たちも覚えてくれていたのかと感動する。そこから話はどんどんはずみ、通産大臣と幹部職員たちの距離は一気に縮まってしまう。

 田中角栄番となった政治記者は、千代田区平河町にある砂防会館内の田中事務所に挨拶に出向いた。

 田中は、ダミ声を張りあげ、いきなり具体的な政局について話し始めた。

 ちょうど昼時であった。

 田中は言った。

「君、昼飯は」

「まだです」

「それじゃ、ラーメンを一緒に食おう」

 秘書に命じ、出前をとった。

 記者は、それまで何人もの政治家とつきあってきたが、初対面で食事を共にした政治家はいなかった。

 彼は、強烈な印象を受けた。

〈何て気さくな人なんだ。これまでつきあってきた政治家と、どこか違う〉

 政治部の記者たちとは、目白の田中邸で、毎朝8時から10分~15分ほど懇談する時間が用意されていた。田中は、一部の新聞社だけを優遇するような特ダネは一切出さなかった。

 記者たちを眼の前にして、田中は宣言していた。

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