連日熱戦が繰り広げられた第98回全国高校野球選手権大会が、作新学院(栃木)の54年ぶりの優勝で幕を閉じた。
今夏は日本のメダルラッシュで沸くリオ五輪と日程がかぶったものの、連日甲子園には超満員の高校野球ファンが詰め掛けた。
「甲子園の雰囲気にのまれる」とよくいわれる。甲子園の大観衆は時として球児たちをのみこんでしまうことがあるからだ。
このことを昔から「甲子園には魔物が住んでいる」という人もいる。
この“魔物らしきもの”があらわれたのは、大会第8日の第3試合だった。
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■甲子園にのみこまれた選手たち
八戸学院光星(青森)との2回戦、東邦(愛知)は4点ビハインドで9回裏の攻撃を迎えていた。
先頭打者の鈴木光稀が左前打で出塁し、場内の雰囲気が一変。東邦の大応援団の手拍子を使った応援に合わせ、超満員で膨れ上がった観衆が手拍子を叩く。
チャンスが広がると、応援団はタオルを振り回し打線を鼓舞していく。観衆も面白がるように、手持ちのタオルを一斉に振り回す。見渡せば360度、タオルが回る球場の光景は、守備につく八戸学院光星の選手たちにプレッシャーを与え続けた。
この一気加勢の雰囲気に後押しされたのか、東邦打線がつながり、八戸学院光星は力尽きる。サヨナラの瞬間、守備についていた何人もの選手がグラウンドに泣き崩れた。
マウンドに立っていた八戸学院光星の櫻井一樹は「全員が敵なのかと思った」と、試合後に述べている。
もちろん、試合をあきらめなかった東邦の選手たちも褒め称えられるべきだ。
ただ、試合後、近くで観ていた野球少年らしき男の子はつぶやいた。
「東邦の攻撃と周りの雰囲気はえぐかった。でも光星の選手はちょっとかわいそうだった」