◎快楽の1冊
『あなたに不利な証拠として』 ローリー・リン・ドラモンド/駒月雅子=訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 900円(本体価格)
古典的名作、というものは確かにある。夏目漱石や太宰治が書いた傑作の数々を今の私たちは堪能しているのだけれど、この作家たちは、はるか昔に亡くなっている。死んでもなお、その小説を多くの人が愛する。
はっきり言えば作者当人は、亡くなる瞬間、自分の作品が今後も名作として読み継がれていくだろう、などと明確な自信を持っていたはずはない。つまり、作品のよし悪しを決めるのは結局のところ多くの読者たち、ということになる。存命中に売れる作品を連発していた作家がいるとしよう。しかし、死後にも売れ続けるかどうかは誰も予言できない。
漱石、太宰はあまりに有名過ぎるわけだが、こういうことはもちろんミステリー、冒険小説等にも当てはまるのである。松本清張がいる。あるいは目先を変えればイアン・フレミング、エリック・アンブラーといった作家が書いた海外の冒険小説作品も読み継がれている。
ただし、こうも言える。今現在、生きている作家のどの小説が将来も未来永劫生き残っていくのか、予測するのも面白いのではないか、と。
本書『あなたに不利な証拠として』は2004年に本国アメリカで刊行された連作短篇集だ。'06年に邦訳刊行された。
何人か別々の女性警官が独白をする短篇が集まって、収められている。そのどれもが決して明朗ではない。犯罪に接するとき、実行犯なり被害者なりの人生と向き合うことも警官の仕事の一つである。いずれの短篇でも、語り手の彼女たちは過去の自分の人生をとことん思い返し、他者の人生と向き合う。傍観者ではない、この必死さが感動を生むのだ。なるほど、現実の警官たちもそうなのかもしれない。リアリティーが並々ならぬものなのだ。今後も読み継がれていく短篇集、だと思う。
(中辻理夫/文芸評論家)
【昇天の1冊】
オヤジ世代にとって、銭湯は郷愁を誘う存在だ。最近はめっきり姿を消しつつあるが、家の風呂と違う熱めの湯に、足を伸ばしてのびのびと入る浴槽は、今も癒やしの場である。
だが、銭湯がどのように誕生し、いかなる歴史を刻んできたかを知る者は少ない。
本好きリビドー(127)
2016.10.29 16:00
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