音楽の殿堂、NYカーネギーホールで今も一番人気となっている伝説のリサイタル。類稀なるオンチだったにもかかわらず、満席にしたという1940年代の実話をもとにした映画です。
脚本家が「この役を演じられるのはメリル・ストリープだけだ」と指名したそうですが、確かに納得させられる“怪演”です。
今でも当時の本人(フローレンス・フォスター・ジェンキンス)の歌声をYoutubeで聴く事ができるんですが、メリル・ストリープの演技が「完コピ」と分かります!
メリルはプロのオペラ歌手でも難しいアリアを、まず上手く歌うことから始めて、そこから段階的にわざと音程をはずしていったらしいんですが、そもそも自分はもともとの原曲がどんなものかも知らないので、そのギャップが今イチ分からない。むしろ、「超オンチっていうほど、ひどくないんでは?」とさえ思えてしまう。こんな高音、普通は出せませんから。メリルの演技と歌声は、当人を知らぬ自分をも映画として楽しませてしまうのですから、あちらの事情を分かっている人が見たら、さぞや喝采ものなのでしょう。
さて、この映画で印象的だったのが、「余計な説明は一切しない」こと。
理屈っぽい自分は、すぐに「なんで?」とか、「つじつまが合わない」とか、頭に「?」が浮かんでしまうのですが、脚本家から「事実がそうだったの。ヤボなことはいちいち言わないの」と諭されているように感じるほどです。
主人公には、ヒュー・グラント演じる年下の事実婚のダンナがいます。この男、付き合っている若い彼女がいたとしても、結局は妻であるフローレンスに一生を捧げている。見ている側は、何でそこまでと思いますが、その献身の仕方が財産目当てとは程遠い心酔っぷり。しかし、その理由は一切描かれない。
夫はもちろん、専属のピアニストも、周りの人たちも、最初は多少の抵抗はあるものの、いつの間にか彼女に入れあげている。もはや観客である我々も四の五の言わず、フローレンスの前にひれ伏すしかない気持ちになってきます。「諸事情はお汲み取りください」という強引な引き算も、時には必要だと学びました。
ところで、見終わった後にカミさんが「そういえば子供の時、音楽の時間にオンチな子がいたけど、誰もからかわなかったよね」と。
やくみつるの「シネマ小言主義」 メリル・ストリープの怪演にひれ伏すしかない 『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』
2016.12.12 14:00
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