山口県の周防大島や、広島県廿日市市の厳島や島根の石見、愛媛県の複数の地域、更には九州福岡の豊前には、戦前の頃までは「人が亡くなること」を婉曲に表現する、興味深い言い回しが存在した。その言い回しは、「広島に行く(特に、何らかの品物を買いに行く)」というものである。こうした、人の死を「○○(実在する具体的な地名)へ行く」と表現する言い回しは、沖縄でも報告されている。沖縄県の名護市には、「奥武(おう)島」という名の島があり、古くは人が亡くなることを、「オウに行く」という言い回しがあったという。
■東日本にも存在した人の死に関連した独特な表現
これらの、人の死を「◯◯へ行く」と表現する例が報告されている地域は、沖縄も含めて西日本に集中している。東日本では、このような言い回しを生む信仰は、余りなかったのだろうか。
結論からいうと、東日本では若干異なる信仰が一般的であった。ではどうであったかというと、既に死後の世界に渡った死者の魂が、盆などに一時的にこの世に戻った際に、物見遊山や買い物をしたり、農村部などでは田畑などの見回りをしたりすると信じられていた。
■ナスやキュウリの馬に乗って買い物に行く
例えば、静岡県沼津市では、「盆期間中に、この世に滞在している先祖の魂が、ナスやキュウリの馬に乗って神田に買い物に行く」といわれる例が報告されている。また、同じく静岡県の東伊豆町の一部では、盆の時期にこの世に戻った先祖の魂は、田畑の見回りに行くとされる。この「盆にこの世に戻った死者が、田畑の見回りに行く」とする信仰は、筆者の出身地を含む関東地方にも、広く分布している。
ところで興味深いことには、西日本の幾つかの地域の「広島へ行く」という言い回しと、沼津市での「神田に買い物に行く」という言い回しには、その死者がいつの時点でそこへ出かけるかの違いはあるが、どちらの言い回しでも、死者が「買い物をする」とされる点で共通している。
■「買い物をする」という共通点
沼津市の例では、死者が神田で何を買うのかについては、語られていない。
地域で異なる「人の死」に関連した様々な言い回しや独特な表現とその共通点
2017.01.25 19:00
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