本好きリビドー(144)

| 週刊実話

◎快楽の1冊
『罪の声』 塩田武士 講談社 1650円(本体価格)

 1981年に起きた、かい人21面相による「グリコ・森永事件」は日本で最初の劇場型犯罪として、今なお、私たちの記憶に強く残っている。犯人とされるキツネ目の男の存在や、子どもの声を使った身代金受け渡しの指示など、さながらTVドラマのごとく世間の耳目を一気に集め、そしてそれは青酸カリ入りのお菓子がばらまかれたことによって震撼へと変わった。
 元新聞記者の著者は、この事件を題材に小説を書こうと15年以上も構想を練っていたというだけあって、実際の事件のディテールが物語の全編にわたりしっかりと敷き詰められている。犯人と警察の息をのむような緊迫感のあるやり取りなどは、もはや、ノンフィクションを読んでいる錯覚にとらわれてしまう。
 犯人を追い詰めていく主人公は、新聞社の文化部で芸能記事を書いていた記者の阿久津英士。そして、もう一方の主人公、曽根俊也は、あることがきっかけで身代金取引の声が自分の幼少期の声と気が付いてしまう。身内に犯人がいるかもしれないという恐れを抱きながらも、その秘密を紐解くために行動を開始する。やがて彼ら2人が出会った時に、あの謎とされるキツネ目の男の正体が明らかになる。
 実際に犯人たちが行動した足跡をたどりながら、筆者自身が「あの時の裏にはこんなことがあったのではないか?」という疑惑を見事に事件に落とし込んでいく様はまさに圧巻の一言。ただ、登場人物の思惑通りにすんなりと話が進んでしまうきらいもあり、少々、ご都合主義な展開にもう一捻りほしかった。
 店頭に並ぶお菓子にフィルムが貼られることになったのも、この事件の後からのこと。グリコのおもちゃを取り出すワクワク感を思い出し、いざ、お菓子のフィルムを剥がす気持ちで、本の扉を開いてほしい。
(小倉圭壱/書評家)

【昇天の1冊】
 アメリカの著名ジャーナリストの元に、コロラド州のモーテル経営者と名乗る男から、1通の手紙が届く。手紙には、モーテルの天井に通風孔に見せかけた穴を開け、「私は最上のセックスを屋根裏で目撃してきた」という、信じられない告白がつづられていた。
 そして、ジャーナリストは男と直接会って取材を敢行し、屋根裏部屋を案内される。小説ではない。

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