本好きリビドー(153)

| 週刊実話

◎快楽の1冊
『蒲生氏郷 武田信玄 今川義元』 幸田露伴 講談社文芸文庫 1300円(本体価格)

 アベノミクス“3本の矢”という表現は、首相の地元山口=長州藩の祖にちなみ、毛利元就が3人の息子に与えた遺訓に由来するといわれる。しかし、この逸話が歴史的事実でないこと(元就の長男・隆元は父に先立ち死去)も昨今周知の話で、「自分に面白いと思われるものを面白いとして嬉しがって信受する人が世間には多いからして、虚談は何時の世にも幅を利かせて、終には実際の方が却って虚談に圧せられるようになる」。
 文豪・幸田露伴が大正の末から昭和初期にかけて3人の戦国武将を題材に、その実像を自由自在に論じた史伝をまとめた本書は、昨年装いを新たに刊行されたばかり。“講釈師、見てきたような…”ではないが、寄席での名高座を録音で起こしたものかと錯覚しかねないほど、余談・脱線盛りだくさん(これがまた楽しい)な語り口調すれすれの文体が、とにかくリズミカルで読みやすい。
 史上の人物については往々にして類型的に、もしくは一つのエピソードだけで分かったつもりで片付けてしまいがち。例えば、信玄が若き日に父・信虎を追放して家督を継いだ話は彼の苛酷さ、容赦なさを象徴するものとして伝わり、義元なら大軍を率いながら桶狭間でぶざまに首を取られた結果がすべてで、信長の引き立て役、いわば「残念な」武将扱いなのが正直なところだろう。氏郷にいたっては、ひと昔前の「歴女」にすら振り向いてもらえない渋さと地味っぷりで、プロ野球選手でいえば元近鉄→ダイエーのカズ山本を連想してしまう。
 それはさておき重要なのは、史料を吟味しつつも、うそを事実でないという理由だけで一刀両断せず、その物語が形づくられる必要性まで公平に目配りする筆の奥行きだ。仮に、自分が3人のうち誰かの子孫だとしたら、思わず露伴に礼を言いたくなる、心潤う一冊。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 『宝くじで1億円当たった人の末路』(日経BP社/1400円+税)とは何とも衝撃的なタイトルだが、「宝くじ」だけがテーマの本ではない。

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