巨人V9の「意外な功労者」【二宮清純のスポーツコラム】

| 日刊大衆



 懐かしい名前がスポーツ紙の一面に登場した。「エースのジョー」と呼ばれた元巨人の城之内邦雄である。巨人の菅野智之が5月9日の阪神戦(東京ドーム)で完封勝ちを演じれば4連続となり、1965年の城之内の記録に並ぶというものだった。

 日刊スポーツ(5月9日付)には<エースのジョー 1球入魂の教え>という見出しが躍っていた。結局、菅野の野望は初回に砕け散った。10球目で失点を喫し、4点を奪われ負け投手となった。それでも分業制の時代での3連続は見事だ。

 ところで城之内が4連続完封の記録を打ち立てた65年といえば巨人のV9がスタートした年である。この年、城之内は21勝(12敗)をあげた。そのうち、完封が6つ。調子のいい時の城之内は、手が付けられなかったイメージがある。

 昨年、城之内に「V9の功労者は?」と聞いたところ「鈴木章介さんでしょう」という答えが返ってきてちょっと驚いた。鈴木章介と言えば、プロ野球における日本初のトレーニングコーチである。1964年の東京五輪には十種競技の選手として出場している。

「野球と陸上競技は違う」「走り込むくらいなら、他の練習をやらせた方がいい」 鈴木のコーチ就任にあたってOBから好意的な声はほとんど聞かれなかった。

 しかし、城之内によると、現場は違ったという。「鈴木さんがくるまで、調子が悪くなると王貞治さん、長嶋茂雄さんは打ち込みをやっていた。鈴木さんの指導で打撃練習の前にしっかり走り込むようになった。体からボンボン湯気が上るくらいにね。あれがよかったんだ」

 もちろん城之内も短距離を中心に徹底的に走り込み、足腰を鍛え上げた選手のひとり。「走り込みなくしてV9はなかったでしょう」 レジェンドの教えである。

二宮 清純 (にのみや せいじゅん)
スポーツジャーナリスト。(株)スポーツコミュニケーションズ代表取締役。1960年、愛媛県生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開中。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」「プロ野球“衝撃の昭和史”」「最強の広島カープ論」「広島カープ 最強のベストナイン」など著書多数。スポーツ情報サイト「SPORTS COMMUNICATIONS」:http://www.ninomiyasports.com/

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