森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 働き方改革の本筋は

| 週刊実話

 電通の女性社員が過労自殺した事件を受けて、働き方改革の推進が大きな関心を集めている。
 政府も、3月28日にまとめた「働き方改革実行計画」のなかで、残業時間を年間720時間、繁忙期は月100時間未満とする罰則付きの残業時間規制を打ち出した。労働基準法の改正を経て、'19年4月から施行される見通しだ。

 私は、ワークライフバランスを見直すこと自体には賛成なのだが、その進め方については、慎重に考えなければならないと思っている。
 例えば、政府の動きを先取りする形で、多くの企業が残業規制を強化している。時間を決めて、社内の照明を一斉に消したり、コンピューターの電源を落としたりしているのだ。
 しかし、そうした仕事の「強制終了」は、中途半端なところで仕事を打ち切ると効率が落ちるし、持ち帰り残業を増やすことにつながっている。

 さらに、若者の意識変化も大きな問題だ。
 マイナビが毎年行っている「大学生就職意識調査」によると、企業選びのポイントとして、大学生が「自分のやりたい仕事ができる会社」を挙げた割合は、'13年卒の44.5%から'17年卒の38.4%へと、6.1%減っている。一方、「休日・休暇の多い会社」を挙げた学生は'13年卒の4.3%から'17年卒では8.5%へと倍増しているのだ。
 実際、売り手市場が定着するなかで、学生たちは、残業をさせる企業に「ブラック企業」というラベル貼りをするようになっている。彼らは、夜10時頃に、就職先として関心のある企業の近辺に双眼鏡を持参してまで出向き、残業をしている様子を確認すると、SNSでブラック情報を発信しているのだ。
 私は、ワークライフバランスを語ってよいのは、一人前になってからだと思う。入社して3年くらいは、使い物にならないのだから、本来は必死で働いて仕事を覚えるべきなのだ。そこで、中途半端な仕事をしていたら、本人のためにもならない。

 私は、働き方改革を進めるために必要なことは、時間を規制することではなく、残業代をすべて支払うことだと思う。残業代を支払わなくてはならないと思ったら、企業は無駄な残業をさせなくなる。

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