妻・雪子の他界後、ヤモメになった吉田茂には、じつは愛した“陰の女性”がいた。本名・坂本清。花柳界・新橋で踊りの名手として名を残した老妓「おちゃら」の養女、名妓「小りん」である。
前号でも登場した夫妻の3女・麻生和子は、その著『父 吉田茂』の中で、小りんとの関係を次のように記している。雪子が存命中から、吉田との関係があったことが偲ばれる。
「戦争前に小りんに初めて会ったとき、私はまだ15、16歳で、小りんは私より7つ、8つ年上、23、24になっていたでしょうか。小りんの踊りは花柳流で、私も同じ流派でしたからその点でも私もわりに親しくしていたのです。小りんが父を好きだったのは早くから知っていましたし、父のほうも頭の回転が速くよく気がつく小りんを気に入っていました。(首相在任中、座敷に小りんを呼ぶときは)あくまで私が呼んだということにしておかなくては、あとあとの押えができません。で、私のほうから『小りんに来てもらうのはどうかしら』と父に言うと、『やっぱりおまえは頭がいいね』とまんざらでもない顔をしていたものです」
吉田は粋人であり、若い頃から花柳界での“四畳半遊び”をよく楽しんだ。人さまからの接待などは大嫌い、すべて身銭を切って遊んだ。吉田11歳のとき貿易商だった養父が病死、その遺産、いまなら数十億円のあらかたを、こうした花柳界でキレイに使い切ってしまったことは前々号でも記した。“驚異の遊び人”とも言えたのだった。
芸事は自分はやらぬが見るのは大好き、そのうえ女性には誰でも優しいフェミニストときたから、芸者衆からは大モテ。しかし、そうした女性たちと次々に情を通じるタイプではなく、身持ちの堅い男でもあった。そのうえで、雪子夫人とは性格もまるで違う、気の合う小りんだけは、“別物”ということだったようだ。
一方、首相の座に就いた吉田は、都合7年2カ月の長期政権をまっとうしたが、この間、二つの大きな功績を残したと言えた。
一つは、敗戦後に交戦国との単独講和か全面講和かで国内が二分する中、ソ連(注・現ロシア)など共産圏諸国を排除した形で、自由主義国、とりわけ対日講和を望むアメリカとサンフランシスコ講和条約を結ぶと同時に、日米安全保障条約に調印した点であった。
天下の猛妻 -秘録・総理夫人伝- 吉田茂・雪子夫人(下)
2017.06.19 14:00
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