池田勇人・満枝は、池田が「一万人に一人あるかどうか」と言われた難病の闘病中に結婚した。池田は大蔵省に入省して間もなく、天疱瘡にかかり、全身からうみが出、皮膚がただれてかさぶたにおおわれてしまうといった悲惨な生活を、4年弱よぎなくされている。うみを抑えるための全身の包帯を替えるだけでも2、3時間を要し、池田が苦しがるのを、看護している者が皆で手足を押さえる以外なすすべなしの状態だった。医者も、さすがにサジを投げたのだった。
当時、実は池田は広沢金次郎という伯爵の娘の直子と結婚していた。その直子は昼夜を問わずの看病疲れと心労から狭心症を起こし、亡くなっている。病状が悪化し大蔵省を退官、広島の実家で療養中、すでに前妻を亡くしていた池田は、折から行儀見習いとして池田家に身を寄せていた満枝と再婚することになった。
満枝も生まれは池田と同じ広島県竹原市で、家業は医者。両家は満枝の父親と池田がいとこ同士だったことから、二人は“いとこ半”の間柄になる。満枝は率先して看病にあたった。当時を知る元池田派代議士のこんな証言がある。
「失意の池田はあまりの苦痛から、自殺を考えたこともあった。一方、満枝夫人は池田の体から吹き出すうみを、口で吸って看病したりした。もっとも、こうした満枝の誠心誠意に対し、無骨でわがままな池田は布団の上から、『おまえはなんとも気のつかん女だッ』などと一喝したこともある」
その難病は満枝の献身的な看病もあってか、奇跡的に治癒、池田も優秀な官僚であったことから大蔵省の先輩の尽力あって同省への復職がかなった。前出の元池田派代議士のこんな証言も残っている。
「難病が治癒したあと二人は挙式したが、挙式に満枝夫人はあえて亡き直子さんの振り袖を着て出たんです。池田の身代わりで亡くなったと、前妻への哀悼、感謝の気持ちだった。また、二人の間に長女が生まれると、長女にあえて“直子”という名前まで付けた。さらに、満枝夫人の思いから池田邸には亡きこの前妻の写真が飾ってあり、さすがの池田も『もういいから、あの写真を引っ込めてくれんか』と言っていた。並の女性には、とてもできることではなかった」
そのくらいだから、満枝の池田の周囲に対する気配りも並々ならぬものがあった。
天下の猛妻 -秘録・総理夫人伝- 池田勇人・満枝夫人(下)
2017.08.11 10:00
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