本好きリビドー(186)

| 週刊実話
本好きリビドー(186)

快楽の1冊
『笑福亭鶴瓶論』 戸部田誠(てれびのスキマ) 新潮新書 820円(本体価格)

 山本周五郎の小説に出てくる人物は、大抵報われない。ほとんどと言ってよいほど彼らの人生はままならず、他者のために良かれと計らったことは裏目に出、あまり目立たぬところで積み重ねられた努力と配慮は決して顧みられることなく労られ、ねぎらわれ、慰められず誉められぬまま。しかし、黙々と信じてなされた逐一を、必ずどこかで見届けている存在がいる…。それが「語り手」だ。
 本書の著者は周五郎文学におけるその語り手の位置に似ている。アクセスできる一次資料だけを頼りに、緻密かつ肌理こまかく丁寧に、日本のお笑い史上空前の“人ったらし”の魅力の根源に迫ろうとする初の試みではないか。
 押しも押されもせぬ大御所、大物芸人を掴まえて今更、報われなさは無縁だろうと思いきや…、たけし、タモリ、さんまのビッグ3やダウンタウンと比較して後続世代に与えた影響の絶大さ、あるいは揺るぎない不動のカリスマ性などの諸点で大きく異なるとしながら(『良い人だけどあこがれないなぁ…』by内村光良、『絶妙の、最高の状態でナメさせてくれる先輩』by宮迫博之等々、惨々な台詞を投げかけられつつ)鶴瓶こそ「最強」であると説く著者の、キーワードは「スケベ」だということ。
 もう10年以上前、早大の大隈小講堂で開催された「わせだ寄席」での高座がすごかった。自身の高校時代を振り返り、その頃ひたすらオモチャにした教師の思い出を緩急自在に語り倒す“私落語”「青木先生」の爆発的なウケ方は尋常一様でなく、他の噺家を容赦なく蹴散らしていたのを思い出す。
 筆者はちなみに最末期の「笑っていいとも!」で2回、鶴瓶師匠と共演できた。2度目に本当に「覚えてるよ」と言われたのを忘れない。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 新春1月7日からNHKの大河ドラマ『西郷どん』の放送がスタートする。そこで今回は、ドラマ鑑賞の手引きとして『西郷隆盛大全』(廣済堂出版/1200円+税)というムックを紹介したい。西郷の生涯・人脈・思想、そして教科書で教えられた従来の史実とは違う新説まで織り交ぜた、興味深い、かつ分かりやすい1冊となっている。
 西郷は、実は謎に満ちた人物だ。

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