初霜起想
春霞ひけの合図に拍子木の 数も九つうちかけの龍
歌川国芳「風俗女水滸伝 九紋龍史進」より
文政七年 正月 (1)桃、水色、赤。
あの男の歩く後には、花が咲く。
色とりどりの綺麗なべべを着た子どもが、けらけら明るい笑い声を立てて男の後ろに連なる様子を、人は花に例えた。花は皆、物心つく前に吉原遊廓の門を潜り、苦界を世間と教わった禿である。
正月二日。
江戸吉原遊廓の買い始めの日は、普段よりいっそう華やかで賑々しい。明け七つ(午前四時)から頬かむりの商人がわんさと入ってくる。
「道中すごろく、おたからおたからア~」
時間も気にせず素っとん狂な声を張り上げ、すごろくやら枕に敷く宝船の絵を売り始める。昼になると、中央大通りの仲之町は引手茶屋に挨拶廻りする女郎で溢れかえった。