秋津壽男“どっち?”の健康学「延命措置の一つ“胃ろう”はすべきかどうか。長期間の介護になる覚悟での決断をすべし」

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秋津壽男“どっち?”の健康学「延命措置の一つ“胃ろう”はすべきかどうか。長期間の介護になる覚悟での決断をすべし」

 胃ろうという処置方法をご存じでしょうか。食事などを口から摂ることができなくなった場合に、腹部を切開して胃に管を通し、食べ物や水分を流し込む方法です。いわば「人工的水分栄養補給」であり、寝たきりでみずから食事ができなくなったお年寄りや、若くして病気や外傷で食道機能に障害がある患者などに対して処置されています。

 では質問です。「認知症で寝たきりになったお年寄りに胃ろうは行うべきか、やらぬべきか」が今週のお題です。

 嚥下機能の低下による誤嚥性肺炎を防ぐべく食べ物を流し込むこの処置法は、老衰や末期がんの患者や、患者本人が望まない場合などは行われないこともあります。

 生き方に関わることでもあり、答えは難しいところで、人それぞれです。もし相談されたら私は「やらないほうがいい」と答えます。

 現代では多くのお年寄りが延命措置をされている現状があります。80年代にアメリカで開発された胃ろうは、劇的に日本の平均寿命を世界トップクラスに押し上げた例もあります。鼻からのチューブに比べ、患者の苦痛や介護者の負担が少ない点では画期的と言えます。また、ノドにチューブを通さないことで、病状が回復した際には口から食べるリハビリや言語訓練が行いやすいというメリットがあります。

 ただし、人間は自分で食事ができなくなる時が寿命であると私は考えています。胃ろうは人間の寿命を、長ければ10~20年ほど延ばしますが、意識のないまま生かされていることが、その人にとって幸せでしょうか。仮に私がそのような状態になった場合、意思を示せずに寿命を延ばされても拷問のように感じるでしょう。家族の意思は置いておき、意識があるのに動けず食事もできない、そんな状態で生かされるのはたとえ1カ月でも苦に感じます。

 ただし、交通事故で生死の境をさまよい、一定期間の胃ろうをやれば意識が戻りリハビリも行えるという場合や、高齢でも「意思を示せて動けるようにもなる」との見込みがある、あるいは家族が世話をしたいと望むようなケースは胃ろうの選択もありでしょう。

 北欧には寝たきり老人がいません。

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