本好きのリビドー(243)

| 週刊実話
本好きのリビドー(243)

◎快楽の1冊
『帝国の陰謀』 蓮實重彥 ちくま学芸文庫 1000円(本体価格)

★権力奪取の計画と第二帝政の幕明け

 本書を読了して思わず、大作『柳生武藝帳』で知られる五味康祐の短編『村越三十郎の鎧』を連想してしまった。

 村越三十郎とは何者か分かるかと聞かれ、「知らん」と答えた谷崎潤一郎に向かって、その親友が「明智光秀が竹槍で刺されたとき、ちょうど一歩前を通り過ぎた男だ。ぼくも歴史に名が残るなら、村越みたいな伝えられ方がいい」と語ったという…まあ絶妙にそそるエピソードで始まる導入部だったのだが、三十郎を「意識せず」「歴史の変わり目に」「立ち合って、思いも寄らぬ役割を果たした」人物とするならば、本書におけるド・モルニーこそピタリと当てはまるだろう。

 成人男性のおよそ4割は日常会話でつい使用した経験があると推定される、“歴史は繰り返す。最初は悲劇として、二度目は喜劇として”。マルクスが1851年のクーデターによって出現したフランス第二帝政を論じた「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」冒頭の文章から発展してすっかり常套句と化したこの台詞、世界史の教科書通りの記憶なら、あくまで権力奪取の主役はナポレオン三世だったはずだが、著者の筆致によって優雅で洗練された胡散臭さに満ちた異父弟、ド・モルニー公爵のほうこそミステリでいう意外な真犯人気味に浮かび上がってくる過程が実にスリリングだ。

 内務大臣をはじめ要職を歴任しながら、公務の合間を縫ってペンネームで執筆したのが荘重なオペラではなくごく軽快な喜歌劇だったというのも興が深いが、一見、他愛ないコント風のやりとりにかつてのクーデターの手口がほの見えてくる件りはやや背筋が寒くなる。してみれば自身の犯行を再現して観衆に手の内を明かしていたわけか。やはり悪趣味。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 頭の体操にちょうどいいだろうと考え、手にしてみたが、どっこい難問ぞろいの1冊が、『超超超超超超超超超超超超超超超超超超 むずかしすぎる まちがいさがし』(ワニブックス/税込755円)。なんと「超」が18個も付いたタイトルの本だ。

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